フランス、イギリスなどEUの中心国が移民制限を強めている中で、加盟国ではないスイスも移民・難民受け入れの制限を強化する方向を選択した。9月24日の国民投票の結果、およそ68%が制限を強化する移民法改正を支持した。
EUはシェンゲン協定などで、協定に参加した諸国間の自由な労働力移動を認めている。しかし、EU諸国は他の非EU地域に対して移民労働者に対して制限的な壁を設定している。いわばEU砦という地域共同体の特徴が残っている。非EU地域に対して障壁を設定するばかりでなく、EU地域の内部でもこのブログでも観察しているように、移民労働者の受け入れには濃淡がある。
スイスのようにEUに加盟していないで、独立した路線を歩む国もある。國際労働力移動の実態はきわめて複雑であり、変化も激しい。EUが他地域に障壁を築くばかりでなく、EU砦の内部にもしたたかな城主がいて、なかなか統一は難しい。EUとしての統一された移民労働者政策も確立されていない。
スイスでは申請から48時間以内に難民などの認定を受ける公式証明を提出できないと、国外退去を命じられる。しかし、難民・庇護申請者の4分の3は、身元を追及されることを回避しようと、過去を確認できる書類を一切保持していないという。最近は審査も厳しくなり庇護申請者も2002年の20,000人から昨年は10,000人に減少している。
スイスでは、EU加盟国国民は労働市場で働くことができるが、その他の国の国民は、技術者など国内に代替できる労働者がいない場合を除いては受け入れられない。さらに、従来にまして国民としての統合への条件を厳しくしている。
ブログでも紹介したように、スイスは國際競争力評価でも世界第一位を確保し、こうした外国人労働者受け入れ制限の強化も、成長の障害にならないと見ているようだ。スイスは小国である利点を生かして、これまでも国内における外国人労働者の管理を厳しく維持してきた。シンガポールと同様に外国人労働者のコントロールを巧みに行っている例として注目されてきた。
スイスを支えてきた伝統の時計産業の激しい盛衰を、スウオッチ革命などで乗り越え、したたかに強靭さを維持してきた。知的所有権管理、充実した教育や福祉制度なども産業基盤を支えている。高度な技能を持つ専門技術者の養成・確保などと併せて、移民受け入れ政策がしっかりリンクされている。移民労働者問題のウオッチャーとして、今後も目を離せない国のひとつである。
Reference
"Tilting at windmills." The Economist September 30th 2006.