あの映画「13歳の夏に僕は生まれた」が描いたように、人口が増え続けるアフリカから豊かなヨーロッパを目指す人々の流れが再び増加している。なかでも、スペイン領カナリア諸島を経由して大陸へ入り込もうとする不法移民は依然としてヨーロッパ諸国にとっても大きな問題となっている。
彼らの旅路はけわしい。大西洋の荒波に5人に1人は海上で死亡したと推定されている。今年に入ってからでも、すでに数千人に達したとみられる。モロッコなどからカナリア諸島へ向けて海上の旅だけでも4日近くを要する。彼らの多くは手こぎボートか船外機程度の小舟で目的地を目指す。航海の手段としても、コンパス程度で無線もない。貨物船の場合は、甲板に500-600人を載せる。食物や水もほどんど所持していない。
移民政策が描けないスペイン
彼らが最初に目指すスペインでは、社会党の現政権は予想以上にうまくやっているが、移民受け入れ政策がアキレス腱である。毎日のように、カナリア諸島へたどり着くアフリカ系移民の映像がTVで放映されている。多くの対応しがたい問題が生まれる。過去3年間に50万人以上が入国、昨年はおよそ70万人がアムネスティの発動で合法滞在を認められた。移民はスペインではいまや見慣れた光景になっているが、問題は政策がないことだ。
社会党政権は「労働市場が吸収できるかぎり受け入れる」という考えのようだが、将来についての見通しは不明なままである。昨年は約65万人が入国し、スペインの人口を440万人以上に押し上げた。移民は6年間でスペインの全人口の8.7%に達した。その多くは建設現場や家事労働者として働いている。
さらに彼らはスペイン国境を越えて、フランス、ドイツ、イギリスなどを目指す。そのため、他のEU諸国とてもスペインの寛容な受け入れ政策を認めがたい。
移民受け入れで乗り切る?
スペイン自体、移民で潤っている。社会保障費の収入で、年金危機が先延ばしになっている。移民は消費需要を押し上げ、GDPを増加させて昨年は前年比3.7%の伸びである。出生率が低いスペインでは、労働コストを引き下げる効果もある。ある予測は、スペインは2020年までにさらに4百万人の労働者を必要とするとみている。家族まで含めると1千万人近い数である。スペイン人の合計特殊出生率は1.35と低い。活力を維持するには移民に頼らざるを得ない。政府は移民を増やしたい。
移民に厳しくなったフランス
他方、スペインと国境を接するフランスでは、あの「郊外暴動」以来、移民受け入れへの反対が強まっている。フランスにはアフリカ、マグレブなどから20-40万人の不法滞在者がいると推定されている。ニコラス・サルコジ内相は不法移民に対して強い姿勢をとってきた。彼は不法移民の大量合法化は実施しないと強調している。しかし、強行路線も難しい問題を含んでいる。
今年夏、フランス政府は子供が在学中の家族については申請によって個別に審査の上、在留を認めるという方針を打ち出した。約3万人が申請し、7千人近くが認められた。今のところ強制送還されたものは少ないようだ。サルコジは移民に厳しい姿勢を打ち出さないと、極右政党の国民戦線のジャン・マリ・ルペンが有利になることを知っている。ルペン党首は2002年の大統領選挙で社会党候補に勝っている。それだけに、サルコジなど主流は2007年に向けて二の舞は繰り返したくない。
EU拡大時に移民受け入れに開放的政策をとったイギリスも、予想外の大きな流入に腰が引けてきた。EUの統合移民政策はなかなか足並みがそろわない。
References
BBC April 5, 2006
’Spain: Huddled against the masses.’ The Economist. October 14th, 2006.
‘France: Sound and fury.’ The Economist. October 14th 2006.
’Belgium: Right on.’ The Economist. October 14th 2006.