元恋人だった演出家の舞台に出演するために上海にやってくる女優。警察に拘留されている元夫救済の為のカモフラージュなのかそれとも別の目的があるのかも定かではない。慌ただしく「蘭心大劇場」で行われる練習に顔を出し、宿泊先の「キャセイ・ホテル」に滞在する彼女。
太平洋戦争開戦前、女優が出演する舞台の準備を中心に、1941年12月の上海の1週間の様子がモノクロ映像で描かれる。
よりを戻したい演出家、舞台に出ていても、時々どこか心ここにあらずの様子を見せる女優、その女優に突然取り入ろうとするファンの女性、そして彼女を歓待しながらも、何故か彼女の通話をすべて盗聴するホテルの支配人。
何度も繰り返される舞台練習の様子を流れるようにカメラが追いかける。舞台上から舞台裏へ場面転換する場所からまた別の場面にカメラは止まる事なくその様子を映し続ける。何度も見ているうちに舞台の様子を撮影するドキュメンタリー映画を観ているような気分にもなり、また舞台で上映される劇そのものが映画のストーリーであるような錯覚にもとらわれる。(劇中で気の主人公の設定は横光利一の小説「上海」に登場する女性闘士との事)
魔都と呼ばれ欧米中日各国の諜報部員が暗躍する上海の英仏租界は、誰もが何かを演じているようでもある。皆それぞれがそれぞれのミッションに従って行動するものの、お互いはそれぞれのミッションを知らないため、偶然が邪魔をし、段取りが変わり、一つの偶然が又別のトラブルを生み出すのだ。多くの必然と多くの偶然が何重にも絡まり、大きな流れは止まる事なく、止められる事なく、1941年12月7日に繋がっていく様子が描かれている。
誰もが何かのミッションの為に覚悟を持って行動している、大人な映画だ。
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新宿武蔵野館で鑑賞。
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監督のロウ・イエは友人であるホン・インの小説から女スパイの物語を脚色して映画を作ったとの事。
天安門事件の時代を題材にした映画で映画製作禁止を命じられたロウ・イエだが、2012年以降の映画は中国国内で好悪会されているとの事。