深夜に近く、ほとんど見るともなしにつけたTVに、どこかで見たような光景が映った。このブログで度々触れたラ・トゥールの「キリストと12使徒」シリーズが掲げられていたアルビの城塞のような大聖堂、そして市立トゥールーズ・ロートレック美術館の館内だった。南フランス、ミディ・ピレネー Mid-Pyrenees と呼ばれるスペイン国境に接するフランスの地域の紹介だった。
アルビは、キリスト教異端のカタリ派の拠点として、知られてきた。カタリ派は善悪二元論を中心とした信仰に帰依し、カトリックから激しい弾圧を受け、十字軍によって破壊された。そして、カトリックの権威を示すために建立されたのがサント・セシル大聖堂だった。「キリストと12使徒」シリーズは、ある時期、具体的にはフランス革命の1795年段階までは、この大聖堂の内陣、第6番の礼拝堂に掲げられていたことが判明している。しかし、その後忽然と姿を消してしまった。その経緯は、このブログでも記したことがある。この画家の作品と推定されるものは、このシリーズの一部を含めても今日40点程度しかない。
他方、アルビは、アンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック Henri de Toulouse-Lautrec(1864-1901)の生まれ故郷として知られる。ロートレックが36歳の若さで死去したのち、残っていた作品は、母親の手で故郷であるアルビに寄贈された。ロートレックの生家は、旧市街のトゥルーズ=ロートレック通りに残っている。日本人はロートレックが大変好きなことは良く知られているが、この画家の愛好者にとっては、必見の場所である。作品は、トゥルーズ・ロートレック美術館として、1922年に元司教館を改装しオープンした。画家の作品の6割近いといわれる1000点余の作品が収められている。トゥルーズ=ロートレックは多作な画家として知られるが、これだけでも驚嘆すべき数である。しかし、一般によく知られた名作はほとんどオルセーなどが所有している。
ラ・トゥールの「12使徒シリーズ」は、一部の未発見品を含めて、ほとんど世界中に散逸した状況だが、2点はここに展示されている。最初の依頼主はアルビ大聖堂とは関係がないと見られており、ヴィックやロレーヌの教会、修道院などから転々と所有者が移った可能性も高い。もしかすると、ラ・トゥールが画家として手ほどきを受けた可能性がある、ヴィックのドゴス親方の工房が請け負った作品群かもしれない。ドゴス親方の作品として確認されるものはなにひとつ発見されていない。しかし、祭壇画や聖人の絵などを得意としていたらしいことが記録から類推できる。「12使徒シリーズ」の制作から再発見までの経緯は不明だが、かなり謎めいている。今後、新たな史料などが発見されるかも知れず、興味深い。
さて、TVの方はというと、トゥルーズ=ロートレック、ラ・トゥールいずれの作品にも触れることなく、この地方の特産であるアーティチョーク、ブロッコリー、大蒜などを紹介し、出演者が名物料理のカスレcassoulet を食べている場面を映して終了。やはり「花より団子」なのか。