EU主要国の中でほとんど唯一、中東欧諸国からの出稼ぎ労働者を受け入れていたイギリスもついに制限措置へ後退を余儀なくされるようだ。
リード内相は10月24日、来年1月からEUに加盟するルーマニアとブルガリアの出稼ぎ労働者に対し、受け入れ制限を設ける方針を明らかにした。これまで2004年にEU入りしたポーランドなど東欧8カ国からの労働者については原則無制限で受け入れてきた。しかし、政府の予想を大きく上回る流入があったため、この政策転換を迫られた。
このブログで再三指摘してきたように、グローバル化が進み、情報も瞬時に伝達される世界では、一カ国だけが他と異なった開放政策をとると、たちまちその国に移民労働者が集中する現象が生まれる。しかし、いまや移民に頼らずに経済運営をしていける先進国はまずない。「ある日移民がいなくなったら」、日本の自動車産業はストップしてしまうだろう。移民(受け入れ)政策は、それだけの重みを持つようになっている。
イギリス内務省によると、制限が設けられるのは技能の低い労働者であり、原則として労働力が不足している食品加工と農業の2分野に限って受け入れ、年間2万人の上限枠も設ける。一方、IT技師など高度な技術力を持つ労働者や学生らは優先的に受け入れる。
内務省は今回の制限措置は1年後に見直すとしているが、制限対象と成った両国は、他のEU加盟国も受け入れ制限に傾くことを懸念している。アイルランドは24日、イギリスと同じく職業別に就労許可を与える制限を導入する方針を発表した。
10月に開催された保守党大会で、影の内相デイヴィッド・デイヴィスも述べているように、仮に政権が労働党から保守党へ変わっても、移民受け入れについては管理が強まる方向となり、大きな変化は予想できない。
イギリスが受け入れ制限へ後退することで、EUの移民受け入れ政策は再び混迷の霧の中へ入り込んだようだ。
Reference
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/5398702.stm
「英、労働者受け入れ制限」『朝日新聞』夕刊、2006年10月25日