寄せては返す波のように、「豊かさ」を求めて押し寄せる移民労働者は絶えることがない。それに伴いさまざまな問題が生まれている。しかし、適切な対応策を講じないかぎり、事態は悪化するばかりである。ABCなどのメディアが伝えるところでは、昨年来、アメリカ議会で大きな議論の的であった移民法改正について10月4日、ブッシュ大統領はやっとひとつの具体策へと踏み切った(これまで再三、記事に取り上げたことで新味はまったくないが、ひとつの動きとして記しておこう)。
メキシコ国境から流入する不法移民対策として、全長約700マイル(約1120キロ)の国境フェンスの建設などを含む国土安全保障関連予算案に署名した。フェンス増強案は下院を2週間ほど前に通過し、その後上院も通過したことを受けての署名である。
ブッシュ大統領の(珍しくまともな方向と思われる)包括的アプローチは議会で受け入れられる見通しはなく、見切りをつけて部分的な対応に切り替えたとみられる。11月に迫った中間選挙を意識した対応でもある。[ちなみに、包括的アプローチの内容は国境警備の強化、不法移民や彼らに依存する雇用主の取り締まり強化、アメリカにいる不法滞在者に期限を区切って合法就労を認める一時的労働許可制度(ゲストワーカー・プログラム)の3本柱からなっている。]
成立した関連予算総額は380億ドル、フェンス国境建設など国境警備のための12億ドルを含んでいる。これまでの法律では国境を入国に必要な書類を保持せずに越境する人々は違法だが、国境の下をトンネルで通過することは違法とされなかった。近年発見されただけでも、39本のトンネルを通して越境者や密輸品がアメリカへ送り込まれた。さすがに、この点については上下院ともに満場一致で違法との法案が通過した。
大統領は不法移民が「公立の学校や病院を利用することで、地元自治体の予算に負担をかけ、一部で犯罪も増加している」と述べ、今回の施策の必要を強調した。さらに、国境の壁を増強するだけでは問題の改善には不十分であるとし、一定の条件を満たす不法移民にゲストワーカー(一時的出稼ぎ労働者)の道を準備する必要があると強調した。この点は、農業、建設など産業界が低賃金労働力を必要とするとの要請に応えるためである。
しかし、世論は不法移民への厳しさを再び強めてきた。新たな流入ばかりでなく、すでにアメリカ国内に居住している家族を含めると1100万人ともいわれる不法滞在者との間でも、さまざまな摩擦が見られるが、解消に向かっての議論は進展していない。政策対応がなされない間に不法滞在者が急増し、それ自体が巨大な政治勢力となってしまった。
今回の国境の壁を増強する制限的対応は、相対的に自由な国と見られてきたアメリカのイメージに一段の閉鎖性を加えるものであり、EUなどの動きとも根底でつながるものがある。アナクロニズムの「万里の長城」との批判もある。グローバル化の世紀といわれながらも、世界にはさまざまな分断化の動きが目立つ。世界各地に拡大しはじめた民族主義の動きとともに、行方を見守りたい。