ブッシュ大統領は、15日夜、不法移民対策についてテレビ演説し、メキシコ国境の警備に州兵6千人を来月上旬から派遣すると表明した。このところ、移民問題はアメリカ、ヨーロッパなどで大きな政治問題となっていることは周知の通りであり、このブログでも再三取り上げてきた。大統領は国境警備局の人員を現在の1万2千人から2008年末までに6千人増やすと言明。11月の中間選挙を控えて、懸案になんとか妥協点を見出したいというねらいのようだ。
さらに、すでにアメリカ国内にいる不法移民に条件付きで就労を認める一時労働許可制度を新設すること提案した。この一部就労許可については「恩赦」(アムネスティ)ではないことを確認するとしている。これらの提案内容はすでにブッシュ大統領が折に触れて発言していたことであり、その意味で特に目新しい点はない。
アメリカ国内に居住する不法移民は、1200万人。いまや大きな存在となり、とても強制送還などできる数ではない。この点、ブッシュ大統領の判断は現実的といえよう。しかし、こうした事態にいたるまで有効な施策を講じなかった大統領にも責任がある。アメリカにいれば、近く合法化の対象になりうるとの見通しも流布し、駆け込み入国する者もあるといわれている。
州兵を配備
現在の警備体制では不法越境をとめられないとの判断もあって、ブッシュ大統領は国境警備に州兵を配備することに踏み切ったようだ。共和党保守派などへのアッピールでもある。
米国の正規軍は法律で国内の「法執行」任務を禁じられており、不法入国者を発見しても逮捕できない。このため、国境パトロールの人員不足を補う策として、同法の適用対象外である州兵の派遣を決めたものである。しかし、新しい任務にあたる州兵も「監視、情報分析、フェンス構築などで国境警備局を補佐する」として、不法入国者の逮捕など「法の執行」にはかかわらないという。
アメリカ・メキシコ国境は約3千キロあり、国土安全保障省が管轄している。傘下の国境警備局の要員は約1万2千人。昨年摘発された密入国者は110万人であった。しかし、国境でつかまる不法移民は数分の一と推定されている。
問題の根源はどこに
この問題の重要な論点は、不法移民と福祉国家との関係をいかに評価するかにある。入国時の不法性は別にして、彼らの労働を通しての貢献と国家による教育、医療支出などを秤量すると、いずれが大きいかという問題である。
不法移民の圧力で、国内労働者の賃金水準が下方へ引きずられる、あるいは仕事が奪われるという見解もある。理論上は双方ともにありうる推定である。
NHK・TVで意見を求められたコロンビア大学のデラガルサ教授は使用者罰則で不法移民の雇用を禁止すること、出身国政府が魅力ある国づくりにより専念することを挙げていた。前者については過去にも試みられたが、実効は上がらなかった。後者はこのブログでも取り上げたように、根源的な問題なのだが、これまでまともな形で取り上げられたことがない。
ブッシュ大統領は、移民規制関連法案は包括的でなければならないと述べてきたが、こうした不法移民を生み出す根源については、なんら対策を提示していない。国境警備強化で不法移民の流入はかなり抑えられるだろうが、隙あらば流入しようとする人の流れの圧力は高まるばかりである。壁を強化すれば、それを乗り越えようとする人たちの圧力はさらに高まる。今回の大統領の対策提示で上院・下院、そして世論がすぐに収斂する見込みはない。
国内の議論が真っ二つに割れ、先が見えなくなったアメリカの移民政策はどこに落ち着くだろうか。ブッシュ大統領は、中間選挙までに答を出したいと述べているが、具体化までにはまだまだ多くの紆余曲折があるだろう。