日々の暮らしから

「街中の案山子」「庭にいます。」から更にタイトル変更します。

そんなこともあったとさ、になったけれど・・・。

2013-08-02 15:38:03 | 家族
学生時代に多分話題作だったのだろう、大江健三郎の「個人的体験」を読んだことがある。大江作品としては数冊目の読書。ハードカバーの本を抱えていた私に、友人が「その本を境として、大江健三郎は作品ががらりと変わったんだってね」と言った言葉を覚えている。親友に進められて読み始めた何作目かの小説。私にはどこまで中身がわかって読んでいたものか。ただ、生まれた子が普通ではなくて、「水頭症」という奇形だったということは記憶に残っていた(その後、何冊か読んだけれど、大江健三郎は、その時の子供がテーマの小説家になっていった)。
それがハタチの頃。それから随分たち、出産時のアクシデントで障害児となった子供さんもご近所にいた。先年の同窓会で、教員生活の殆どを養護学校で教えて定年退職になった女性の元校長からも、障害児の実情を耳にしていた。
私、ウン十年も生きているのだもの、いろんなことを見聞きしている。
で、今年の2月。
生まれてすぐに救急車でNICUのある病院に入院した孫。新生児重症仮死。なによりも緊急。脳細胞の劣化を抑えるために、即時に脳低温療法がはじまった。
出生体重を計るどころではないのです。3日間の脳低温療法が一段落した頃だったでしょうか。嬰児のベットサイドで小児科の担当医が症状の説明をなさいました。
その説明のなかに「少し水頭症もみうけられる」と聞こえてきました。
聞きたくはない言葉であり、聞き返したり、念を押す気概も生まれず、受身で耳が聞いている、という状態、本心は「聞いていないことにしたい」言葉でした。
その後、多臓器に異変はなく、順調に回復していきました。
退院の日が決まりかけたころには、ああ無問題だったんだ、と思っていたのに、退院がキャンセルになり、「水頭症」の烙印が。
あの頃の写真はどれもオデコに黒い点がついています。頭囲を毎日計ってどれだけ大きくなったか調べられていたのです。
脳室に髄液が溢れて脳を圧迫し、頭囲が大きくなる。
放置しておくと、脳にダメージが出るのです。
髄液は毎日生産されているのですが、その流路が内出血により遮断されているのが原因だろう、と推測されました。
で、出血した血液を洗浄する手術と髄液が溢れたときに頭蓋表層で抽出できるようにタンクを埋める手術をしました。

既述ですが、先日娘家族の引越しの手伝いに行きました。
私は子守がメインの役割です。それでも何か手伝おうか、ということで、娘婿の文庫本の整理をしました。大分処分済みとかで、ダンボール1箱。本棚にはアカサタナと行別に入れようということで、作家別に床で仕分けしました。
ア行の本に大江健三郎も数冊。そしてあの「個人的体験」もありました。
「あっ、コレ読んだの!」
と声をかけると、「随分昔、高校の頃かな」と返事。
私「……」。

すっかりベィビーは健康体になったから、こんなダラダラ話を綴っていられるけれど、いろんなケースが私の頭の中を走馬灯のように巡っていたころ、彼もこの本を思い浮かべたりしたのだろうか、そんなことを、ふと思っりした。

現在はすっかり元気で、遠い昔のようになったけれど、「脳へのダメージを防げ」をいの一番で治療していただけた医療環境にあったこと、何よりの感謝に尽きます。

コメント
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