メキシコの経済や社会の状況が改善してきたとはいえ、問題も多い。とりわけ、毎年50万人を越える若者がより良い機会を求めて、自国に背を向けアメリカへと流出していることである。そして、その多くは帰国してこない。今日の世界で人材はいずれの国にとっても、国の将来を定める最重要な資源である。
NAFTA(北米自由貿易協定)は当初大きな期待が寄せられたが、今では楽観できない。NAFTAはその成立までは大きな注目を集めて議論を読んできたが、現状はひとつの自由貿易協定にすぎない。この点はEUとは大きく異なる。EUの場合は多くの制度や規制を強力に加盟国に導入してきた。必然的に加盟国は多くの国内改革を実施してきた。しかし、NAFTAの場合は、協定制定後、ほとんど制度的改革を果たしていない。
さらに、中央アメリカもアメリカと自由貿易協定を締結しており、ペルーとコロンビアも近く同様な協定を結ぶだろう。そして、中国とインドは、メキシコが期待していた海外からの投資を吸い込んでいる。メキシコの製造業の平均賃金はアメリカの10分の1くらいだが、中国と比較すると3倍くらいである。
メキシコがこれらの国々と伍して、競争して行くには現在より高度な製造業分野へとシフトする必要がある。しかし、リスクを侵してまで越境する労働者と比較して、国は志が低い。長年にわたる専制的な体制はリスクをとることを避けている。そして、メキシコシティを境にして南部は、アメリカへの不信感が根強く、発展への動機づけが著しく不足している。イタリアのように、メキシコも南北問題を国内に抱えている。
メキシコの発展の足を引っ張っている最も大きな原因は、部分的な改革では部分的な成果しか残しえないということだ。特に、所得分配がうまくいっていないため、グローバル化のメリットを実感していない。過去20年間の変化の恩恵を感じている人と感じていない人の二つに分離される。
経済的安定、NAFTAと民主主義は、メキシコがなんとか達成した3つの大きな成果である。しかし、これらはよりよい公共政策への出発点である。眠ってしまうことへの言い訳であるべきではない。政府はあるべき制度改革を計画、実施に移し、南部の後進性を払拭するよう努力すべきだろう。イタリアなどの例が示すように、その道がけわしいことはいうまでもない。
雇用のフォーマル部門の拡大などを通して、社会のシステム化が進めば、税制基盤の拡大、生産性の上昇、経済発展という未来が見えてくるだろう。
Refernece
"Time to wake up." The Economist. November 18th 2006.