昨日、3月1日のメディアは偶然か、フランスに大変厳しかった。世界中を驚かせたあの「郊外暴動」がひとまず鎮圧された今、NHK(BS1「世界のドキュメンタリー」)がひとつのビデオを放映した。「移民社会フランスの課題」というテーマで、「貧困と差別の中で」というタイトルである。ベルギーのジャーナリスト、パトリック・ジャンが2003年に制作したものである。
あたかも打ち合わせたかのように、同日の「朝日新聞」がフランスの裁判制度についてのかなり長文の紹介記事を掲載している。検察官と裁判官は「ナポレオンより強権」との見出しで、ウトロー事件をとりあげ、予審判事に冤罪批判が強まっていることを紹介している。容疑者が長期拘留され、自殺を招くことが多いと伝えている。現行制度の欠陥が糾弾され、予審判事の権限縮小・廃止論も出ているようだ。
そして、NHKBS1はさらに「きょうの世界」で「新移民政策とフランスの理念」と題して、「新移民法」案をめぐる背景を紹介した。その中で登場した予審判事ジャン=ルイ・ブリュギエール氏は「テロの脅威に対する上で、移民規制は避けて通れない。シェンゲン協定を守ることはほとんど不可能だ」と述べている。
ドキュメンタリー「貧困と差別の中で」は、アミアンを舞台に、同市郊外の移民居住地区がほぼ強制的に破壊されてゆく状況を写していた。北部郊外にはイスラム系住民が多く住んでいたが、若者にも仕事がなく、荒廃した状況にあった。職探しは大変。「フランス人になるには、サッカー代表選手にならなければね」という自嘲めいた会話が交わされる。
制作者とのつながりからか、フランスではなく、貧困層の吹きだまりと形容されたベルギーのトルネイ刑務所の光景が映し出される。受刑者は作業場で安い労働力として使われている。受刑者のひとりは、この社会では移民してきた時に、移民は下層へと定められているという。労働者になるよう教育機会も限られ、小学校を出たら職業訓練校へ行くしかないという。特に、トルコ、クルド、モロッコ、アルジェリアなどからの移民に風当たりは厳しい。
結論のない番組
フランス第二の都市リヨンでも移民はよそ者とされ、貧困層の住む郊外は地図には掲載されていないという。映し出されたイスラム系の(フランス人の)若者と口論する中年女性は、「フランス人って誰のこと」と聞かれると、「カトリック教徒よ」「いやなら国へ帰ったら」という。若者は「国へ帰れなんて、私はフランス人」と応える。
刑務所に収監された若者は犯罪者になるには、どこかに引き金があるからだと訴える。「社会は理解しようとしない。なにかがおかしい・・・」
ビデオは突然、ここで終わってしまう。 最近、こうした番組や記事によく出会う。問題の深刻さはいやでも分かるが、踏み込みが不足している。後は視聴者が考えろというのだろうが、気をつけないと、フラストレーションが高まるばかりである。
移民問題にしても見方を変えると、社会的に議論がほとんどない日本の方が、はるかに憂慮すべき状況だといえる。長期的視点や構想がまったくないままに、デファクトな外国人の実質的定住化、日本人が忌避して就労しなくなった仕事の代替などの事態が進行しているからだ。国民的議論もなく、ただ問題を先延ばしにしているだけである。ある日突然、大事件が起きて周章狼狽することになるのは目に見えている。
別のニュースは、ある国際比較調査の結果に基づき、アメリカ、中国、韓国と比べて日本の高校生の成績向上意欲は著しく低いと紹介していた。日本はどこへ行くのだろうか。