フィリピンにまたクーデター騒ぎが起きている。アロヨ大統領は2月24日、国家非常事態宣言を発令した。政治的不安定はこの国の抱える最も深刻な病態である。
犠牲者が1000名を越えるといわれるフィリピン中部レイテ島に起きた大規模な地滑りは、未だ救援活動も本格化していない。その中でのクーデター事件、他の国の出来事とはいえ、なんともいいようがない。
フィリピンを対象とするひとつの調査にかかわっていることもあって、なんとか社会の安定を取り戻してほしいと願うばかりである。かつてはアジアの開発途上国の優等生とまでいわれた国であった。しかし、残念ながら今日その面影はどこにもない。
海外送金は増えたが
他方、フィリピン中央銀行の発表では、2005年にフィリピン人海外労働者が母国に送った外貨の増額は107億ドル(約1兆2600億円)と前年を25%上回ったと伝えている。雇用不足や低賃金を背景に海外への移住・就職を希望する人が増加、外貨送金がかろうじて国内経済を支えている。
2005年に新規契約あるいは契約更新して出国したフィリピン人労働者は同国の労働者輸出機関ともいうべき海外雇用庁(POEA)によると、98万1677人で前年比5%増加とのことである。 他に資源がないから人を輸出するのだ、フィリピンの労働者は評判が良いから需要はいくらでもあると当然のごとくに主張する同国政府関係者には、他の道もあるのではないかといいたくなる。
移民立国の難しさ
こうした風土が根付いてしまうと、労働者の方も自国で働くことは最初から念頭になく、海外出稼ぎを前提として、教育や職業機会を選択している。この国特有の明るさがわずかな救いだが、やはり政策の方向が間違っているのではないだろうか。 移民の送金に頼って立国、経済発展をした例はきわめて少ない。出稼ぎの期間が長引くほど、家族離散 diaspora の悲劇も増える。
政治の不安定は、海外からの投資もためらわせる。一度は企業化しても社会の不安定に見切りをつけて、撤退してしまう企業が多い。国内に安定した雇用機会が生まれないので、労働者も海外に出てしまうという悪循環から抜け出ることができない。
美しい島々、逆境でも明るさを失わない人々が、かろうじてこの国を支えている。政治の安定化と経済政策の見直しは、為政者が根本から考えねばならない課題である。