日本経済は10年前と比較して、良くなったのか悪くなったのか。立場によってかなり見方は異なる。ライブドア事件後の株価の動きなどに見られるように、一時期とはかなり様相が変わってはきた。長期にわたった深刻な停滞から漸く脱出する兆しが見えて、最近はかなり明るさも感じられるようになった。国会論争でも「光」と「影」という表現で、議論の応酬が見られる。この点を判断するに、このごろはあまり見かけなくなった「ミザリー(悲惨度)指数」*が計算されているのを見かけたのでご紹介しておこう。
これは元来は失業率とインフレ率を加算したものである。別に公式に認められた統計指標ではなく、ひとつの簡単な目安としてアメリカの経済学者アーサー・オークンが1970年代の第一次石油危機後の状況を示すのに紹介したものであった。当時は失業とインフレが併存し急増していたので都合がよかった。そして、カーター大統領がしばしば引用してよく知られるようになった。
今回紹介するのは、メリル・リンチのエコノミストが、この「ミザリー指数」に少し手を加えたものである。失業率とインフレ率に加えて、利子率と予算および経常収支差を加えた上で、そこからGDP成長率を差し引くという内容である。いいかえると、この指標は今日経済がどのくらい明るく感じられるかということに加えて、予算と経常収支差を加えることで、その国が今後どれだけ明るさを維持できるかという視点を加えている。たとえば、大きな予算収支のマイナスは将来における増税の可能性を暗示すると考えられる。
アメリカについてこの指標をみると、G7諸国の中でも巨額な赤字の故に、高い数値になっている。過去10年間についてみると、アメリカは指数が悪化した唯一の国である。その他の国はEUを含めて、かなりの改善が見られる。 ここに挙げられた諸国の間で最も顕著な改善を見せているのはカナダである。アメリカと地続きの隣国だが、経常収支と予算ともに黒字である。
日本は判断の難しい存在である。10年以上の停滞の後、1994年の水準に戻っているような印象だが、日本だけがデフレを悪い要素でなく、良い要素と考えている。 少なくもそう考える人々が多い。指標が示す数値自体は、悪くはないのだが、国民の間に存在する将来へのさまざまな不安感は、世論調査などを見ても他国よりもはるかに大きい。目先の事態を糊塗するだけで、将来の構想を示し得ない政治の責任というべきだろうか。
Reference
* 'Les misérables' The Economist January 14th 2006
これは元来は失業率とインフレ率を加算したものである。別に公式に認められた統計指標ではなく、ひとつの簡単な目安としてアメリカの経済学者アーサー・オークンが1970年代の第一次石油危機後の状況を示すのに紹介したものであった。当時は失業とインフレが併存し急増していたので都合がよかった。そして、カーター大統領がしばしば引用してよく知られるようになった。
今回紹介するのは、メリル・リンチのエコノミストが、この「ミザリー指数」に少し手を加えたものである。失業率とインフレ率に加えて、利子率と予算および経常収支差を加えた上で、そこからGDP成長率を差し引くという内容である。いいかえると、この指標は今日経済がどのくらい明るく感じられるかということに加えて、予算と経常収支差を加えることで、その国が今後どれだけ明るさを維持できるかという視点を加えている。たとえば、大きな予算収支のマイナスは将来における増税の可能性を暗示すると考えられる。
アメリカについてこの指標をみると、G7諸国の中でも巨額な赤字の故に、高い数値になっている。過去10年間についてみると、アメリカは指数が悪化した唯一の国である。その他の国はEUを含めて、かなりの改善が見られる。 ここに挙げられた諸国の間で最も顕著な改善を見せているのはカナダである。アメリカと地続きの隣国だが、経常収支と予算ともに黒字である。
日本は判断の難しい存在である。10年以上の停滞の後、1994年の水準に戻っているような印象だが、日本だけがデフレを悪い要素でなく、良い要素と考えている。 少なくもそう考える人々が多い。指標が示す数値自体は、悪くはないのだが、国民の間に存在する将来へのさまざまな不安感は、世論調査などを見ても他国よりもはるかに大きい。目先の事態を糊塗するだけで、将来の構想を示し得ない政治の責任というべきだろうか。
Reference
* 'Les misérables' The Economist January 14th 2006