今年のノーベル文学賞は現代トルコの作家オルハン・パムク氏に授与されることになった。この小さなブログでも再三とりあげていただけに、大変うれしい思いがする。パムク氏の作品は西欧世界では広く知られているが、邦訳としては『わたしの名は紅』、『雪』が刊行されている。日本の文学愛好者の間では必ずしも知名度が高くなかっただけに、この作家の紹介に小さな役割を果たしえたことを喜んでいる*。
パムク氏は、このブログでも記したが、昨年トルコ国内でタブー視されている第一次大戦直後のオスマン帝国崩壊時にアルメニア人大量殺害を認める発言などで、イスタンブール市検察から「国家侮辱罪」に問われた。しかし、裁判はトルコのEU加盟への影響を懸念したとみられる政治的判断で取り下げられた。
トルコでイスラム系として初の単独政権を2002年に樹立したエルドアン首相が率いる公正発展党は、穏健な対外政策を掲げ、EU加盟を最優先課題としてきた。しかし、トルコの「負の歴史」の清算を求めるEU側の要求に刺激された民族主義の高まりなどもあり、トルコ国内でも加盟熱は急速に冷却している。
キプロス問題も暗礁に乗り上げている課題である。最近トルコを訪れたドイツのメルケル首相はキプロス問題に関し、「加盟交渉を続けるためには解決すべきだ」と強調した。これに対しエルドアン首相は「要求は不公平なものだ」と反発した。メルケル首相は、トルコは全面加盟でなく「特権的パートナーシップ」がふさわしいとしている。
パムク氏の作品には東西文化の出会いと葛藤、そしてその行方を暗示するものが多い。今回の受賞とあいまってトルコへの関心は、一段と高まるだろう。その行方を見守りたい。
*このブログでは日本で未だ翻訳されていない同氏の作品『白い城』と『イスタンブール』を取り上げている。