17世紀の姿をとどめるヴィック-シュル-セイユのサン・マリアン教会内部
Photo:YK
あのジョルジュ・ド・ラ・トゥール「大工聖ヨセフ」 Saint Joseph Carpenter, Christ with St.Joseph in the Carpenter's Shop. Musee du Louvre, Paris (Percy Moore Turner Bequest)が、40年を超える時を経て、再び東京(その後京都)にやってくる。まもなく開催される国立西洋美術館開館50周年記念事業としての「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」(2009年2月28日~6月14日)の目玉のひとつだ。
詳細は展覧会公式サイトなどをご覧いただくとして、今回の楽しみはレンブラント、フェルメール、ルーベンス、プッサン、ロラン、ラ・トゥール、ドメニキーノ、グェルチーノ、ベラスケス、ムリーリョといったルーヴルを代表する画家たちの重要な作品のいくつかを日本で見られることだ。
ラ・トゥール・フリークとしては、出展が予定されている「大工聖ヨセフ」は当然お勧めの一枚だ。今回展示されるこの作品は、これまでの人生でかなりの回数お目にかかったものだ。この素晴らしい作品は、ラ・トゥールにのめりこむようになった最初の一枚でもあるし、感慨無量だ。長らく仕事場にポスターを掲げていた。しばらく前から同じラ・トゥールの「生誕」に代えた。
「大工聖ヨセフ」は、過去にも一度だけ、1966年に東京(国立博物館「17世紀ヨーロッパ名画展」)へ来たことのあるルーヴルの誇る真作だ。2005年の東京でのジョルジュ・ド・ラ・トゥール展の際は、コピー(ブザンソン市立美術・考古学博物館)の出展であったので、日本で真作に再会することはもう無理かなと思っていた。そのため今回東京で見られるのは望外の喜びでもある。
新着の『芸術新潮』を見ている時に、思いがけない記事*で知ったのだが、美智子皇后もジョルジュ・ド・ラ・トゥールはお好きな画家のようだ。15年ほど前の訪欧の折、わざわざ南仏アルビのロートレック美術館まで行かれているとのこと。ここには、ロートレックに加えて、ラ・トゥールの「キリストと12使徒」(「アルビ・シリーズ」)の一部が所蔵されていることで知られている。
今回の展示作品で、個人的に楽しみにしているのは、クロード・ロラン (1602年頃−1682年)《クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス》 だ。この作品もすでにルーヴルで見ているのだが、クロード・ロランは、実はジョルジュ・ド・ラ・トゥールとほとんど同時代人であり、しかも同じロレーヌの出身だ(クロード・ロランについては、いずれ気づいたことなどを記してみたいと思っている)。
クロード・ロランは、幼年時代からイタリアへ行き、1625年から短期間フランスへ戻っただけで、生涯のほとんどをローマで過ごした。当時のロレーヌの画家の多くは、一度はローマで修業することを望んでいただけに、ラ・トゥールもロランのような旅あるいは人生を望んでいたかもしれないと思われる。イタリアはロレーヌの画家にも憧憬の地だった。ロランは望みを果たし、ニコラ・プッサンとともに古典主義的絵画の創造者となった。
今回出展される1644年頃に描かれた、《クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス》は、クロード・ロランが古典の高貴な題材と結びつけた美しい港を描いた一連の作品のうちに含まれる。
ラ・トゥールの作品は、見る人との対話を求めるものが多いだけに、静かな部屋で落ち着いて鑑賞できることが望ましい。しかし、これは東京の展示ではとてもかなわぬことだ。この不安と狂騒に満ちた時代、多くの人々がこの作品から心の安らぎを得られますよう。
* 「皇后美智子様絵画のひととき」『芸術新潮』February 2009
展覧会公式サイト http://www.ntv.co.jp/louvre/
本ブログ:
アルビの使徒シリーズ(2)
アルビの使徒シリーズ(3)