日本人は絶滅?
先進諸国に高齢化の大波が押し寄せている。なかでも少子化が格段に進んでいる日本は最も厳しい状況にある。このままでは900年後に日本人は絶滅するという推測もある。
最近のNewsweekが「新高齢社会」という特集を組んでいる*。(その割には内容にとぼしいのだが。) 冒頭に1997年に日本の佐賀県に設置されたJEEBAという「高齢者の、高齢者による、高齢者のため」の会社“Of the elderly, by the elderly and for the elderly”が紹介されている。この会社に働くのは 60歳から75歳の人々である。高齢者用品を専門に作っている。これから、こうした会社が増えて行くだろうという予想である。
限られた選択肢
高齢化による労働力減少、医療コストの膨張、年金システムの崩壊は程度の差はあるが、多くの先進諸国を脅かしている。この状況への選択肢は、どの国でも以前よりずっと高齢まで働くしかないようだ。EUではフィンランドやデンマークのように戦後長く続いた退職年齢を早める動きを逆転させ、退職を遅らせる方向になっている。かつてのように、早く退職し、ゆとりあるゴールデンライフを楽しむという時代は終わりを告げつつある。
ドイツやアイルランドも、長らく早期退職を勧め、労働力の若返りをはかってきた。多くのOECD加盟国では、平均すると退職年齢は1950年の69歳から61歳へと若くなってきた。フランスでは80歳近い平均寿命の下で、労働者は平均59歳で退職し、20年以上国民年金で生きるというパターンが一般化していたが、もはや機能しなくなっている。
国民の抵抗も
しかし、流れを逆転させる提案には反対も強い。昨年、ベルギー、イタリア、フランスは、年金給付年次の引き上げなどを含む改革案を提示したが、国民からの強い反対にあった。メルケル首相のドイツも、退職年齢を2008年から2032年の間に65歳から67歳へ引き上げるについて、速度を遅らすことを余儀なくされた。現時点では2008-2032年の間に1年について1ヶ月増やすことになっている。
待ったなしの日本
日本は今後10年に15-64歳層が年74万人ずつ減少する。企業はきわめて深刻な労働力不足に見舞われる。すでにその前兆はいたるところにみられる。フリーター、ニートなどに気をとられている間に、働き手がいなくなってしまうのだ。企業としては、選択肢は限られている。
1) 定年延長
2) 定年制度廃止
3) 再雇用
のいずれかを選ぶしかない。本来、働き続けるか、引退して余暇を楽しむかの選択は、法律などで定められるのでなく、労働者が自分自身の意思で選択することが望ましいのだが、現実はそれを許さない。アメリカなどわずかな国が年齢による差別禁止の理由で定年制を廃止している。日本の企業は、ほとんどが再雇用という形を採用するのだろう。定年延長は制度が硬直的になりやすい。従業員の高齢化は生産性にも影響する。
「第3の時代」は蜃気楼か
退職は労働生活へのご褒美ではなくなった。今までよりずっと長く働き、健康に恵まれ、平均寿命より長く生きれば年金で余暇を楽しめるということになるのだろうか。1889年、最初の「福祉国家」の基礎を創った宰相ビスマルクの時代へ逆戻りするような感じがする。
ちなみに、ビスマルクの時代に初めて国家として高齢市民に対する扶助責任が明らかにされ、「高齢者」の範囲が確定された。この時に65歳が基準として採用されたが、取り立てて明確な理由は存在しなかった。1880年代の平均余命は40-45歳で、ビスマルクの保険数理士が進言したように、為政者の財源にとってきわめて「安全な」設定であった。なお1889年時点で、ビスマルクは74歳、きわめて壮健であった**。
その後、イギリス、アメリカなどの諸国は、ビスマルクの前例にならい、65歳という年齢が次第に給付適格年齢として採用され、また退職の年齢としても使われるようになった。
社会保障制度もその後大きな変遷を遂げたが、厳しい労働生活に耐えて生き長らえた人々だけが年金生活を享受できる。年金保険料の「元を取る」のも厳しくなった。一時は人生に「労働」の時期の後に、自分のやりたいことが楽しめる「第3の時期」が生まれそうに見えたが、蜃気楼だったのだろうか。
Reference
*
“The New Old Age”, Newsweek , January 30, 2006
**
U.S. Congress. Senate. Special Committee on aging. The Next Steps in Combating Age Discrimination in employment Policy. Washington, D.C., GPO, 1977.