2003年のソウル。大学受験に失敗し、浪人生活2年目に入る若者が、忘れる事の無かった小学生時代の淡い思いを思い出し、住所を調べて彼女に手紙を送る。
過ごした時間は短くとも、その瞬間を大事にし、忘れる事の無かった彼。そんな彼の元に釜山に住む彼女から返事がやって来る。彼女の提示した「質問しない、会いたいと言わない、そして“会いに来ない」という制約の中、文通を続ける二人。
病気で伏せる姉の代わりに妹が代筆しているとも知らずに手紙のやり取りに幸せを感じる彼と、姉の代わりでありながらも同じように手紙が来るのを心待ちにするようになる彼女。
予備校で自分に好意を寄せてくれる女子学生の快活さに眩しい思いを感じるものの、逢う事の無い彼女との手紙のやり取りに、雨のように自分の心を癒してくれる彼女との文通に穏やかな思いを感じる彼。一緒に過ごした時間の長さでなく、たとえ一瞬であっても記憶に残る時間を大事に思い続ける彼は、「もしも12月31日に雨が降ったら会おう」という提案を彼女にし、毎年雨が降らずとも公園で彼女がやって来るのを静かに待つのだ。
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この映画は、一緒に過ごした短い時間とその時間を覚えて待つ事がキーワードだ。
予備校で彼に好意を寄せる女子学生は、2003年4月1日、自殺したレスリー・チャンのニュースを知ると、「脚のない鳥は飛び続け、疲れたら風の中で眠り、生涯で1度だけ地上に降りる。それが最後の時」とレスリー・チャンが映画@欲望の翼で口にしたセリフで彼の死を悼み、そして彼がその日を忘れる事はないだろうと、自らデートに誘う。
欲望の翼でレスリー・チャンは、「1960年4月16日、3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ」との名台詞を残し、映画の中では、マギー・チャンがその言葉を胸に彼がやって来るのを待ち続けるのだ。カン・ソラ演じる女子学生は、一瞬の時間を共有した欲望の翼の話題を口にしつつ、彼女なりのやり方で、彼と過ごした時間を大事にし、彼の心に残る自分の思い出を作ろうとしたのだろう。
欲望の翼の存在が隠れキーワードにも思えてくる。