今日のNHKスペシャルは、久しぶりに傑作を見た気がした。戦場写真家のロバートキャパを、ライフの取り上げられて一躍有名にした、「崩れ落ちる兵士」の写真の、真贋についである。
この戦場の写真として最も有名なこの写真は、発表当初から多くの疑問が指摘されていた。それらの疑問に、キャパは固く口御閉ざしたままであった。番組は、キャパのフアンでもある作家の沢木耕太郎氏が、NHKなどの最新の技術を用いて解明していた。
キャパの研究所が提示ている、同じ時に撮られた42枚の写真の地平線の形から、場所を特定した。スペインのエスペホの丘と特定した。
同じ写真から、銃が戦闘用になっていなかったこと、戦闘が起きた時よりも早く撮られていたこと、を特定している。同じ人物が撮られた類似の写真の中から、直前の1枚の写真を特定している。
更に兵士たちの動きから、この直前の写真が0.86秒前であったと推察し、異なるカメラで撮られていると断定している。更にそのカメラは、2眼レフのローライフレックスであると推定している。キャパはライカで撮っていた。
ローライを使っていたのは、2歳年上の同じユダヤ人の恋人のゲルダである。ゲルダも戦場カメラマンとして活躍していた。崩れ落ちる兵士の写真は、同じ流れの中で彼女が撮った写真だと、沢木は推察する。
ゲルダは、ライフにこの写真が発表される直前に、同じくスペイン戦争で撮影中に亡くなっている。
崩れ落ちる写真が、兵士たちの非戦闘時に撮られていること。写真を撮ったのはゲルダであったこと。キャパは共和国側に立っていたこと、などから彼が、この写真について語らなかった胸の内が読める。
彼はその後、この写真の事実と恋人の死から立ち直り、ノルマンディー上陸作戦の兵士を撮っている。しかも前からである。銃弾の中での写真は、写真処理の誤りで流れていることが返って、臨場感を表している。
私は「人間とはないか」という写真集を若いころ買っている。キャパの写真が数枚ある。戦争の意味を問い、告発し人の心を強く打つものである。キャパは、1954年にインドシナ戦争で、ベトナム取材中に地雷を踏み死亡している。
写真の持つ力をキャパは引き出し、戦争の意味を問い続けていた。「崩れ落ちる兵士」が、非戦闘時であっても、恋人の撮ったものであったとしても、彼の偉大さは何も失われるものではない。
1936年「死の瞬間」は衝撃を受けた写真でした。古い写真集ですが、ライフ写真講座の「写真の主題」にも掲載されています。
再放送がありますので、録画予約をしておきました。