時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

現代版『ジャングル』:アメリカ不法移民取り締まり

2006年12月21日 | 移民政策を追って

  中間選挙後ほとんど動きのなかったアメリカの移民政策だが、最近少し変化があった。イラク問題で大きく足下が揺らいでいるブッシュ政権だが、国内問題でもポイントを回復しないと急速にレームダック化してしまう。

IDの窃盗容疑?
  メディアの報じるところでは、12月13日、連邦6州で食肉加工企業スイフト社の本社や工場で国土安全保障省の指示によるとみられる捜査が行われ、移民労働者1200人近くが逮捕されたとのこと。捜査は連邦機関のICE(Immigration and Customs Enforcement:入国関税執行部)が指揮して行った模様。容疑は不法移民によるアメリカ市民の社会保障番号、さまざまなIDカードの窃盗など、善良な市民の個人プライバシーと経済的権利の侵害にかかわるものとされている。

  とりわけ標的とされたのは、世界第2位の食肉加工企業であるスイフト社であり、本社のあるコロラド州グリーレイなど6事業所が捜査対象となった。もっとも直接の嫌疑は不法移民で、同社ではない。同社の社長CEOは「スイフトは合法でない労働者を雇用しようと考えたことはないし、合法でない労働者であることを知っての上での雇用もしていない」と述べている。もし、労働者が合法でないことを知っての上での雇用であれば、使用者罰則の対象となるため、当然の発言ではある。

組織的な背景はあるのか
  微妙な問題がある。現在の段階では、逮捕された不法移民が自らあるいはブローカーなどを介在して、不法に滞在に必要なID、証明書類などを入手した容疑となっている。しかし、「企業側が組織的に法律に違反し、不法移民を受け入れるか、彼らに仕事の機会を認めるならば、犯罪であり、捜査対象となる」と国土安全保障省側は述べている。

  そして、偽造あるいは盗まれたID書類などが不法取引されると、テロリストが航空機に搭乗する際に使用されるなどの問題が生まれるとしている。ここにもあの9.11が深く影を落としている。

  スイフト社は労働者から提示されたIDが真正な本人のものであるか否かをチェックするパイロット・システムを使っているが、万全のものではないとしている。他方、ICE側はIDの盗難は全米で急速に拡大している犯罪だとして、不法移民の動きがそれを加速しているという。

現代版『ジャングル』
  以前に狂牛病問題との関連で、アプトン・シンクレアの小説『ジャングル』 (1906年)を取り上げたことがあった。当時から食肉加工業 slaughterhouse は、ギャングなどの犯罪の巣窟とされ、複雑怪奇な事態がはびこる産業とされてきた。近年は工場のオートメーション化などで、外面は近代化したかに見えるが、国内労働者はあまり働きたがらず、移民労働者などに依存してきた。いわばアメリカの「3K産業」となっていた。今回の捜査がいかなる方向へ展開するかはまだ分からないが、現代の「ジャングル」に再びアメリカの注目が集まっている。


Reference
'Immigration raid linked to ID theft, Chertoff says.' USA Today. 12/13/2006

コメント
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