このところ世界で移民をテーマとした小説や映画が話題を呼んでいる。そのひとつ、フランク・マコートの『アンジェラの灰』 (Frank McCourt. Angela's Ashes. New York: Scribner, 1999)は、すでに26カ国で翻訳され、600万部という世界的なベストセラーとなった。翻訳ばかりでなく、映画化(アラン・パーカー監督)もされ、日本でも最近公開された。
この作品は、アメリカの文壇では引退した年代とみられる66歳の元教師の手になる、アイルランド移民の極貧な生活を題材とした自伝的小説あるいは回想録ともいうべきものだが、なぜこれほどまでに人々の心をとらえたのだろうか。
自伝や回想録は通常、人生において成功をした人々を対象としたものが多い。成功や名声とはおよそ反対の極にある貧乏というものが、実際にいかなるものなのかということを、赤裸々に描いたこの作品がなぜ、これほどまでに注目されたのか。さまざまな理由が考えられるが、近年のグローバリゼーションの展開が背景にあることは確かなようだ。
グローバル化が生んだ民族への関心
グローバル化が進み、世界の経済活動の画一化が進む反面で、民族や人種についての再確認や再発見の動きが進んでいる。アイルランドとアメリカを題材としたこの作品も、アイルランドという国あるいはアイリッシュ文化へのさまざまな思いがこめられている。世界的大恐慌の嵐が吹き荒れる1930年代におけるアイルランド人、とりわけアイルランド・カトリックの貧困がいかに惨めなものかをこの作品はひとつの家族を通して、描き尽くしている。ちなみに、アメリカやイギリスの移民史で、アイルランドは貧困度が高く、多数の移民を送り出したが、それが経済発展に結びつかない国の例としてしばしば登場する。もっとも、最近はやや明るさが見えてはいるが。
過ぎし日の移民生活
アイルランドからアメリカへの移民、そして再びアメリカからアイルランドへの移住が、いかなることを意味したのか。著者のフランク・マコートは、1930年アイルランド移民の長男としてニューヨークに生まれた。その後、4歳でアイルランドへ逆に移住し、家族とともに文字通り極貧の生活を送った。その貧困の程度は、アメリカでの貧困よりもさらにひどいものであった。飲んだくれの父親、愛する子供のために奔走するが、努力もかなわず暖炉の傍らで悲嘆にくれる母親、次々に生まれるが、次々に死んでゆく子供たちなど、貧困のきわみともいうべき生活がこれでもかとばかりに描かれている。しかし、マコートはそれを単に悲惨さの一色で塗りつぶしていない。巧みな筆致によって、悲惨さと滑稽さを織り交ぜて、アメリカそしてアイルランド移民の過ぎし日を描いている。
友人に勧められた原書は俗語も多く、私の英語力では難渋したが、なんとか読み通すことができたのは、作者のプロット展開のうまさによるところが多い。これから本書を読み、映画を見る人も多いことを考えて、内容についてはこれ以上触れないことにしよう。
旧ホームページから転載
この作品は、アメリカの文壇では引退した年代とみられる66歳の元教師の手になる、アイルランド移民の極貧な生活を題材とした自伝的小説あるいは回想録ともいうべきものだが、なぜこれほどまでに人々の心をとらえたのだろうか。
自伝や回想録は通常、人生において成功をした人々を対象としたものが多い。成功や名声とはおよそ反対の極にある貧乏というものが、実際にいかなるものなのかということを、赤裸々に描いたこの作品がなぜ、これほどまでに注目されたのか。さまざまな理由が考えられるが、近年のグローバリゼーションの展開が背景にあることは確かなようだ。
グローバル化が生んだ民族への関心
グローバル化が進み、世界の経済活動の画一化が進む反面で、民族や人種についての再確認や再発見の動きが進んでいる。アイルランドとアメリカを題材としたこの作品も、アイルランドという国あるいはアイリッシュ文化へのさまざまな思いがこめられている。世界的大恐慌の嵐が吹き荒れる1930年代におけるアイルランド人、とりわけアイルランド・カトリックの貧困がいかに惨めなものかをこの作品はひとつの家族を通して、描き尽くしている。ちなみに、アメリカやイギリスの移民史で、アイルランドは貧困度が高く、多数の移民を送り出したが、それが経済発展に結びつかない国の例としてしばしば登場する。もっとも、最近はやや明るさが見えてはいるが。
過ぎし日の移民生活
アイルランドからアメリカへの移民、そして再びアメリカからアイルランドへの移住が、いかなることを意味したのか。著者のフランク・マコートは、1930年アイルランド移民の長男としてニューヨークに生まれた。その後、4歳でアイルランドへ逆に移住し、家族とともに文字通り極貧の生活を送った。その貧困の程度は、アメリカでの貧困よりもさらにひどいものであった。飲んだくれの父親、愛する子供のために奔走するが、努力もかなわず暖炉の傍らで悲嘆にくれる母親、次々に生まれるが、次々に死んでゆく子供たちなど、貧困のきわみともいうべき生活がこれでもかとばかりに描かれている。しかし、マコートはそれを単に悲惨さの一色で塗りつぶしていない。巧みな筆致によって、悲惨さと滑稽さを織り交ぜて、アメリカそしてアイルランド移民の過ぎし日を描いている。
友人に勧められた原書は俗語も多く、私の英語力では難渋したが、なんとか読み通すことができたのは、作者のプロット展開のうまさによるところが多い。これから本書を読み、映画を見る人も多いことを考えて、内容についてはこれ以上触れないことにしよう。
旧ホームページから転載