去る9月に発行された、旅行作家・下川裕治氏の『東南アジア鉄道全鉄道制覇の旅』続編(双葉文庫)がメッチャ面白いです。今回はとりわけ、長大な路線網を誇るインドネシアでの乗り潰しに重点が置かれているわけですが、KAIならではの発想による列車運行や、列車名が付いた客レの全席指定席化に大いに翻弄され、日本と同じ発想での乗り潰しが出来ない苦悩の繰り返しに、「あ〜、インドネシア鉄あるある!」と思わずニヤリとしてしまうのでありました。具体的に申しますと、地方の末端路線で毎日1〜2往復の列車が運行されている場合、その列車は往々にして大都市への直通需要のみを考えて設定されており、地方交通としての位置づけではないため、早朝・深夜のみの運行であったり、運賃も短・中距離客を排除して「バスに乗れ!」という暗黙のメッセージを送るため、短距離しか乗らずとも相当長い区間と同じ運賃を取られたり……(目的地と終点がなるべく近い列車に乗るのが賢明です。幹線でも、同じ区間・等級であるにもかかわらず運賃が全然異なるのがフツーです)。
というわけで、とある支線の列車に支線の分岐駅から早朝深夜に乗ろうとすると、実は最初からジャカルタやスラバヤから通し乗って来る方が遥かにラクだった、というトホホな事態に次から次へと直面し、事前の時刻表研究が死活的に重要であることを下川氏も思い知らされるのでした……。
そして、もう一つのクセモノが、ネームド・トレインの全車指定席化。これもまた、旅客が全員座って行けるようにというKAIの大御心にして、「立ちんぼのキセル野郎は乗るべからず! 混み混みでなければ車内検札も楽勝! 運賃取りっぱぐれは過去の話!」という気合いの入ったメッセージでもあるのですが、その結果、土曜休日や学校休校日の人気列車の切符は、オンラインで事前予約する地元客で早々に埋まり、短期で訪れる外国人は「立ちでも良いのに乗れないとは……」と泣きを見ることになります。否そもそも、外国人も楽勝でオンライン予約・クレカ決済できれば文句はなく (既にタイは可能)、あるいはその路線に当日売りしかない鈍行列車が走っていれば良いのですが、インドネシアのオンライン予約は海外発行クレカを受け付けないという曲者ですし、そもそも鈍行列車がネームド・トレインとなって全席指定席だったりするという「何じゃそりゃ」ぶりですので何をか言わんや。
その結果、下川氏はボゴール・パレダンからチアンジュールまで、スカブミ線の乗り潰しをしようとして、2度もSold Outを宣告されるという悲惨な境遇に直面したという……。スカブミ線が日本製KRDで運行を再開した頃は、全車自由席の2等運賃列車でしたし、私がスカブミ〜チアンジュール間の運行再開間もない頃に乗った際にも、フツーに発車間際の購入が可能だったものです。年々、渋滞が酷くなって列車の旅が見直されていること、そして路線再開から時間が経ち、すっかり知名度も広まったことが、毎日3往復の列車満席御礼ということにつながっているのでしょう。
そんなスカブミ線も、ゆくゆくはスカブミまで複線電化され、予約に苦しむことなく205系など日本中古電車で往復できるようになるとは、世の中本当に変わりゆくものでございます。キハ40系列のインドネシア版とも言うべきKRDの「ブミグリス」が往復していたのも遥か昔であるかのような気がして来ました。