1920年代のアイルランド。本土を間近に臨む島で暮らす長年の友人だったはずの二人だが、その友情は一方的な絶縁宣言で終わりを迎える。
ヴァイオリンを奏でる年上の男性が何故自分に愛想をつかしたのか、彼よりも年下の男性には心当たりもない。残り少ない人生の中で何か芸術的な事を成し遂げたいという年配の男性にとって、年下の友人は些細な日常の出来事をつらつらと語るだけで刺激がなかったのかもしれない。毎日のちょっとした我慢の積み重ねが、いつか彼の許容範囲を超えてしまい、彼の存在さえも拒む事になったのかもしれないと想像をしてみるものの、観客にもその決定的な理由は明かされない。
小さな島では海からの風を遮る物はなく、海から昇る朝日は神々しいが、全て同じような毎日の繰り返しだ。島に住む人々は、新しい出来事という名の噂話を渇望するものの、その新しい出来事さえも日常にはなく、結局毎日顔を合わせる相手との会話の中に何か意味を探そうとし、お互いの心の中を無意識のうちの探り合う。変化のなさは穏やかさには繋がらず、年下の男性の妹もそんな島での生活から抜け出し、新しい生活を始めようとする。
こじれてしまった人間関係は、簡単には修復しない。時間が経てば経つほどこじれてしまった理由は関係なくなり、こじれたという事実だけが大きくなっていく。そうなったらもう修復は望めない。内戦が続く本土の様子を「誰が味方で誰が敵かも、もうよく分からない」と島の住人は語る。人間関係もまさに一緒だ。当初の目的はどこかに消え、争いだけが残る。
そんな中で一番ニュートラルな存在は、ロバのジェニーだ。年下の男性がロバに愛情を注ぐ様子は、何の駆け引きもなく穏やかな様子が見て取れる。
映画の中に答えを探すのでなく、映画を観た後に自分の中に答えを探すような映画だ。