事なかれ主義で仕事を進めていた市役所の市民課に努める定年間際と思われる男性。自分が余命6か月と宣告されると、判で押したような毎日を見つめなおすのだ。
いつものように職場には向かわず、貯金を下ろして海辺の街に向かうも、何をやっていいかも思いつかない。偶然出会った作家に自分の睡眠薬を渡し夜の街での遊び方を教示されるも心は晴れないのだ。結局、元の職場に戻り、自分が先送りにしやり残していた事をやろうとする男性。
*****
1953年のロンドンの役所勤めの面々の日常の様式美に驚くばかりだ。仕立てだであろう背広に山高帽、雨の多いロンドンらしく手には長い雨傘を持ち、毎朝同じ時刻の電車に乗り込み無駄口は叩かずに同僚と職場に向かう。回って来た仕事は自らが調整するのではなく、別の部署にさりげなく周り、戻って来た書類は棚に積み上げる。波風を立てない事を美徳と考えているであろうことが分かる日常の過ごし方。
そんな彼が突然後回しにしてきた公園設置を実現させようとする。『ことなかれ主義』だったはずの上司の変貌に驚く部下たちに多くは語らず、ただすっかり変わった自分の姿を見せる彼。
*******
人生の終わりを前に、心残りを少しでも無くすべく公園の設置に尽力する。そして、ことなかれ主義が蔓延していた職場の中で一筋の明るさを示してくれた若い女性部下には自分の思いを吐露し、まだ職場の文化になじんでいなかった新人には真摯に仕事をする事の大切さを説こうとする。彼の最後の時間をそばで見ていた事で「もっと何か出来たのではないか・・・」と後悔の念を持ったかもしれない若い二人に彼が示したのは、最後に何かを成し遂げようとする自分自身の姿だったのだ。
自分のそんな姿を見せる事がかえって負担になると思った息子には何も言わず、自分の思いを分かってくれるであろう若い二人には自分の思いを告げて静かに去って行く。
人生の最後をどんな風に過ごしたらいいのか・・・涙しながら考える。