ベルリン植物園温室: Photo Y.Kuwahara
ベルリンという都市は大変美しいが、ある種の陰翳を感じると記したことがあった。それがなにに由来するものかはよく分からない。人口340万人の大都市なのだが、パリ、ロンドン、ローマといった都市にあるざわめき、喧騒といったものがあまり感じられない。全体に人気のない道が多く、見ようによってはなんとなく沈んだような感じもする。
それでもベルリンを訪れる人は、昨年700万人に達し、その数はヨーロッパではロンドン、パリに次ぐ。この点について、たまたま小さな記事*を読んだ。そして、8日のTVは、1920年代のノスタルジックな歌曲を静かに歌う人気歌手マックス・ラーベ Max Raabeを映していた。
社会民主党の現市長クラウス・ヴォーヴェライト Klaus Wowereitは人気のある政治家だが、今のベルリンが持つ「貧しいがセクシーな都市」というイメージを変えたいらしい。そして目指すのは、あの1920年代の輝いていた日のベルリンのようだ。
そのために、市長は議会からの1000万ユーロの予算を確保して、2年計画で「ベルリン改革」計画に乗り出した。ベルリンは素晴らしい美術館群の整備もほとんど終え、加えて多くの劇場、クラブなど文化的基盤は厚く整っている。現代アートのギャラリーだけでも400はあるという。美術好きにはとても魅力的な都市だ。美術館も適度な数の人で静かな環境で見ることができた。
なにが足りないのだろう。パリやロンドンと比較すると、富裕層が少ないらしい。市民の二人に一人は、年金か雇用給付に頼って生活している。仕事がある人でも年間平均収入は32,600ユーロである。ドイツ人はベルリンへ旅行はするが、住むのは豊かな感じがするミュンヘンやハンブルグを選んでしまうという。さらにベルリンは都市としても610億ドルの負債を抱えてもいる。
第二次大戦では、戦火による破滅的な破壊を経験し、さらに東西ベルリンの統合という世界史的課題を克服して今日まできた。しかし、かつてこの都市を支えていた競争力を持った製造業もほとんど他へ移転して、サービス産業に依存する都市となっている。20億ユーロを投じるシェーネフェルド空港の拡張計画も遅れている。2011年には完成の予定らしい。
市長としては、輝き、さんざめいていたあの1920年代、ベルリンの日々を取り戻したいようだ。静かで芸術性に富んだベルリンでいいような気もするのだが。昔と同じような繁栄を追わなくともと思ってしまう。この都市はそれでなくとも、すでにかなり過去に規定されているのだから。
「それもまたよいのでは」 Und das ist auch gut so!
(Klaus Wowereit **)
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‘In search of the 1920s.’ The Economist July 23rd 2007
**ヴォーヴェライト氏は、自らがゲイであることを認めた時の発言。その後、流行語となった。