*イギリスの受けつけた庇護申請者数(左側軸目盛り)とジャーナリズムなどの人種・移民・難民を最重要課題とする言及(右側軸目盛り)
透明度は高い新システム
EU諸国の間では移民労働者に対して「開放的」というイメージが持たれているイギリスが、このたび移民法を改正した。3月7日、発表された改正内容によると、カナダ、オーストラリアなどが採用しているポイント制が導入される。
新システムは従来の方式よりも「構造化」されて、政策としての透明度は高い。イギリスに入国し、定住して働きたいと思う外国人は、あらかじめ規定された5段階のひとつに区分される。その区分けは、熟練の程度、仕事のオファーがあるか否か、大学でのポジションがあるかどうかなどによる。入国が認められるためには、それぞれの段階で求められる基準をどれだけ満たしているか、ポイントがつけられる。
ポイント制の導入
たとえば、仕事のオファーがあり、第2階層の者は50ポイントが与えられる。そして俸給のオファーが18,000ポンド($31,000)から19,500ポンドならば10ポイントが、PhDの学位があればさらに15ポイントが付加される。労働力不足の職種であれば、ポイントはさらに追加される。職種別需給の程度は、2年に1度、新設の評価機関が判定する。内務省が使用者を認定すれば、これもポイントが増える。
率直に言って、内容は現システムと比較して大差はない。より分かりやすくはなっているが、新システムは旧システムの目指してきた方向と変わらず、ラベルを貼り替えた程度である。たとえば、新システムの階層(1)は、高熟練の移民労働者に対応して4年近く運用してきた現行制度の引き写しである。ポイント制といっても実質は現行方式とさほど変わったものではない。明らかに変わった点といわれるのは、ホテルと農業分野で働く労働者を段階的に廃止する措置ぐらいだろう。この分野では東欧・中欧からの労働者が働いていた。したがって今回の制度改正に対する不満の多くは2004年5月以来、イギリスで働く東欧からの入国者からである。
高い熟練の奪い合い
熟練度や専門性の高い移民(労働者)は積極的に受け入れ、低熟練の移民には制限を課すという政策は先進国が採用している政策方向である。いわば、グローバルな次元での「タレントの争奪」が展開している。イギリスの今回の移民法改正もその方向に沿っている。
ただ、新システムでの変更点がほんのわずかであっても、政府側が大きな改正だというのはどうしてなのか。これについては、次のようなことがいわれている。世論調査によると、イギリス人は移民について一貫して高い関心を示してきた。そして、最近は移民について政府はコントロールできていないとの見方が強まっていた。
この見方が生まれたのは、2000年にイギリスへの難民申請者が急増したのがきっかけだった。英仏海峡トンネルを経由して入ってくるアフガニスタン人のイメージなどがTVを通じてイギリス人の見方や世論に影響した。
その後3年近く、イギリスが受け入れた難民の数は減少した。国境管理の強化とアフガニスタンとイラクでの敵対的政権が崩壊したことが主たる背景である。イギリスへの難民申請者は減少し、最低の水準である。しかし、世論調査などでは、政府の移民対応に不満が多い。これについては、難民制度の破綻が移民制度全体への不満に拡大したとの見方もある。中欧からの流入者について政府見通しが著しく過小評価であったことも原因といえる。
新制度と内実
今回の新制度は、一見すると厳格なシステムであるかのごとき対応で、世論を鎮めようというつもりらしい。そのためか、短期的には、マスコミなども好意的である。問題といえば、ポイント制は移民の流れを止めることを容易にする。流れを弱めて数字面で減らすことができる。そうなると、当然野党は移民受け入れの数自体を議論の俎上に乗せるだろう。それは政府は避けたい点である。
こうした点からも明らかなように、アメリカ、ヨーロッパなどの移民政策は決して開放の方向へ一途に向かっているとはいえない。むしろ、高まる移民の圧力に抗して、国民国家の障壁をなんとか維持しようとしている姿が見えてくる。グローバル化は、大きく揺れ動きながら、進行している。その姿を見失わないようにしないと、突然予想外のことが起こりかねない。
Reference
*"Pick and mix," The Economist. March 11-17th, 2006.