7月7日、洞爺湖サミットが始まった。アフリカなどの代表も参加するとはいえ、ともすると世界を大国の先進国が主導し、支配する?という構図が見え隠れする。 しかし、現実にここで今後の世界の方向を定める多くの重要路線が決まる以上、関心を抱かざるをえない。
サミットの議題にはならないが、先進国は移民(外国人)労働者の受け入れについても主導権を握っている。日本もそうだが、人口減や少子高齢化で、労働力減少に悩む国は、他国から人材を受け入れて対応しようとしている。
たまたま今春から導入されたイギリスの新たな「選択的受け入れ」を基準とする入国管理制度(Selective Admission)が話題となっている。EU域外からの入国者にそれぞれポイントを付して、高い専門性や投資能力を持った者から優先的に入国を認めるという方針は、制度上の差異はあるとはいえ、アメリカ、EU諸国、そして日本もいずれ採用しようとする方向だ。先進国にとっては、かなり身勝手な方策でもある。
他国が多大なコストと時間をかけて教育・育成した人材を、受け入れ側の先進国はコストをかけることなく、自国の目的のために利用できる。先進国はおおむね報酬水準も高いので、開発途上国側は不利な立場にある。高い報酬に惹かれて、人材が海外へ流出してしまう可能性が高いからだ。
高度な専門性を持った人材というと、科学者、技術者、医師、看護師などさまざまな職業がある。そのひとつの例として、内科医についてのデータが目に止まった。自分の国の医学部や医科大学で教育、養成した医師(内科医)の中で、外国へ流出してしまう医師の比率を示したものである。上位を占めるのは圧倒的に開発途上国、それも流出比率の点では、どちらかというと小国が多い。
絶対数で内科医の海外流出が多い国は、2000年時点で、次のような順位である:
インド(20.3千人)、イギリス(12.2)、フィリピン(9.8)、ドイツ(8.8)、イタリア(5.8)、メキシコ(5.6)、スペイン(5.0)、南アフリカ(4.4)、パキスタン(4.4)、イラン(4.4)、フランス(4.2)、ポーランド(4.0)、ドミニカ(3.6)、カナダ(3.4)、オランダ(3.3)、エジプト(3.0)、ギリシャ(2.8)、アイルランド(2.7)、ヴェトナム(2.4)、中国(2.4)、ルーマニア(2.3)、スリナム(2.3)、マレーシア(2.2)、ベルギー(2.0)、トルコ(2.0)、グレナダ(1.9)、ロシア(1.9)、アメリカ合衆国(1.9)、セルビア・モンテネグロ(1.8)、ハンガリー(1.8)
インド、フィリピン、メキシコ、南アフリカ、パキスタン、イランなど開発途上の国からの流出が多いことは予想した通りだ。他方、EUの中心国がかなり上位に入っていることに気づく。その理由はもう少し調べてみないと正確には分からないが、域内移動が増加していることが推定できる。
医師の海外流出の背景は色々と考えられる。医師自身にとっては外国でより高度な研鑽や経験を積みたいという思いもあるだろう。高い報酬水準が期待できることはいうまでもない。ほとんどが流出してしまう国などを見ると、後に取り残される国民の悲哀を感じる。現在の国際的な仕組みでは、こうした問題を適切に解決する方策はない。しかし、これからの時代の移民(外国人労働者)政策には、送り出し、受け入れ双方の適切なバランスにこれまで以上の配慮が必要だろう。
個人的な経験だが、何度か外国に長期、短期の滞在をしてみて、医療看護の実態の一端にも接した。イギリスで診察を受けた内科医(GP)、歯科医はすべてインドやアフリカが母国の人たちだった。予備知識があったので、別に驚くこともなかったが、友人・知人の中にはなじめずにロンドンの日本人医師の所まで出かけていた人もいた。しかし、グローバル化とは、こうしたことも当然包含しているのだ。フィリピンやインドネシアからの看護師・介護福祉士にお世話していただく時代だ。近い将来は医師もお願いすることになるだろう。日本はここに示したひとつの統計数値からも明らかなように、国際的プレゼンスがきわめて低い。それが良いか悪いかは別にして、外の風に当たる機会が少ない。時代の変化への確たる心構えが必要になっている。
自国で教育・訓練を受けた内科医の中で、海外へ流出した内科医の比率(%、2000年):
グレナダ (97%)、ドミニカ (97) 、セント・ルシア (66) 、ケープ・ヴェルデ (54)、 フィジー (48) 、サオ・トーメ・プリンシペ (43)、リベリア (34)、パプア・ニューギニア (32) 、アイスランド (26)、 エティオピア (26)、 ソマリア (25) 、アイルランド (25)、ガーナ (22) 、ハイチ (22) 、セント・キッツ・ネヴィス (21) 、ルクセンブルグ (21)、 ウガンダ (19) 、ドミニカ (19) 、スリランカ (17) 、ジャマイカ (17) 、ティモールーレステ (16)、 ジンバブエ (16)、 ガンビア (14) 、アンゴラ (14)、 マラウイ (13) 、ニュージランド (13)、 南アフリカ (13) 、ボスニア・ヘルツエゴヴィナ (13)、 マレーシア (12)、 トーゴ (12)
Source:Docquier and Bhargava 2006 Quoted in The World Bank。Migration and Remittances Factbook, 2008