長らく戦火が絶えないアフガニスタンが、豊富な鉱物資源を埋蔵していることはあまり知られていない。実は、この国は天然ガス、石油、石炭、銅、クロム、タルク、硫黄、金、鉛、亜鉛、鉄鉱石、岩塩、宝石・貴石(ラピスラズリ)などの地下資源がきわめて豊富である。このブログでも話題とした高価な青色顔料のラピスラズリ Lapis Lazuli も良質な鉱床があることが、古代からよく知られている(上図、タジキスタン、パキスタンに近い所に鉱床が多い)。
ラピスラズリの鉱床が発見されて、世界各地へと伝播して行くプロセスは、それ自体ひとつのストーリーが書けそうな多くの歴史を含んでいる。この紺青色(ウルトラマリン)の美しさは多くの人々を魅了し、さまざまなドラマを生んできた。「ラピスラズリが来た道」は今日まで続いている。
ラピスラズリは宝飾品や工芸品だけではなく、絵画の顔料として洋の東西を問わず最も高貴な青の顔料として珍重されてきた。ラピスラズリの透明な紺青色の美しさは、言葉に尽くし難いものだ。しかし、今日では人工顔料が生産されるようになり、絵画材料としてはほとんど使われていない。ロンドンの絵画材料店では今でも取り扱っているようだ。ラピスラズリの美しさは比類がなく、価格の点で人工の合成材料と競争できれば、顔料に使う画家もいるかもしれない。
ラピスラズリは鉱石が原材料ということもあって、経年による退色がなく、美しさが維持される。この点は、同じテーマで描かれたラ・トゥールの作品でも、ラピスラズリが使われているか否かで、美しさがいかに異なるかが実感できる。
ラピスラズリに限らず、アフガニスタンの復興のためには、この国の鉱物資源の開発に大きな期待がかけられている。
こうした天然資源の鉱山は全国で200近くに達するといわれているが、未だ地方軍閥の保有になっているものもある。しかし、鉱山は長引く戦乱で荒廃をきわめ、未だつるはし程度の採掘道具、坑道も木材などでかろうじて維持されている。
アフガニスタンの今後の復興において、鉱物資源は大いに期待されている。たとえば、銅山の開発だけでも2000人の鉱山労働者の仕事、45,000-60,000人分の補助労働の仕事を創り出す。
しかし、開発には膨大な投資が必要であり、新規採掘が開始されるのも、6-10年後ともいわれている。現在トン当たり7000ドル近い銅価は5年前は1300ドルだった。アフガニスタンの鉱山開発はギャンブルに近い。銅価格が下降する可能性はきわめて少ない。中国、インドなどの急速な経済発展などもあって、希少な資源である鉱物価格の上昇は避けがたいようだ。ラピスラズリの美しさも、あまり見られなくなるのだろうか。
"Copper bottomed?" the Economist November 25th 2006.