
プロジェクトシンジケートのケネス・ロゴフ「欧州経済は停滞しているEurope’s Economy Is Stalling Out」が興味深い。
ドイツとフランスが、ほぼ経済ゼロ成長で新年を迎えるのだが、ケインズ派の景気刺激策だけでは現在の不調から抜け出せないことは明らかで、トランプ次期米大統領の関税を乗り切るために必要なダイナミズムと柔軟性を取り戻すには、欧州最大の2大経済大国は、広範囲にわたる構造改革を進めなければならない。
欧州の経済停滞はケインズ派の景気刺激策が不十分なためなのか、それとも肥大化し硬直化した福祉国家のせいなのか?いずれにせよ、ドイツは2年連続でゼロ成長に突入し、フランスは2025年に1%未満の成長を見込と言った惨状では、財政赤字の拡大や金利の引き下げといった単純な経済対策で欧州の問題を解決できると信じている人たちは現実離れも甚だしい。と説く。
ドイツとフランスが、ほぼ経済ゼロ成長で新年を迎えるのだが、ケインズ派の景気刺激策だけでは現在の不調から抜け出せないことは明らかで、トランプ次期米大統領の関税を乗り切るために必要なダイナミズムと柔軟性を取り戻すには、欧州最大の2大経済大国は、広範囲にわたる構造改革を進めなければならない。
欧州の経済停滞はケインズ派の景気刺激策が不十分なためなのか、それとも肥大化し硬直化した福祉国家のせいなのか?いずれにせよ、ドイツは2年連続でゼロ成長に突入し、フランスは2025年に1%未満の成長を見込と言った惨状では、財政赤字の拡大や金利の引き下げといった単純な経済対策で欧州の問題を解決できると信じている人たちは現実離れも甚だしい。と説く。
ロゴフの見解は、極めて明快なので、抄訳を記す。
フランスは、積極的な景気刺激策により、すでに財政赤字はGDPの6%にまで達し、債務対GDP比は2015年の95%から112%に急上昇している。2023年マクロン大統領は定年年齢を62歳から64歳に引き上げる決定をめぐり、広範な抗議に直面した。この措置は意義深いものだが、同国の財政上の課題の表面をかすめたにすぎない。欧州中央銀行のラガルド総裁が最近警告したように、フランスの財政軌道は抜本的な改革なしには持続不可能である。
多くの米国と英国の進歩主義者はフランスの大きな政府モデルを賞賛し、自国でも同様の政策を採用することを望んでいる。しかし、債務市場は最近、フランスの膨れ上がる債務がもたらすリスクに目覚めつつある。驚くべきことに、フランス政府は現在、スペインよりも高いリスクプレミアムを支払っている。
フランスは、積極的な景気刺激策により、すでに財政赤字はGDPの6%にまで達し、債務対GDP比は2015年の95%から112%に急上昇している。2023年マクロン大統領は定年年齢を62歳から64歳に引き上げる決定をめぐり、広範な抗議に直面した。この措置は意義深いものだが、同国の財政上の課題の表面をかすめたにすぎない。欧州中央銀行のラガルド総裁が最近警告したように、フランスの財政軌道は抜本的な改革なしには持続不可能である。
多くの米国と英国の進歩主義者はフランスの大きな政府モデルを賞賛し、自国でも同様の政策を採用することを望んでいる。しかし、債務市場は最近、フランスの膨れ上がる債務がもたらすリスクに目覚めつつある。驚くべきことに、フランス政府は現在、スペインよりも高いリスクプレミアムを支払っている。
先進国の政府債務の実質金利は、景気後退がない限り高止まりすると見込まれるため、フランスは債務と年金問題から単純に成長して抜け出すことはできない。むしろ、その重い債務負担は、ほぼ確実に長期的な経済見通しに重くのしかかるだろう。過剰な債務が経済成長に悪影響を及ぼすと主張する2つの論文を発表したが、その後の学術研究が示しているように、ヨーロッパと日本の低迷し債務を抱えた経済は、この力学の代表的な例である。
重い債務負担は、景気減速や景気後退への政府の対応能力を制限することで、GDP成長を阻害する。対GDP債務比率がわずか63%のドイツには、崩壊しつつあるインフラを再生し、低迷する教育システムを改善する十分な余地がある。効果的に実施されれば、こうした投資は、そのコストを相殺するのに十分な長期的成長を生み出す可能性がある。しかし、財政余地は賢明に使われた場合にのみ価値がある。現実には、年間赤字をGDPの0.35%に制限するドイツの「債務ブレーキ」は柔軟性に欠けることが判明しており、次期政権はそれを回避する方法を見つけなければならない。
さらに、大幅な改革がなければ、公共支出の増加は持続的な成長をもたらさない。具体的には、ドイツは2000年代初頭にゲアハルト・シュレーダー前首相が導入したハルツ改革の主要要素を復活させなければならない。ドイツの労働市場をフランスよりも大幅に柔軟にしたこれらの措置は、ドイツを「ヨーロッパの病人」からダイナミックな経済へと変えるのに役立った。しかし、経済政策の左傾化により、この進歩の多くを事実上逆転させ、ドイツが誇る効率性を大きく損なってしまった。切望されていたインフラを生産する能力は明らかに損なわれている。その顕著な例は、予定より10年遅れ、予想の3倍の費用をかけてようやく2020年にオープンしたベルリンのブランデンブルク空港である。
ドイツは最終的に現在の不調を克服するだろうが、肝心なのはそれがどのくらいかかるかということだ。今月初め、ショルツ首相はクリスティアン・リンドナー財務大臣を解任し、脆弱な連立政権の崩壊につながった。2月23日に選挙が予定されているが、カリスマ性に欠けるショルツ首相は今や退陣し、別の社会民主党員に党首を任せるか、党の崩壊の危険を冒すしかない。
重い債務負担は、景気減速や景気後退への政府の対応能力を制限することで、GDP成長を阻害する。対GDP債務比率がわずか63%のドイツには、崩壊しつつあるインフラを再生し、低迷する教育システムを改善する十分な余地がある。効果的に実施されれば、こうした投資は、そのコストを相殺するのに十分な長期的成長を生み出す可能性がある。しかし、財政余地は賢明に使われた場合にのみ価値がある。現実には、年間赤字をGDPの0.35%に制限するドイツの「債務ブレーキ」は柔軟性に欠けることが判明しており、次期政権はそれを回避する方法を見つけなければならない。
さらに、大幅な改革がなければ、公共支出の増加は持続的な成長をもたらさない。具体的には、ドイツは2000年代初頭にゲアハルト・シュレーダー前首相が導入したハルツ改革の主要要素を復活させなければならない。ドイツの労働市場をフランスよりも大幅に柔軟にしたこれらの措置は、ドイツを「ヨーロッパの病人」からダイナミックな経済へと変えるのに役立った。しかし、経済政策の左傾化により、この進歩の多くを事実上逆転させ、ドイツが誇る効率性を大きく損なってしまった。切望されていたインフラを生産する能力は明らかに損なわれている。その顕著な例は、予定より10年遅れ、予想の3倍の費用をかけてようやく2020年にオープンしたベルリンのブランデンブルク空港である。
ドイツは最終的に現在の不調を克服するだろうが、肝心なのはそれがどのくらいかかるかということだ。今月初め、ショルツ首相はクリスティアン・リンドナー財務大臣を解任し、脆弱な連立政権の崩壊につながった。2月23日に選挙が予定されているが、カリスマ性に欠けるショルツ首相は今や退陣し、別の社会民主党員に党首を任せるか、党の崩壊の危険を冒すしかない。
この政治的混乱の中、ドイツはヨーロッパの経済大国としての地位を脅かす課題の山積と格闘している。ウクライナで続く戦争が投資家の信頼を損ない続け、ドイツの産業基盤はロシアからの安価なエネルギー輸入の喪失からまだ回復していない。一方、自動車部門はガソリン車から電気自動車への移行に苦戦し、世界の競合に遅れをとっており、経済も低迷している中国への輸出は急減している
これらの問題は、来年、より保守的で市場志向の政府が政権を握れば、おそらく対処できるだろう。しかし、構造改革に対する国民の支持が依然として低いことを考えると、ドイツを正しい軌道に戻すことは決して容易ではない。劇的な変化がなければ、ドイツ経済は、トランプの差し迫った関税戦争の影響に耐えるために必要なダイナミズムと柔軟性を取り戻すのに苦労するだろう。
他のほとんどの欧州経済が同様の課題に直面しているのだが、イタリアは、大陸で最も有能なリーダーと言えるジョルジャ・メローニ首相の下で、若干良いパフォーマンスを発揮するかもしれない。スペインやいくつかの小国、特にポーランドは、ドイツとフランスが残した空白をいくらか埋めるかもしれない。しかし、EUの2大経済大国の弱さを完全に埋めることはできない。
ヨーロッパが観光地として、特にドル高で観光産業を支えているアメリカ人旅行者の間で根強い人気を誇っていなければ、経済見通しはもっと暗いものになっていただろう。それでも、2025年の見通しは冴えない。ヨーロッパ経済はまだ回復する可能性があるが、ケインズ派の景気刺激策では力強い成長を維持するのに十分ではないであろう。
他のほとんどの欧州経済が同様の課題に直面しているのだが、イタリアは、大陸で最も有能なリーダーと言えるジョルジャ・メローニ首相の下で、若干良いパフォーマンスを発揮するかもしれない。スペインやいくつかの小国、特にポーランドは、ドイツとフランスが残した空白をいくらか埋めるかもしれない。しかし、EUの2大経済大国の弱さを完全に埋めることはできない。
ヨーロッパが観光地として、特にドル高で観光産業を支えているアメリカ人旅行者の間で根強い人気を誇っていなければ、経済見通しはもっと暗いものになっていただろう。それでも、2025年の見通しは冴えない。ヨーロッパ経済はまだ回復する可能性があるが、ケインズ派の景気刺激策では力強い成長を維持するのに十分ではないであろう。
ロゴフの論文の要旨は、
ヨーロッパの経済は、成熟化して制度疲労を起こして暗礁に乗り上げ、さらに、過剰な債務が経済成長を阻害して、深刻な停滞状態にあるのだが、従来の景気循環対策的な財政金融政策による成長戦略では救いようがない状態まで来ており、根本的に構造改革を行わない限り回復はありえない。
ここで、気になったのは、
ヨーロッパの重い債務負担は、ほぼ確実に長期的な経済見通しに重くのしかかり、経済成長に悪影響を及ぼすとして、低迷し債務を抱えたヨーロッパ経済をジャパナイゼーションと指摘していることである。
MMT理論によれば、別な世界が見えてくるのだが、過剰債務が悪だとする主流派経済理論から言えばそうであって、有効かつ適切な抜本的経済対策を打たなければ起死回生は望めないと言うことであろう。
ここで、ロゴフは、ヨーロッパのトランプの増税対策への懸念に言及しているが、そんな生易しい対応ではダメである。
トランプの新経済政策は、異常尽くめで何が起こるか分からない。場合によっては、ヨーロッパの経済に激震を与えて大改革を迫るほど強烈な破壊力を持っているかも知れない。
吉と出るか凶と出るかは分からないが、トランプ爆弾の炸裂は、世界の政治経済社会に、創造的破壊を引き起こす可能性が高く、新秩序を生み出すであろうから、それに対応した体制を構築して臨まなければならない筈である。
私はトランプには与しないが、一方では、トランプの打つ創造的破壊に期待もしており、その起爆力が強力であれば強力であるほどよいと思っている。
そうでなければ、中露などの専制国家やBRICSの台頭に抗して、わが民主主義陣営の世界、すなわち、貴重な虎の子の文化文明、歴史伝統を守り切ることは不可能だからである。