時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

久しぶりのアシュモリアン

2005年09月15日 | 絵のある部屋

アシュモリアン博物館(手前にみえるのが聖ジャイルズの像)  

  オックスフォード滞在中に最も見たいと思ったのは、アシュモリアン博物館Museum of Art and Archaeology であった。聖ジャイルスのお祭りSt. Geil’s Fair が終わった頃から、急速に秋の気配が強まってきた。8月から続いてきたヨーロッパ異常気象の一端と思われた酷暑の夏は、もはやどこにもない。カレンダーをめくると同時に秋になったような変化である。

世界一級水準の所蔵品
  アシュモリアン美術館は、現在はHeritage Lottery Fundの財政支援の下で運営されているが、所蔵品の充実振りは世界一級の水準といってもよい。1683年にイギリスで最初の公的博物館として開館した。今年から一層の充実を図るための大規模な拡大工事が進行している。  
  個人的には、1980年の日本週間に講師で招かれた時に最初に訪れて以来、90年には2度ほど訪問する機会があった。エジプト美術、ギリシャ・ローマ、中国水墨画、日本美術、ルネッサンス美術、膨大な銀器・装飾品から現代のガラス製品まで、膨大な所蔵品を誇っている。しかも、入場料はとっていない。さすがに、混雑を避けるため2万人という観光客がオックスフォードに押し寄せる聖ジャイルス祭の時は休館にしていた。

特別展:植物美術の1000年
   5月から9月11日までは、「新しい開花:植物画の1000年」A New Flowering: 1000 Years of Botanical Artと題する特別展が開催されていた。イギリス人の植物好きは良く知られているが、11世紀の作品から始まっているオックスフォードのシャーウッド・コレクションを中心に、過去30年におけるルネッサンスと呼ばれる作品群を含めて、凝縮された空間が展開していた。さまざまな花を精密に描いた図が多数展示されている。熱心に作品に見入る人で、この部門だけはかなりの混雑であった。

なつかしい作品との再会
  西洋絵画の部門では、いくつかのなつかしい作品に再会することができた。グレコの「聖マリア」、レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされていたデッサン、その素晴らしさに魅了されてしまうパオロ・ウッチェロの「森の狩り」などである。時間をかけて見てみたい作品が多く、すでに2日にわたってアシュモリアンへ通った。これについては、いずれ改めて記す機会を持ちたい。

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グローバル化の対応に追われるEU:繊維産業のケース

2005年09月15日 | グローバル化の断面

  今年前半の世界の貿易業界で最大の注目を集めたのは、1月から実施された輸入制限措置の撤廃をめぐる動きであった。急増した繊維製品輸入に対応が遅れがちであったEUと中国の貿易交渉がやっと妥結した。EUは問題先延ばしで一息ついたが、すぐに次の対応を迫られることは目に見えている。

あっという間に増えた中国製品
  国内に繊維産業を抱えるフランスやイタリアなどの圧力を受け、EUは6月に中国から年間の輸出数量を一定枠に抑える措置を取りつけた。しかし、7月から8月にかけてセーターやスラックスなどは、早くも今年の上限枠を突破し、8千万点の中国製品が税関で山積みという状況が生まれてしまった。

「駆け込み受注」の増加
  この背景にはいくつかの理由があるが、特に衣料品の調達先を南欧や北アフリカにしていた小売業は、価格の安い中国に切り替えたが、EUの輸入規制に驚き、発注を積み増すという駆け込み受注が増加した。

EU南北の対立
  中国製品をめぐってはEU内部に利害の対立がある。北欧、オランダ、ドイツなどは保護主義的な手段を放棄して、輸入再開を要請してきた。他方、フランス、イタリア、スペインなどの繊維産業は、今年超過分の輸入を認めるならば来年の数量枠の前倒し使用に振り替えるべきだと訴えた。

難しいEUの立場
  こうしたEUの内部事情を考慮し、9月5日の新協定は玉虫色の決着となった。すなわち、今年の超過分の半分は無条件で輸入を認め、残った半分は2006年の枠を前倒しで使うという妥協である。これは、問題を先送りしただけで本質的解決には程遠い。中国製品が再び増加する懸念は強い。 セーフガードが使えるのは08年末まである。残り3年の間にEU繊維産業が有効な対応をなしうるか、大変疑問である。

EU委員会の不手際
  今回の繊維貿易問題で、EU委員会は6月11日の協定署名と7月12日の規制の発表との間の1ヶ月の処理を誤ったことで批判を受けた。この間に駆け込み輸入が急増したからである。各国政府もこれだけのライセンスを供与したことで責任がある。最終責任を誰が負うか、あいまいさが残った。結果として、EUは中国に頼み込むという権威を失墜する方策をとらざるをえなかった。

生き残りにかける各国
  他方、アメリカでは、輸入規制などの手段では限界があるとして、中国元の大幅切り上げを求める動きがさらに強まっている。日本のように中国、東南アジア諸国へ生産を移転してしまった国もあるが、中国元がさらに切り上げられるとなると、さらに対応が必要となる。

  グローバル化の荒波の中で、カンボディア、インドネシア、タイ、ヴェトナムなどのアジアの生産国々も、生存をかけて必死の努力をしている。カンボディアのように、中国と生産費だけで競争することを避け、労働基準を厳しくして中国のような苦汗産業ではないとの新たな評判を生み出そうとしている国もある。タイのように、「タイ・ブランド」の確立に躍起となっている国もある。押し寄せるグローバル化の荒波の中で生存をかける各国の対応は、いよいよ「待ったなし」の段階へ入った。

 

Reference

"A stich in time" The Economist September 10th 2005

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