「日産をリストラになり流れ来たるブラジル人と隣りて眠る」(ホームレス)「朝日歌壇」(1月19日『朝日新聞』)
未曾有の大不況、新聞歌壇の投稿にも荒廃した世相を反映したものが目立つ。不況は弱者に厳しい。今回も派遣労働者、とりわけ日系ブラジル人など外国人労働者が真っ先に雇用削減の目標になっている。
振り返ってみると、1980年代後半から日本人労働者が集まらなくなり、企業は地球の反対側からも労働者を集めてきた。バブル崩壊後の90年代にも、建設業、製造業、サービス業などの労働者不足は進行し、外国人労働者は日系ブラジル人などを中心に着実に増加してきた。
彼らは多少の不況では帰国することなく、日本人労働者が就労したがらない分野などで、仕事に就いていた。将来が見えないままに、定住化も進んだ。しかし、今回の不況は激震となった。かつて、解雇はすべての手段を尽くした後にしか実施しないと豪語していた日本企業だが、その言はどこへやら、一斉に雇用削減に走っている。日本企業の競争力の重要な基盤は、従業員重視というところにあったはずなのだが。金融資本主義の野放図な氾濫は、経営者のモラルを著しく損傷した。
外国人労働者は、不況となると真っ先に解雇されてしまう。外国人労働者の宿命ではある。彼らは帰国することもままならず、住むところもなく寒空に夜を過ごす。派遣労働者となると、外国人労働者ばかりか日本人労働者も容赦なく解雇されてしまう。不安感が漂う社会心理への影響はきわめて大きい。これが世界第二の経済大国とはおよそ思えない光景がいたるところに見られる。「リストラ」(本来は、「経営基盤の再構築」 restructuring の意味)は、いまや「解雇」と同じ意味になってしまった。
日系ブラジル人労働者などの外国人労働者については、景気変動にリンクして増減する縁辺労働力の特徴と平行して、出稼ぎ先国での定住化が厳然と進んでいることが、すでに1980年代後半から指摘されてきた。しかし、定住基盤の整備は遅々として進まぬままに、滞在を続けるブラジル人は増加を続け、2007年末のブラジル人登録者数は31万7千人に達した。いつの間にか、日本語を使わなくても、日常生活に支障のない外国人コミュニティまで形成されている。
雇用、住宅、言語、地域など、外国人労働者の「社会的次元」に関わる政策は、ながらく各省庁に縦割りのまま分散されてきた。その統合の必要は、すでに80年代後半から指摘されてきたが、今日まで実現されなかった。今回の危機に直面して、やっと「定住外国人対策推進室」の立ち上げが決まったようだ。遅きに失したが、後戻りだけはしてほしくない。
「朝の来ない夜はない」。いずれ、労働力不足は必ずこれまで以上の深刻さで、日本の産業界を襲う。高齢化がさらに進み、製造業、農林業、建設業など多くの分野で、安定した労働力を期待することはできなくなる。外国人労働者の増加と定住化は疑いない。日本では、不足した時になったら、考えればいいとの安易な先延ばし案が依然として強いが、この問題の核心が理解されていない。
今回の大不況にもかかわらず、日本人の労働者がまったく集まらず、衰退、廃業などの道を辿っている分野は一般に想像されるよりはるかに多い。労働力の不足と過剰がミクロ・レベルで同時並存するのが、今日の労働市場の大きな特徴なのだ。中長期の雇用創出政策は、この点に配慮したさまざまな仕組みが必要だ。たとえば、職業訓練の必要性が指摘されているが、日本がいかなる産業を競争力の基盤として展開して行くか、その将来イメージが共有されないかぎり、訓練目標も正しく定まらない。
外国人労働者問題は、人手不足が深刻化する時にのみ関心が集まる傾向があるが、総合的な雇用政策の重要な柱のひとつであることを、今のような時こそ再認識し、来るべき時代へ確たる位置づけをすべきだろう。