熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ブラックフライデーと物価高

2024年11月30日 | 政治・経済・社会
   ブラックフライデー( Black Friday)とは、アメリカ合衆国の感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日の金曜日、今年は11月29日である。小売店などで大規模な安売りが実施される。
   ウィキペディアによると、
   感謝祭翌日は多くの労働者が体調不良などと偽って欠勤するために工場が計画通りに稼働できなくなる日として、ブラックフライデーと呼び、また、1961年12月にフィラデルフィアの警察の交通班は、感謝祭翌日に買い物客が道にあふれて警察の仕事が増えるという嘲笑的な意味でブラックフライデーと呼び、これが買い物ラッシュをブラックフライデーと呼んだ起源と考えられている。しかし、ブラックフライデーにはネガティブな意味が強いため、小売店などはこの言葉に不快感を示して普及しなかったが、その後、1981年にフィラデルフィアの地元新聞が「小売業者が儲かり黒字になる日」という前向きな解釈を発表してからは「ブラックフライデー」が良い意味で広く使われるようになった。と言う。
   この日は早朝や深夜0時から開店する店も多く、買い物客が殺到して小売店が繁盛することで知られ、特にアメリカの小売業界では1年で最も売り上げを見込める日とされていて、年末商戦の幕開けを告げるイベントでもある 。
   これに便乗して、日本でも、多くの小売店やネットショップなど猫も杓子も、派手な大売出しを展開していて凄まじい。

   さて、このブラックフライデー現象は有難いが、あくまで一過性であって、セールが終わればシャボン玉のように消えてしまうし、買い物に興味のなくなった老人には、殆ど意味がない。

   問題は、線香花火のように打ち上げられる値引きセールよりも、毎月のように値上げされている食品や日用品などの必需品の値上げトレンドの継続である。
   コストプッシュ・インフレなので、好循環にはなり得ないので経済にはマイナスである。
   私など、たまに、自分用の食品など買うためにスーパーなどへ出かけるが、確かに、どんどん値上がりしていて、価格が変わらなくても内容量がどんどん減っているなど値上がりを如実に実感している。
   NHKのニュース番組を見ていると、連続トップニュースとなっているのだが、
   値上げで四苦八苦している消費者や中小の製造会社や小売店などの苦境を報道しているが、国民の表立った反抗や抗議行動は見られないのが不思議である。
   解せないのは、値上げをした会社の株価が、値上げによる利益アップを好感して上がるということで、投資家は、商品の値上げをプラスとして受け入れているということである。

   日本国民は、現状容認志向が強いのか分からないが、現状を容認できる人は良い、
   年金生活者である私なので物価値上がりに敏感なのかもしれないが、
   ジニ係数の悪化で貧困率が先進国で最悪になってしまった日本であるから、貧困層の困窮ぶりは限度を超えて酷いのではないかと心配している。
   103万円の壁の議論も良いが、先進国であり民主主義国家の優等生を標榜するのなら、まず真っ先に、最貧困層の生活の安定確保、救済を図るべきだと思っている。
   経済格差の異常な拡大傾向を修正するためにこそ、税制改革を実施すべきであって、ニュアンスは大分異なるが、103万円の壁論議が、その先鞭となることを期待したい。
 
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ロシア経済が好調だという

2024年11月23日 | 政治・経済・社会
   ロイターが電子版で、
   コラム:予想外に好調なロシア経済、戦争の「麻薬」が切れるとき By Pierre Brianconを報道した。最近、ほかのメディアでも、ウクライナ戦争や欧米諸国の経済制裁など逆風に曝されながらも、順調に推移しているというニュースを報じているので、一寸、現実を考えてみたい。
   大規模な軍事支出と制裁逃れの貿易、ロシアがコモディティーの輸出先をより友好的な国に切り替えていることが理由だ。この「戦争依存」はロシアにとって経済財政面で大きなアキレス腱になっている。と言う。

   予想外の好調ぶりは主に3つの要素で成り立っている。
   まずはロシアの制裁に対する適応力だ。ロシアは14年のクリミア併合以降、常に何らかの形で制裁の標的にされており、この間次第に適応力が向上してきた。 ドイツなど欧州からカラフスタンなどの中央アジアの旧ソ連諸国向け輸出が驚くほど活発化している点が挙げられ、一部の西側企業が制裁対象の製品を迂回ルートでロシアに出荷し続けている様子がうかがえる。
   また、ロシアは自国産の石油・ガスに対する中国の購入意欲も当てにできるし、もはや西側企業から入手できない精密部品などの一部を中国から調達することも可能だ。昨年の中ロ貿易は確かに26%拡大し、ロシアにとって中国が最大の貿易相手になった。 
   そして、ロシア経済の「打たれ強さ」をもたらしている最大の要素は、プーチン氏がウクライナとの戦争開始以降、国家予算の大きな部分を軍事支出に振り向けていることにある。 

   しかし、向こう数年のさらに先を見越すと、状況は暗たんとしていて、昨年と今年最初の数カ月は政府支出の急増が経済を引っ張る力になったとはいえ、そうした過熱感は間もなく弱まるかもしれない。  と言う。
   長期的な課題も抱えていて、年間9%という物価上昇率もその1つで、中銀が、このインフレ対策に強力な引き締め的な金融政策運営を強いられ、政策金利は19%に達した。
   借り入れコストが増大したことで、銀行の企業や家計向け融資は鈍化が見込まれ、政府は法人税と所得税の税率引き上げを模索しつつある。さらにロシアは戦争開始以来、高技能労働者が大挙国外に脱出した影響もあり、深刻な人手不足に直面している。足元の失業率は3%未満だ。
   ロシア経済にとって2番目の制約は、現在の経済成長が今後の課題に備える性質のものでないことだ。西側による制裁のため、ロシアは工業製品、特に軍事機器の面で高度な技術を欠き、質的な低下を余儀なくされている。 
   最後の問題として浮かび上がるのは、現在国家予算の4割を占める軍事支出の増加が、教育や医療といった分野への投資も振るわないことを意味するという事実だ。社会保障費は3年連続で圧縮された。今後生産性が改善せず、公共投資を通じた成長が止まり、年金生活者が痛手を受け、ロシア経済が苦境に陥れば、プーチンの人気は急落する。 

   ロシアは今、経済学者ウラジスラフ・イノゼムツェフ氏が描写した「発展なき成長」というモデルにはまり込んでいる。
   ローテク品の量産化にかつてないほど大規模な軍事支出を振り向けることで、速戦即決ではなく長期の消耗戦に敵を引きずり込んで疲れ果てさせる準備をしているように思われ、ただこの戦略は、ロシアがより強烈で高度な戦いのコストを負担するのを難しくする。欧州がロシア制裁を厳格化することができるか、少なくとも現在の制裁の枠組みに存在する多くの抜け穴をつぶすことが可能になれば、そうした事態は起こり得る。
   より長い目で見れば、いったん軍事支出という「麻薬」の効き目がなくなった場合、ロシア経済に内在する課題が必ず日常的な光景として出現してくる。その際に何か劇的な地政学的変化が起きて「離脱症状」を克服する手助けになれば、幸いだろう。 

   以上がロイター論文の趣旨である。
   注目すべきは、長期的戦略を欠いた「発展なき成長」だと言う指摘である。
   まず間違いなしに、軍事産業化で経済は好調だが、戦時の張子の虎で、戦争が終結すれば一気に経済が縮小して崩壊する。
   そして、欧米の制裁によって軍需産業のみならず工業生産の質が著しく低下しているにも拘わらず、つけ刃のローテクに終始して、技術革新や生産性向上などの将来の成長への施策を打ていない。
   さらに、戦争によって著しく労働人口が減ってしまい、その上に、国外に脱出した何十万もの優秀な頭脳流出の結果、人的損失は甚大である。
   長期的な経済の成長発展の芽を摘んでしまっていると言うことである。

   たとえ、ロシア有利にウクライナ戦争が終結したとしても、戦争によるロシアの損害は甚大であり、長く強力なボディブローとしてロシアを苦しめ続けて、国力の低下を招くことは間違いない。
   
   国際的信用を著しく損傷して劣等国に成り下がる、ロシアにとって、何のための戦争であったのか。
   一時の軽挙妄動によって沈みゆく、偉大なロシアの落日を見るのは忍び難い。
  
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トランプ次期大統領に思う

2024年11月16日 | 政治・経済・社会
   大統領選挙があったのは、11月5日、それ程時を待たずに、トランプの当選が決まった。
   私は、6日に、ニューヨークタイムズとワシントンポストの電子版の速報を見ていて、その日の早い午後に、激戦州、すなわち、スイング・ステート( swing state )の速報値がトランプ優勢を示し始めたので、トランプの勝利を確信した。
   案の定、すぐに、トランプの勝利宣言が発表された。

   私は、これまで、トランプ批判をこのブログで書き続けてきており、徹頭徹尾反トランプ派であり、結果にはいたく失望しており残念である。

   トランプは、アメリカ憲法の精神を無視し、民主主義をたたき潰そうとしており、その暴挙が許せない。
   ペンシルベニア大学のキャンパスには、独立宣言を起草しアメリカの建国の父と仰がれている、同大学の創立者でもあるベンジャミン・フランクリンの銅像が立っている。
   私もそうだったが、同大学のウォートン・スクールに通っていた同窓のトランプも、このフランクリン像を仰ぎ見ながら勉強していたはずである。イーロン・マスクもそうである。
   なぜ、フランクリンの建国精神と民主主義を理解できないのか、悲しい限りである。

   トリプルレッドを勝ち得て、殆ど白紙委任状を得た独裁者のトランプが、アメリカのみならず世界に君臨して、今後4年間の政治経済社会の舵取りを担う。
   どうなるか、既に発表されている閣僚など政府の主要メンバーを見ても、その常軌を逸した布陣にも批判が出始めていて、先が思いやられる。

   メディアでは、トランプ政権に対して、激しい論戦が繰り広げられていて、辛口の評論などが多いのだが、いずれにしろ、アメリカの民主主義社会が選択した結論である。
   政権スタート直前から、大混乱が予想され、如何なる形でトランプアメリカが動き出すのか、全く予断を許さない。
   しかし、例えば、イーロン・マスクの「政府効率化省(DOGE)」の主導など、どんなに強烈なダイナマイトが炸裂して行政を危機に陥れるか、脅威を禁じ得ない。
   また、輸入品に高率関税を課せば、自由貿易を阻害して国際市場を縮小し、ひいてはアメリカ企業の革新意欲を削ぎ、生産性や国際競争力の低下を来して経済を弱体化させて、「MAGA」に逆行するのは必定である。

   ハリス民主党政権が実現していても、アメリカも世界も、殆ど変化のない状態が続いて大きな期待はできなかったであろう。
   エスタブリッシュメントや学歴の高い市民たちに取っては、民主主義や人権、大統領の資質や人格などは大切かもしれないが、多くの一般的なアメリカ人には日々の生活の方が大切であって、とにかく、膠着状態で不満足なこの社会を変えてくれるであろうトランプを選択した。
   したがって、保守反動であろうと極端な自国優先主義的なポピュリスト政治であろうと、格差の異常な高まりや温暖化など機能不全に陥って資本主義が窮地に立つなど、二極化が極に達して、アメリカ社会が危機状態にあり、既成秩序を刷新するためには、巨大なカンフル注射が必要な時期に来ていたのである。
   トランプの当初の目論見は、膠着状態のエスタブリッシュメント支配のアメリカに風穴を開けることであった。

   トランプ新政権は、スタートから大激震を引き起こして、アメリカのみならず世界中を大混乱に陥れるかもしれない。
   しかし、私自身は、新たな強烈なインパクトを与えない限り、既存の社会の大変革は不可能であるから、方向性とパワーは未知数だが、トランプ政治が、この役割を果たしてくれるのではないかと言う淡い期待をし始めている。
   アメリカや世界の政治経済社会、そしてグローバル秩序の創造的破壊の実現である。

   尤も、そのためには、アメリカの良心、英知や良識が、カウンターベイリング・パワーとして作用して、チェック&バランスとして働き、新しい価値あるイノベィティブな世界を生み出すという高いハードルをクリアーする必要がある。

   ドラッカーが、会社の経営のみならず、政府や学校や教会などであろうと、どんな組織の運営であろうとマネジメント理論は有効であると言って逝った。
   トランプもイーロン・マスクも常軌を逸した経営者だが、彼らの経営哲学が有効かどうかは分からないが、祈るべくは、利益効率優先ではなく、公共価値重視を第一義としたマネジメントに軸足を移すことを期待したい。
   アメリカ社会、そして、アメリカの民主主義が生きるか死ぬか、アメリカの良心、アメリカ人の英知と良識にかかっている。


   
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NW:アメリカを脱出したい、国民の20%

2024年11月09日 | 政治・経済・社会
   ニューズウィーク電子版に、
   「アメリカを「脱出」したいアメリカ人の割合が史上最高の5人に1人に急増 Record High Number of Americans Want to Leave: Poll」と言う興味深い記事が出ていた。
   ギャラップが実施した新しい世論調査によると、アメリカを脱出して海外へ移住したいと考えるアメリカ人の数が過去最高に達した。 
   <アメリカを脱出したい理由について、「政治的な二極化」を挙げる専門家も。世界の移民の行き先としての人気も落ちている>と言うのである。

   もちろん、カナダ人やアメリカ人の20%が、明日にでも荷物をまとめて国を出ようとしているというわけではないが、彼らが国を出たがっているという事実は注目に値する」 
   アメリカを去りたいという願望が、アメリカ人の間で何十年も上昇し続けている。2024年3月に発表されたモンマス大学のレポートによると、アメリカから脱出したいと願うアメリカ人の数は、1974年と比べて3倍になっており、アメリカ人の34%が「できることなら他の国に定住したい」と答えたとしている。 
   「移住願望を表明することと、実際に移住することの間には、常に大きな溝がある」。「移住は、人生において人が下しうる最も大きな決断のひとつだ。その決断からは、愛する人との別れ、転職や転居、新しい社会への適応、そして、多くの場合は言葉の問題など、数え切れないほどの変化が生まれる」と言うことにしてもである。

   これらの世論調査は「自国内における人々の満足感を示すバロメーターのようなもの」であり、「アメリカを離れたいと言う人が増えているのは、政治的ニ極化が強まり、この国が間違った方向に進んでいることを感じているからだろう」と 言う。

   もっと驚くべきは、ロイター電子版の即刻の報道、
   「米国で海外移住への関心高まる、トランプ氏大統領選勝利に失望」である。
    米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利したことで、海外移住への関心が米国内で急激に高まっている。
   グーグルのデータによると、5日に米東海岸で投票が締め切られてから、 カナダ、オーストラリア、ニュージーランド3カ国への移住に関する検索がいずれも過去最高を記録したという。 
   エジソン・リサーチの出口調査によると、有権者の約4分の3が米国の民主主義が脅かされていると答えた。またトランプ氏の復帰によって、人種やジェンダー、教育、生殖に関する権利などの問題で、民主党と共和党の間で一段と分断が広がることを多くの人が懸念している。と言う。
 
   かって、アメリカには、頻繁に出かけたり、2年間住んだことがあるが、随分昔の話で、何とも言えないが、アメリカ人の20%もの多くが外国に移り住みたいと考えているとは驚きである。
   何故移住したいのか理由は定かではないが、私が気になったのは、政治的ニ極化の強まりやトランプ政治への不安だという見解である。

   今回の大統領選挙で、アメリカ社会が、水と油の修復不可能な二極化によって真っ二つに分断されていることが、今まで以上にはっきりと露呈された。
   アメリカの政治社会経済の病巣の殆どは、この政治的二極化に起因していると言っても間違いではなかろう。

   ところが、今回の選挙で、トランプ大統領の返り咲きのみならず、上院下院とも共和党の過半数確保の勝利によって、共和党がトリプルレッドを達成して、アメリカの政治を取り巻く環境は、一気に共和党天下となってしまった。
   ピーター・ベイカー曰く、「選挙公約に従えば、大統領職の権力をさらに強化し、「ディープステート」を屈服させ、両党とメディアの「反逆者」政敵を追い詰めることになるだろう。」
   即刻、復讐劇が始まるのか、
   殆ど白紙委任状を手にした独裁者を標榜するトランプの政治劇が開幕する。
   
   これまで、カウンターベイリング・パワーが働いて、幾多のアメリカの難局を乗り越え歴史的危機を救ってきた。アメリカの良心、英知や良識が作動するのかどうか。
   
   尤も、トランプの今後の4年間が吉と出るか凶と出るか全くわからない。
   少なくとも、ハリス政権であったら、アメリカも世界も殆ど大きな変化を期待できなかったであろう。
   その意味では、トランプ政権の推移次第では、大きく情勢は変わってくる可能性が高いが、とにかく、民主主義がどうなろうと、頭を打とうと、
   アメリカは、行き着くところまで、突き進む以外に道がなかろう。 
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トランプの勝利:歴史的逸脱者ではなく、現代のアメリカの再形成者?

2024年11月07日 | 政治・経済・社会
   ニューヨークタイムズの電子版の冒頭に、トランプのアメリカ、その勝利は、国民の自意識の変化
Trump's America
Victory changes nation's sense of itself
   トップ記事は、
   エリートの米国ビジョンに対するポピュリストの反乱
結局、ドナルド・トランプは、一部の人々が考えていたような歴史的逸脱者ではなく、現代のアメリカを再形成する力であると、ピーター・ベイカーは分析で書いている。
Populist Revolt Against Elite’s Vision of the U.S.
In the end, Donald Trump is not the historical aberration some thought he was, but a force reshaping the modern U.S., writes Peter Baker in an analysis.

   トランプの逆転勝利は、彼自身のイメージで現代アメリカを再形成する変革力で、異なる種類の国を示していて、一部のエスタブリッシュのエリート階級が考えていたような歴史的逸脱者ではない。と言うのである。

   最後の集会で、カマラ・ハリスはドナルド・J・トランプをアメリカを代表しない異端者だと軽蔑し、「私たちはそういう人間ではない」と断言した。
   実際、それがまさに私たちの姿、少なくとも、ほとんどの人の姿なのかもしれない。
   トランプは歴史の灰燼に帰すことになる異端者だという思い込みは、火曜の夜、激戦州を席巻した赤潮によって洗い流された。そして、両党の支配層エリートが長きにわたって育んできたアメリカに対する理解も一掃された。
   良識が支配する高度な民主主義社会ではなく、トランプ現象が浮き彫りにしたアメリカが、実際現実のアメリカの姿だということであろう。

   トランプは再び、経済的、文化的、人口学的に国が崩壊しつつあるという、彼らが知っている多くの人々の感覚をうまく利用して、それに対抗するため、有権者は、たとえ感性を傷つけたり古い基準に違反したりしても、慣習を覆し、過激な行動を取ることをいとわない、生意気な78歳のチャンピオンの復帰を承認した。
   彼らが選んだリーダーに対する疑念は脇に追いやられ、その結果、歴史上初めて、アメリカ人は有罪判決を受けた犯罪者を大統領に選んだ。彼らは、前回の選挙を覆そうとし、職を取り戻すために憲法の「廃止」を要求し、就任初日に独裁者になることを望み、敵対者に対して「報復」を誓った指導者に権力を返した。

   ピーター・ベイカーは、選挙戦やハリスの対応など詳細に論じているが、ここでは、省略する。

   ある意味で、トランプの勝利は、2021年1月6日に起きた同氏の支持者の暴徒による議事堂の略奪を一巡させるものでもある。2020年のバイデンの勝利の確定を阻止することを狙ったこの攻撃は、トランプの信用を失墜させた民主主義への致命的な攻撃から、新たに再選された大統領が約束した恩赦を生み出す愛国的な行為へと作り変えられた。
  「多くの点で、これは1月6日のドラマの最終章だ。」 「共和党員の多くは、支持基盤を怒らせないようにしつつトランプを追放するという絶好のチャンスをものにしたと思っていた。だが、そうではなかった。そして今、トランプは戻ってきている。そして、トランプが賭けに勝って権力に復帰すれば、1月6日の最終判決は、現代のアメリカでは不正行為は可能であり、システムは反撃するほど強力ではないということだ。」
   今後の決定的な戦いは、トランプが腐敗していると見なすシステムに対してこれから戦うと述べている戦争となるだろう。選挙公約に従えば、大統領職の権力をさらに強化し、「ディープステート」を屈服させ、両党とメディアの「反逆者」政敵を追い詰めることになるだろう。
   そうすることで、前回にはなかった正当性と経験を得ることになる。彼は最初の任期で、政策についてではなく、権力のレバーを引く方法について学んだ。そして今回は、トランプにはもっと多くの自由が与えられ、より一致した顧問団と、おそらくは議会の両院、そして8年以上前でさえもトランプにのみ従う政党も与えられるであろう。
   トランプ時代は、結局4年間の空位期間ではなかった。トランプが新任期を終えると仮定すると、それはフランクリン・D・ルーズベルトやロナルド・レーガンと同じくらい長く政治の舞台の中心に立つ12年間の時代になりそうだ。と言う。

   いまやトランプ党とも言ってもよい共和党に支配されたトリプルレッドの安定した政治体制をバックにしたトランプ政治、
   アメリカの民主主義が窮地に立つ。

   お題目の「アメリカ・ファースト」の意識さえ希薄なトランプが、「トランプ・ファースト」を金科玉条に掲げて、出来得る限りの最高権力を駆使して、独裁政治に突っ走るという。
   それが、アメリカの再形成だというのなら、前世紀の大恐慌時代以降の世界の歴史が垣間見えてきて、恐ろしい限りである。
   いまや、世界中が、強力な独裁体制の専制国家に囲まれており、民主主義の旗頭であるアメリカの軌道修正だけに、不安がつのる。
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気になるアメリカ大統領選挙の結果

2024年11月06日 | 政治・経済・社会
   朝から、テレビとインターネットをつけっぱなしで、アメリカ大統領選挙結果の速報を注視している。
   テレビは、チャネルを頻繁に切り替えを繰り返しており、インターネットは、ニューヨークタイムズとワシントンポストの電子版HPから、速報を見ている。
   日本のメディアの報道は、どれも、ワンテンポもツーテンポも遅いので後追い情報なのだが、NYTとWPは、予想も含めて、瞬時に最新の結果を時々刻々と報道しているので、これ以上の情報源はない。
   今も、カリフォルニアの開票結果が追加されて、大苦戦のハリスが、一気に追い上げてきた。
   今昼過ぎ現在の情報では、トリプルレッドの共和党勝利の勢いだが、WPは、
   Trump (R) is slightly favored to win in the electoral college, but Harris (D) still has a chance to win. と報じて、ハリス勝利の可能性も残している。

   しかし、NYTは、
   Harris’s path narrows
    Trump has won in North Carolina and is very likely to take Georgia. To win, Harris will probably need to sweep Pennsylvania, Michigan and Wisconsin — but Trump has an advantage in all three.
   Chance of winning
   Likely Trump
   89% chance of victory
   激戦州のラストベルト3州でも、トランプの優勢を予測していて、トランプ大統領復活の可能性を、89%と予測している。
   予想結果は、
   Electoral college estimate Trump 298 251 to 326
   Harris 240 212 to 287

   今夕、トランプの勝利宣言が報道される可能性が高くなってきた。


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英国経済の危機に思うこと

2024年11月04日 | 政治・経済・社会
   今日の日経に、「英経済衰退に危機感」と言う記事で、シデック経済担当政務次官が、保守党政権が悪化させて不安定にした経済に深刻な危機感を抱いて、その改善策を述べた。
   スターマー政権は、財源の裏付けのない減税表明で金融市場を混乱させた2022年のトラス・ショックや、公共投資の不足による医療や教育、交通の質の低下が深刻となり、英経済は生産性や生活水準の低下で崖っぷちに追い込まれて、「投資するか衰退するかの選択に迫られた」と言う状態であった。
   したがって、まず、
   10月30日に公表した予算案には5年間で1000億ポンド(20兆円)公共投資を計上し、公共サービスの充実とともに再生可能エネルギーなどの成長分野に投資する。
   ところで、問題の財源だが、豊かな人々に負担を課すべきだと判断して、国民保険料の雇用主負担の引き上げ、キャピタルゲイン課税や相続税の増税、私立学校の授業料に対する付加価値税などを充てるという。
 
   ロイターによると、
   過去30年で最大規模となる年間400億ポンド(約7兆9600億円)の増税計画を発表した。増税で賄った資金で英国を迅速に再建し、同時に原資を負担する企業の憤りに耐えるという大きな賭けに出た格好である。
   また、リーブス財務相は、数年間にわたって大企業に対し、政治的および規制的な安定を提供し、成長を手助けするために事業計画に関する規制の簡素化に協力すると約束してきた。それにより、労働者も賃金上昇の恩恵を受けられるようにとの望みを託していた。と言う。 

   富者強者への増税で財源を賄い、積極的に投資して経済を活性化するという方針は、労働党としては当然であろう。
   しかし、根本的な問題は、英国経済を迅速に再建して成長軌道に乗せられるかどうかである。成長がなければ、弱者をも利するトリクルダウンなど望み得ない。
   成長戦略が明確ではないので何とも言えないが、公共投資の多くは公共サービスを向上させるための保守的投資であって強力な成長要因とはならず、再生可能エネルギーなどの成長分野に投資するにしても、即経済成長の特効薬にはなり得ない。
   英国経済が、制度疲労して疲弊しきっているのなら、需要サイドのみならず、供給サイドの再建強化など、抜本的なリシャッフルが必要なのではないであろうか。
   英国のように成熟経済に達して活力の衰えた国では、成長を阻害することなく、公共投資で経済を活性化することは非常に難しいのである。

   さて、私は、今回よりもっとひどかった英国経済崩壊危機のサッチャー政権前の労働党政権の英国を具に見ているので、今昔の感だが、
   その後、サッチャー政権で、ビックバンで英国経済が沸きに沸いた黄金時代も住んでいたので経験しており、その浮沈の激しさに驚いている。
   最近の英国の蹉跌は、EU離脱だったと思っている。アメリカのトランプ現象と同じで、民主主義のサイコロは、Goodばかりではないのである。
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総選挙の投票に行ったのだが

2024年10月29日 | 政治・経済・社会
   総選挙の投票に、夕方遅く行った。近くの小学校なので楽である。
   海外生活の14年間を除いて、大学生の頃からであるから、ほぼ、60年間、投票に出かけたことになる。

   今回の選挙は、予想通り、自公が半数割れに終わった。
   政権の不安定は否めないが、日本の政治には必須だと思うカウンターベイリング・パワーが機能することとなったので、喜んでいる。
   野党が結束すれば、今後は、自公の法案も葬り去ることができるし、内閣不信任決議案を可決すれば、内閣は、10日以内に衆議院を解散するか、総辞職しなければならなくなり、チェック機能が働く。
   
   今回の選挙結果については、いろいろ言われてはいるが、止めを刺したのは、終盤に飛び出た2000万円問題で、あれだけ裏金問題で窮地に立ったにも拘らず、全く反省の色無き国民を無礼(なめ)切った所業で、自民党の悪政ここに極まれりであった。
   安定政権に胡坐をかいた自民党政治の独善独断横暴は、極に達しており、国民の反発は必然であった。
   私自身は、自民党の失政の最たるものは、日本の成長発展にブレーキを掛けた失われた30年を惹起した致命的な政治だと思っている。

   さて、日本の政治だが、野党第一党の立憲民主党が、かなりリベラルかつ穏健な民主勢力であり、維新や国民民主党など強力な野党ももっと保守的で自民党に近く、共産党を除いて、極端な反自公民政治を推し進めるとは思えないほど安定している。
   日本は、幸か不幸か、政治の二極化が極に達したアメリカや右派勢力の台頭で分断著しいEUなどのような修復不可能な混乱状態ではないところが救いだと言えようか。

   今後、政局がどう動くか分からないが、立憲民主党が利害の入り組んだ野党勢力を束ねきれると思えないので、自公民が、是々非々主義で、他の野党と連携しながら政権を維持してゆくような気がしている。
   石破降ろしが囁かれているが、看板を架け替えても同じで、穏健で良識派の石破総理の方が無難であろうと思う。

   さて、私は、今回、地方区は立憲民主党、比例代表は社民党に投票した。
   私の考え方は、自民党に近いと思っているが、政治にはカウンターベイリング・パワーが必要なので、野党に投票している。
   社民党については、大学生の頃から、社会党に投票し続けて60年、長い歴史で紆余曲折があるのだが、政策には多少異議があるけれど、いわば、カウンターベイリング志向の影響もあって、今や昔の面影もなく泡沫政党になってしまったが、機会があれば、投票し続けている。
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社会資本・主義にパラダイムシフト?

2024年10月08日 | 政治・経済・社会
   東洋経済onlinew読んでいて、小幡 績 慶応大教授の「石破政権の誕生は「日本経済正常化」の第一段階だ」の記事に出会った。

   19世紀の「産業資本・主義」から20世紀の「金融資本・主義」そして、22世紀の「社会資本・主義」へ向けて、21世紀は移行期(混乱期)にあり、イシバノミクスは、「社会資本・主義」へのパラダイムシフトの時期に遭遇する、と言う。
   「社会資本・主義」というワードは「小幡造語」で、「社会資本」の主義、という意味であり、社会資本が社会・経済においてもっとも重要となる世界がやってくる、ということだ。と言うのである。

   小幡説をさらに説明すると、
   この「社会資本」とは、宇沢弘文氏のいう「社会的共通資本」をも含むが、もっと広く、かつ価値観的にニュートラルであり、1990年代に少し流行した”Social Capital”という概念のほうが近い。  つまり、経済発展は、需要の拡大によるものでもなく、供給サイドの生産力の拡大だけではダメで、社会という基盤がしっかりすることで初めて、真の地に足のついた経済発展が始まる、ということである。そのためには、需要政策でも生産性向上政策でもなく、何よりも健全な社会という土台を作り直す、という「経済」政策である。なぜなら、社会という土台がしっかりすれば、経済は長期的には持続的に自然と発展していくからである。  
   この社会資本が充実している国ほど経済成長する、という実証分析が流行しており、現実の経済政策に関して言えば、すべての人々が安心して暮らせる社会、これこそ、「社会資本」である。そして、これを支えるための法制度そして政策、それが「社会資本・主義」政策である。 
   イシバノミクスは、以下のように体系化できる潜在的可能性がある。  この「社会資本」の確立、修復、安定を政策の目標とする。国家を地政学リスクから守ることで、安心して経済活動に専念できる。災害から国土を守ることによって、安心して生活ができる。安定した消費、生産活動ができる。インフレという価格変動リスクから生活者、中小生産者を守る。健全な消費、生産活動につながる。将来のリスク、不安、不確実性も減るから、設備投資、人的投資もできるようになる。そのためには、社会不安が減り、将来の見通しへの不安が減ることが必要である。 
   これは、石破氏が生み出したものではなく、社会の動きが高まっていることによるものであり、石破政権で実現しなくても、パラダイムシフトは、今後21世紀前半のどこかでは起きることになるだろう 。

   しかし、社会が「社会資本・主義」に変わることへマグマが溜まっていたところに、「石破政権誕生」という偶発的な事件が、これに点火したことは事実であって、石破政権誕生という2024年は、分水嶺となる可能性があり、パラダイムシフトであって、経済は明るいと言うことであろうか。

   ところで、日本株式市場、日本経済、日本社会は、転換点を迎え、新しい発展段階に入るだろう。この事実には、私以外、誰もまだ気づいていない。石破氏本人でさえわかっていないだろう。 というのだが、
   金子 勇 教授が、昨年6月に、「社会資本主義 人口変容と脱炭素の科学」出版して、
   「新しい資本主義」を「社会資本主義」と命名した本邦初の「経済社会学」。「社会的共通資本」と治山治水を優先し、国民が持つ「社会関係資本」を豊かにし、一人一人の「人間文化資本」を育てる。これら三資本の融合を理念とし、「人口変容」と「脱炭素」を論じつつ、経済社会システムの「適応能力上昇」を維持して、世代間協力と社会移動が可能な開放型社会づくりを創造する。として、「社会資本主義」時代の到来を説いている。 
     マルクス、ウェーバー、パーソンズ、高田保馬の核心を融合した経済社会学による「新しい資本主義」論 だというから、違うのかもしれないが、読んでいないので、何とも言えない。

   さて、問題は、「社会資本・主義」が、「社会資本」の確立、修復、安定を政策の目標として健全な社会という土台を作り直す、と言うことだが、非常に漠然とした概念であって、経済政策の柱となり得るのかと言うことである。
   健全な社会の土台を作るというのは、住み良い安心安全や社会を作ると言ったような理想社会を実現するのと殆ど同義語であって、経済政策としては当然の目標である。
   また、公共財よりは狭い概念であろうが、経済学における社会資本は、企業・個人の双方の経済活動が円滑に進められるために作られる基盤のことのようだが、この社会資本の充実は、デマンドサイド、サプライサイド両面の経済政策の結果であって、並立する経済現象でもない。

   また、ダロン・アセモグルの「社会全体の豊かさをもたらす「正しい」技術革新のためには、政治による正しい方向付けが必要だ」との主張を同義だとして、政府は、「正しい」方向へ社会を導くことにより経済の自律的な発展を促す。  そして、これは、経済至上主義、市場至上主義、金融至上主義と、どんどん倒錯してきた世の中を、社会至上主義(「社会主義」よりも本当の意味での「社会」主義)という正しい姿に戻す、つまり、これまた、膨張しすぎた近代資本主義社会の「正常化」、すなわち、政治・金融市場・経済の「正常化」へのパラダイムシフト  だという。
   政治が「正しい」方向へ社会を導く政府主導の福利厚生経済が良いのか、民主導の市場原理主義の経済が良いのか、振り子運動の一環であって、その振り子が、社会価値重視に移るという議論のような気がしている。
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石破内閣の経済成長戦略は

2024年10月05日 | 政治・経済・社会
  石破内閣の経済対策について、石破首相は4日、秋に取りまとめる経済対策の策定に着手するよう閣僚に指示した 。経済対策は、物価高に対応して低所得者世帯向けに給付金を配るほか、自治体向けの交付金を大幅に拡充する方向だ。 と言う。

   関心のある経済問題だけに集中して、
   「石破首相「成長戦略を継承」 貯蓄から投資へ、流れ加速」を論じたい。

   「岸田政権で進めてきた成長戦略を着実に引き継いでいく」「資産運用立国の政策を発展させる」と言う前政権の経済政策を継承する考えを表明しており、「賃金が上がり消費が増え、人手不足対策を含む設備投資の拡大により更なる賃金上昇につながる好循環をつくる」と訴えている。
   GDPの半分を占める個人消費の回復を重視するとも唱えていて、消費を後押しするため食料品やエネルギー価格の上昇に対応する経済対策を打ち、物価高の影響を受けやすい低所得者に給付金を支給すると表明した。国民の将来不安を緩和するために医療、年金、社会保障の見直しに着手するとも語った。

   
   首相が提示した成長戦略は、
   「従来のコストカット型経済から高付加価値創出型経済へ転換し、投資大国日本を実現していく」と打ち出し、自動車や半導体、農業などを挙げて「輸出企業が外から稼ぎ、生産性を向上させるための投資を促進していく」。
   地方創生が「日本経済の起爆剤」だとも掲げた。最低賃金を現行目標の30年代半ばから20年代に前倒しして平均1500円へ引き上げる方針も提示し、成長分野への労働移転を促すためのリスキリングを説く。
   エネルギー政策を巡っては政府が24年度中に中長期戦略となる次期エネルギー基本計画を策定する。前政権は生成AIやデータセンターでの電力需要の増加をにらみ、安全性が確認できた原発を最大限活用する方針を示した。
   

   一方、施政方針演説での経済政策は、
   「経済対策を早急に策定し実現に取り組む」と表明した。
   経済対策は「物価高の克服」「日本経済・地方経済の成長」「国民の安心・安全の確保」を柱とする。物価高の影響を受ける低所得者世帯への支援や中堅・中小企業の賃上げ環境の整備、国土強靱化などを進める。
   物価上昇を上回る賃上げを定着させ、国民が生活が豊かになったと実感してもらう必要があると言及した。生産性の向上などにより、最低賃金を2020年代に全国平均1500円にする目標を掲げる。

   言っていることは、整合性はともかく、間違ってはおらず、必要な経済政策であるが、どうするのか、能書きだけで中身がない。
   根本的な問題は、持続的な消費回復や賃上げの実現には有効かつ実際的な成長戦略が欠かせない 、すなわち、持続的な実質賃金の上昇を維持するためにはそれ以上の経済成長が必要だと言うことで、全ての元となるのはテクノロジーの進歩など経営革新によって生産性(特に全要素生産性)を向上させて経済成長を持続することであって、その原資を十分に確保出来なければ、賃上げも出来ないし国民生活も豊かにならない。
   リスキリングなどの人への投資の強化や事業者のデジタル環境整備などと言った末梢的な生産性向上策を、施政方針演説で打つようでは、先が思いやられる。根本は、後述するように経営革新と産業構造の抜本的改革である。

   生産性の向上と言っても、単純ではなく、アセモグルの「生産性バンドワゴン」によると、
   生産性の向上が生み出した余剰が経済の他部門に振り向けられ、テクノロジーの進歩によって大きな改善が進み、新製品、新産業を誘発してそこにおける新たな労働需要を生み、と言った波及効果があってはじめて賃金が上昇して、生産性の向上が労働者に及ぶことが可能になるのである。
   一にも二にも、シュンペーターの説く創造的破壊を生み出し爆発させる土壌の醸成であり、
   この好循環の実現である。

   アベノミクスでは、成長戦略は、第三の柱として「民間投資を喚起する成長戦略(成長産業や雇用の創出を目指し、各種規制緩和を行い、投資を誘引すること )」と明記されていたのだが、不発に終わってしまったので、鳴かず飛ばずで成長から取り残されて、失われた20年が30年になり、先進国でも最低の水準に落ち込んでしまった。
   しかし、石破内閣は、良く分からない岸田内閣の新しい経済に、つけ刃の施策をくっ付けて継承するということで、さらに、成長戦略がぼやけてしまって、期待はできない。

   日本経済が低迷しているのはなぜか、
   少子高齢化による人口減もその一因だが、最大の要因は、日本企業の没落退潮で、国際競争力の著しい低下のみならず、ゾンビ化して存続そのものが危なくなってきており、産業構造とその基盤がどんどん弱体化して、それが全経済に伝播蔓延していることである。
   極論すると、歴史と伝統のある大企業の殆どは、成長発展から無縁の馬齢を重ねただけの停滞状態であり、その岩盤体制が日本経済を支配し圧迫していて、その風土環境が、日本の政治経済社会を仕切っているから、
   最先端科学やテクノロジーを追求し駆使して、イノベイティブで斬新な経営環境や新規企業が生まれて活躍する余地など醸成し得ないし、最先端を行く優秀な外資も呼び込めない。

   唯一の生きる道は、岩盤組織の旧態依然たる既存企業に起死回生の再建を迫り、出来なければ退場を強いて、産業構造を新陳代謝して根本的に改革することである。

   尤も、成熟化して制度疲労してしまった日本そのものに問題がある。
   看板をかけ替えるだけで何の変化も進歩もない自民党政治に安住している限り、これ以上良くなることは望み得ないが、カウンターベイリングパワーである筈の野党に何の魅力も実力もなく、改革革新の道が途絶えてしまっているのが悲しい。
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石破内閣で日本経済はどうなるのか

2024年09月28日 | 政治・経済・社会
   経済成長優先の高市政権の夢が潰えて、石破茂総裁の誕生が決まると、一挙に、金融市場は、株安・円高・金利上昇で反応 して、日経平均の先物は現物終値比で2000円超下落する場面があった。財政刺激・金融緩和を主張する高市早苗の勝利を事前に織り込んでいた反動が強く出た格好で、「高市トレード」の巻き戻しがいつ収まるのか、石破政権誕生で日本経済への疑念は収まらず、日本株はこれから停滞しかねない、来週明けには、株は更に下落筆致だという。
   新政権の新しい経済政策が始動して政局が治まるまで、紆余曲折があるであろうが、日本経済そのものがほぼ健全である限り、程ほどのところで安定するであろう。

   石破総裁は、経済に弱いということだが、就任後、「物価上昇を上回る賃金上昇を実現するために、新しい資本主義にさらに加速度をつけていきたい」と強調した。「デフレからの脱却の確実化」にふれ、アベノミクスではなく、物価高対策や労働市場改革など岸田政権の経済政策の基本的な方向性を継承する考えである。 「さらに加速度をつけて」という政策なり戦略なりが問題であろうが、あまり期待でいないが、しかし、大きなブレはないであろう。 

   経団連は、「石破氏は、閣僚や自民党幹事長などの要職を歴任され、地方創生や防衛分野をはじめとする幅広い政策に精通されており、経験豊富な政治家である。 」と歓迎してるのだが、地方創生と防衛分野しか知らないということであろうか。

   選挙戦で注目を浴びたのが税を巡る発言で、税の応能負担の原則を掲げ、株式の売却益など金融所得への課税強化や法人税と所得税の引き上げ余地があるとした。
   これは、金融所得課税の強化は、配当などの利益が非課税となる少額投資非課税制度(NISA)の拡充など岸田政権が進めてきた「貯蓄から投資へ」の流れに逆行する政策であると批判を浴びたが、これは慎ましい庶民への投資促進制度であって、
   もっと強力な富裕者や強者に対する課税の強化、すなわち、余裕のある企業、富裕な個人に負担を求めることで、財政や社会保障制度の持続性を高め、弱者をより支援することができるというリベラルな発想に基づくもので、所得の平準化や格差拡大の抑止にもなり、成長戦略としても有効なので、大いにやるべきであろう。

   さて、NRIの木内 登英 氏が、
   「自民党新総裁に石破氏が選出:地方創生を中核に据えた成長戦略の推進に期待・・・」で、アベノミクスに触れている。
   興味のある部分だけについて触れるが、
   成長戦略の更なる推進に期待として、石破政権の経済政策では、アベノミクスの第3の矢に相当する、企業の投資を引き出すような成長戦略の推進を最も期待したい。それこそが、労働生産性の上昇、実質賃金の上昇を通じて、国民生活の改善につながるのである。石破氏は、地域創生、地方経済の活性化を長らく掲げており、それが石破政権の成長戦略の中核となるのではないか。 というのである。
   他方で、石破政権には岸田政権の成長戦略も是非引き継いでほしい。それらは、「資産運用立国実現プラン」を通じ「貯蓄から投資へ」の流れを加速すること、「三位一体の労働市場改革」で、労働生産性向上と産業構造の高度化を実現すること、「外国人材確保(外国人実習制度改革と特定技能制度拡充)」を進め、労働供給と需要創出を促すこと、「インバウンド戦略」でインバウンド需要を地方に呼び込むこと、などである。 ともいう。

   安部でも岸田でも、何でも良い。
   高市早苗が連呼したように、「経済成長、経済成長、経済成長」である。  
   あらゆる手段を駆使して、生産性をアップして、日本経済を高みに引き上げる、これしか道はない。

   石破政権が、旧態依然とした自民党政治を引き摺って走るのなら、明日は暗い。
   トップクラスのテクノクラート頭脳集団を糾合して、最強の政権を構築して、日本の舵取りを進めてほしい。
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危ないスクランブル交差点

2024年09月27日 | 政治・経済・社会
   スクランブル交差点で、もう少しで、轢かれるところだった。
   スクランブル交差点は、横断歩行者と自動車の交通を完全に分離する方式の歩車分離式信号機が使用される交差点で、歩行者用の信号機が青の時は、どの車も停止すべきで動けないはずである。
   ところが、歩行者信号が、前方で一気に青に変わったので、スクランブル交差点とは知らなかったのであろうか、最前列の車が、勢いよく飛び出してきて、杖をついて歩きだした私の前で、急ブレーキをかけて止まった。中年女性の運転する小型車であった。

   西鎌倉の住宅街にある唯一のスクランブル交差点で、人と車の交通量の少ない田舎の交差点がスクランブル化された典型的な例で、地元の人間は良く知っているので問題はないのだが、
   大船と江の島、鎌倉と藤沢とを結ぶ道路の交差点なので、よそ者の運転者が多く居て、こんな田舎にスクランブル交差点があるとは思わず、車道歩道に関係なく、一番よく見える所にある歩道用の信号が青くなれば突っ走る。
   数日前、孫にもこのような経験があり、近所の老人たちも何度か事故にあいかけて困っており、信号無視で通過してゆく車が後を絶たない。

   警察へ電話を掛けた。
   要するに、結論は、このような信号無視の運転者はいるのだという前提で、歩行者の方も、渡るときに、前後左右をよく見て、安全を確認してから渡れ。違反車に遭遇すれば、車体番号をメモするなり写真を撮って警察に通報すれば取り締まる。パトロールしているが、通報以外に、違反者を見つける方法はない。
   年寄りで歩行が困難で、スクランブル交差点を斜めに横切るのに、信号が変わってすぐに歩き出しても、途中で赤信号に変わるので、歩く前に前後左右を確認する余裕などないと言ったら、
   斜めに渡るのではなく、L字型に、まず反対側に渡って、2度に分けて信号を渡れ、すなわち、十字交差点で歩行者が斜め向かい側(対角線上)に渡る場合、2回道路を横断 しろと言う。

   スクランブル交差点には、案内標識に「歩車分離式」「スクランブル式」「スクランブル信号」などと表記されていると言うのだが、誰が見ているのか。
   スクランブル交差点は、住民の要求によって設置するのだが、交差する交通が交互に通行するよう信号機で制御されている一般的な交差点の方が良いので、警察も出来れば、設置を避けたいと思っている。という。       
   スクランブル交差点は、人通りの多い繁華街の交差点において主に採用されていて、渋谷でもなし、
   人と車の交通量の少ない鎌倉の片田舎、それも、高齢者人口が過半の住宅街には全く不釣り合いである。
   インテリかぶれの多い鎌倉の文化文明気取りの住人が要望して設置されたのかもしれないが、迷惑である。

   素人考えだが、運転者が、青い歩道用信号を見てGOサインと誤認するのなら、車道用信号機は離れたところにあるので、左右2つ並んでいる歩道用信号の真ん中か直近に並んで、車道用の補助信号を設置して、注意を喚起するのも、一つの方法かと思って提案したが、無回答。

   私は、オランダとイギリスで長く住み、ヨーロッパ各地で車生活を送ってきた。ドイツ、スイス、オーストリア、デンマーク、フランス、ベルギーなど遠出もした。
   相対的に言って、日本よりヨーロッパの方が、交通規則も規制も、はるかに厳しいと思っているのだが、運転者のモラルは、日本よりもずっと高い。
   多少の飲酒運転を容認していても事故が少ないし、日本のように教習所もなく厳しい免許取得制度もないにも拘わらず、問題なく機能しているのは、その査証であろう。
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日本製鉄によるUSスチール買収計画の再申請を許可

2024年09月18日 | 政治・経済・社会
   各メディアが、「日本製鉄によるUSスチール買収計画の再申請を許可する」と報じている。
   買収計画は、11月の米国大統領選挙を前に政治的論争の種となっているのだが、対米外国投資委員会は、日本製鉄の提案再提出の要請を認め、買収を承認するかどうかの決定は選挙後まで延期される。というのである。

    ジェフ・メイソン、アレクサンドラ・アルパーによるロイターの「米国による日本製鉄のUSスチール買収の決定、選挙後まで延期」という記事が詳しいので、これによって考えてみる。

   日本製鉄によるUSスチール買収の149億ドルの買収を審査している米国国家安全保障委員会は、両社に買収承認の申請を再提出することを許可し、政治的に微妙な合併に関する決定を11月5日の大統領選挙後まで延期した。
   この動きは両社にとって一筋の光明となる。両社の提携提案は、対米外国投資委員会(CFIUS)が8月31日に、この取引が米国の重要な産業の鉄鋼サプライチェーンを脅かすことで国家安全保障上のリスクをもたらすと主張したことで阻止されるかに見えた。
   関係者は火曜日、CFIUSは、この取引が国家安全保障に与える影響を理解し、当事者と交渉するためにさらに時間が必要だと述べた。再提出により、提案された提携を審査して決定を下すための新たな90日間の期限が設けられる。
   バイデン、ハリス、トランプ、そして、全米鉄鋼労働組合が、この買収に反対していることは、周知の事実なので、ここでは省略する。

   CFIUSは、日本製鉄の合併により、重要な輸送、建設、農業プロジェクトに必要な鉄鋼の供給が損なわれる可能性があることを懸念していると、ロイターが独占入手した8月の両社宛ての書簡で述べた。
   また、CFIUSは、安価な中国製鉄鋼が世界的に供給過剰になっていることを挙げ、日本企業である日本製鉄の下では、USスチールが外国の鉄鋼輸入業者に関税を求める可能性は低くなると述べた。さらに、日本製鉄の決定は「国内の鉄鋼生産能力の削減につながる可能性がある」と付け加えた。
   一方、ロイターが独占入手したCFIUSへの100ページに及ぶ回答書簡で、日本製鉄は、本来なら休止状態になっていたであろうUSスチールの施設に数十億ドルを投資し、「米国国内の製鉄能力を維持し、潜在的に増強する」ことを「議論の余地なく」可能にすると述べた。同社はまた、USスチールの生産能力や雇用を米国外に移転しないという約束を再確認し、不公正な貿易慣行に対する米国法に基づく貿易措置の追求を含む、貿易問題に関するUSスチールの決定には一切干渉しないとした。
   日本製鉄は、この取引は「米国と日本の緊密な関係を基盤とした、中国に対するより強力なグローバル競争相手を生み出す」と付け加えた。

   新日鉄とUSスチールは3月に審査を申請し、CFIUSは6月に再申請を許可し、9月23日に期限を迎える2回目の90日間の審査期間が始まったとロイター通信は金曜日に報じた。12月にCFIUSは、国家安全保障上の懸念に対処する措置を講じて取引を承認するか、大統領に取引を阻止するよう勧告するか、または再度期限を延長する可能性がある。CFIUSの厳格な審査には90日かかるが、審査委員会の懸念に対処する時間を増やすために、企業が申請を取り下げて再提出することはよくある。というのである。

   同じくロイターは、「USスチールCEO、日鉄による買収成立を確信」と報じて、
   デビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は17日ミシガン州デトロイトで講演し、日本製鉄による買収成立に楽観的見方を示した。CEOは買収の審査プロセスは「非常に堅牢」だが、「われわれはそのプロセスを信頼し、尊重している」、とした。
   この統合は、両者の将来のみならず、国家安全保障、経済安全保障、雇用の安定を強化することは非常に明確であり良いことだと強調したのである。
   USスチールのHPは、
   NIPPON STEEL CORPORATION AND U. S. STEEL COMBINATION IS THE BEST DEAL FOR AMERICAN STEEL 一色、疑いの余地なし。

   9月5日に、このブログで、「米国の愚行:日鉄のUSスチール買収反対 」を書いて、アメリカにとって、この買収阻止が如何に愚行かを論じたので、蛇足は避ける。
   いずれにしろ、米国の財務省や国防省でさえコメントを控えていて、アメリカの政治経済社会に大きな影響を与える微妙な問題、
   新大統領の対応如何にかかっていると言うことであろうか。




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米国の愚行:日鉄のUSスチール買収反対

2024年09月05日 | 政治・経済・社会
    日鉄が買収しようとしているUSスチールは、世界を制覇していた頃のアメリカ経済の最高峰のシンボル企業であり、アメリカ資本主義の命そのものであった。
   そのUSスチールが落ちぶれて、日本企業に買収されようとしているのだから、腐っても鯛は鯛、
   墓穴を掘っても、誇り高きアメリカ国民にとっては耐え難い。

   米大統領が、日鉄の買収阻止へ最終調整に入り、統合話が消える公算が高くなり、これに対してUSスチールが反発というニュースが日米のメディアの話題になっている。  

   買収計画には、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対していて、11月の米大統領選を控え民主党候補のハリス米副大統領は2日、USスチールについて「米国内で所有、運営されるべきだ」と述べ買収に反対の姿勢を示し、トランプ前大統領も再選すれば買収を阻止すると明言している。 
   買収は対米外国投資委員会(CFIUS)が審査していて、CFIUSが日鉄に対し安全保障上の懸念があると伝えたと言うことで、バイデンはCFIUSの勧告に基づき、買収を禁止する行政命令を出すとみられている。 

   それを受けて、USスチールのデービッド・ブリットCEOは、日本製鉄による買収が不成立なら、製鉄所を閉鎖することになり、本社をピッツバーグから移転する可能性も高いと米紙ウォールストリート・ジャーナルに語った。ブリット氏はインタビューで、日鉄はUSスチールの老朽化した製鉄所に約30億ドル(約4300億円)の投資を約束しており、それが競争力を保ち雇用を維持する上で不可欠だが、日鉄買収が不成立に終わるなら、それは実現されない。と述べたという。 

   さて、USスチールの情報を知ろうと、HPを開いたら、日本製鐵とUSスチールのロゴが横並びで表示されて、口絵写真の真ん中に、次の表示のみ、
MOVING FORWARD TOGETHER AS THEBEST STEELMAKERWITH WORLD-LEADING CAPABILITIES  
   LEARN MORE をクリックすると、
Nippon Steel Corporation + U. S. Steel
Moving Forward Together as the ‘Best Steelmaker with World-Leading Capabilities’
Nippon Steel Announces Transformative Investments at U. S. Steel's Mon Valley Works and Gary Works
日鉄の投資提案を提示し、加えて、
The Steel CityとStandard Steel’s Comebackとの短い動画で明るい未来を描く。
   HPには、2社の統合に関する情報以外に記事はない。統合によって、USスチールの未来が如何に明るく起死回生を図れるかのオンパレードである。
USスチールにとっては、日本製鐵との統合以外には眼中になく、破談すればその未来はないと思っている。

   詳細は省くが、既に、USスチールの命運はほとんど尽きており、日本製鐵との統合がだめになれば、衰退の一途を辿るだけで、反対する労働者の生きる道もなくなってしまうのに。と思っている。
   なぜ、買収反対がアメリカにとって愚の骨頂かは、2月22日のこのブログで、プロジェクト・シンジケートの論文アン・O・クルーガー 「 アメリカの鉄鋼狂気 America's steel madness」を紹介したので、一部引用する。

   バイデンは、3つの主要な経済政策目標を定めている。外国直接投資の奨励などにより「良い仕事」の数を増やす。 米国の製造と現地生産を強化する。 そして最新テクノロジーの導入を加速する。 バイデンはまた、より多くの貿易、特に重要な物品の輸入を米国の同盟国に振り向けること、いわゆるフレンドショアリングを目指している。
   この鉄鋼合併はこれらすべての目標を前進させると同時に、米国の主要同盟国との関係を強化する可能性がある。
   日本製鉄による 買収とそれに伴う技術の向上により、US スチールの衰退は逆転するはずである。 取引条件は、この買収により米国の鉄鋼業界の生産性が向上する可能性が高いことを意味している。 米国の鉄鋼価格が下落すると、鉄鋼を輸入するインセンティブが低下し、冷蔵庫や自動車などの製品を製造する米国のメーカーはコストを削減できるため、競争力が高まるだろう。 これらすべてが米国の製造業と技術基盤を強化し、米国での「良い仕事」の継続的な提供、そして可能性のある創出を確実にするであろう。
    US スチールの運命を逆転させ、アメリカの鉄鋼産業の見通しを改善する本当の機会を意味するこの出来事を歓迎すべ きであって、このチャンスをミスるのは、America's steel madness正気の沙汰とは思えない。 と言うことである。

   日鉄はUSWに譲歩案として、少なくとも、現行の労働協約が失効するまでは従業員のレイオフ(一時解雇)、工場閉鎖は実施しないとも公約したのだが、この公約を「空約束」として、USWは首を縦に振らない。しかし、このまま、衰退して解雇されるよりは、USスチールが技術革新によって生産性が向上して起死回生すれば、雇用機会も増え労働条件も良くなると考えるべきであろう。

   選挙ともなれば、「アメリカファースト」も色あせてしまって、金の卵を殺すのも知らずに、労働者票を取りたいばっかりに、定見も知見も欠如したUSWにすり寄る悲しさ、
   トランプは勿論、ハリスも。

   日鉄のUSスチール買収反対は、アメリカ製造業凋落の象徴ともいうべき現象で、葬送行進曲の序章がかすかに聞こえてくる、と言えば言いすぎであろうか。
   米鉄鋼メーカー、クリーブランド・クリフスが買収合併に動いているようだが、斜陽の弱者同士の統合は死期を早めるだけ、
   アメリカ政府が、国内企業の統合だけで危機を乗り切ろうとするのなら、先は見えている。


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カマラ・ハリス:大統領候補指名受諾演説

2024年08月23日 | 政治・経済・社会
   シカゴで開かれている民主党大会の最終日の22日、大統領候補に指名されたカマラ・ハリス副大統領(59)が受諾演説を行った。黒人、アジア系として米国初の女性大統領を目指して、11月の大統領選で、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)と対決する。
   首席スピーチライターのアダム・フランケル氏の草稿に手を加えながら数週間かけて演説を練り上げてきたというのだが、さすがに検察官のキャリアーがものを言って弁舌さわやかで、感動的なスピーチであった。
   私は、NHKの放映を通じて、全公演を聴講して、解説も読んだ。
   参考にして、感想を述べたい。

   冒頭、母はインドからカリフォルニアへ渡ってきたと自分の生い立ちを語って、「さまざまな政治的な見解を持っている人がいることはわかっている。皆さんに知ってもらいたい。私はすべてのアメリカ国民のための大統領となることを約束する」と宣言した。
   そして「力強い中間層の存在がアメリカの成功に不可欠であることを私たちは知っている。そして、こうした中間層を築き上げることが大統領に就任した際の決定的な目標になる。 (A strong middle class has always been critical to America's success. And building that middle class will be a defining goal of my presidency .)中間層の家庭に生まれた私の思いだ」と述べて、アメリカ社会の根幹はミドルクラスの健全な存在であって、この繫栄あってこそアメリカ社会の活性化と未来があるとの持論を強調した。
   さらに「私は私たちの最も高い志で国民を束ねる大統領になる。人々を導き、耳を傾け、現実的で良識のある大統領になる。そして常にアメリカ国民のために戦う。それが裁判所からホワイトハウスまでの私のライフワークだ」と述べて、非常識極まりない対戦者を揶揄し、「政党や人種、性別などに関係なく、すべてのアメリカ人のために、懸命に働き夢を追い求めるアメリカ人のために、大統領候補への指名を受諾する」と述べ て、アメリカンドリームを匂わせた。

   「今回の選挙は私たちの人生において最も重要であるだけでなく、私たちの国の歴史において最も重要なもののひとつだ。トランプ氏は不真面目な男だ。しかし、彼をホワイトハウスに戻すことの結果は極めて深刻だ。(Trump is "an unserious man" and his return to the White House would have "extremely serious" consequences.) 彼が大統領だった時の混乱や災難だけでなく、彼が前回の選挙で敗れたあとに起きたことの重大さを考えてほしい」と述べて、さらに、恐ろしいと指摘したのは、「大統領公務なら免責」とする最高裁の判断。免責特権が幅広く認められる恐れがあり、大統領の権限が法律で制約されなくなると、「自分ファースト」でモラルを欠き常軌を逸した傍若無人な独裁者が、大統領になればどうなるのか。

   ハリスは、ガザ・イスラエル問題について、イスラエル支持とガザでの平和停戦に言及しながら、「私たちは、世界の歴史上、最も偉大な民主主義の継承者だ。」として、「前向きと信念に導かれ、愛するこの国のために、そして育んできた理想のために戦う」と述べた。ハリスの命の叫びである。
   トランプはNATOから脱退すると脅迫したが、、ウクライナやNATOの同盟国を強く支持する」と述べ、国際協調を重視する姿勢を示した。トランプのように、「暴君や独裁者にすり寄ることはない」 としたのが興味深い。

   移民政策については、 国境管理「法案を復活」 させ、人工妊娠中絶については、「復活法案 誇り持って署名する」として、
   ハリス氏は「ともに戦おう。投票に行こう。これまでで最もすばらしい物語の次の偉大な章を記そう」と述べて演説を締めくくった。 
   
   さて、今度のテレビ討論会でのハリスの対決戦略は、「検察官対重罪犯」で十分だと思う。
  ハリスは、元検察官という自らのキャリアに言及して、「女性を虐待する略奪者、消費者からだまし取るペテン師、自分の利益のために規則を破る詐欺師、あらゆる種類の加害者と私は対決した。だからドナルド・トランプのようなタイプを知っている」と、大統領経験者として史上初めて重罪で有罪評決を受けたトランプと、犯罪者と対峙してきた元検事の姿を浮き彫りにした。
   トランプは、ハリスが追い詰めた重罪犯の資格は十分に持っており、その追求だけで勝負がつく。

   トランプは、ハリスをバカ呼ばわりしているが、箔付のために大学進学適性試験(SAT)を替え玉受験して入学してウォートンを出た学卒より、加州大ロースクールを出た法務博士のハリスの方が知的水準は遥かに上のはずで、その上に、法廷に立った百戦錬磨の敏腕検察官、
   口から出まかせ嘘八百で生き抜いてきたトランプがどう対峙するか。

   また、トランプは、ハリスは共産主義者だとか、ハリス政権になれば、アメリカ経済を崩壊させるとか、第3次世界大戦を引き起こすとか、根も葉もない暴言を口走っている。
   2016年の選挙でトランプが勝ったのは、エスタブリッシュメントを否定して、アメリカの東部から中西部に広がる製造業の集積地帯「ラストベルト(Rust Belt)」で、中間所得層からの転落を恐れる多くの白人労働者の怒りと不満を浮かび上がらせて集票に成功したからであった。しかし、このトランプ戦術は賞味期限切れで、産業構造も労働環境も大きく激変していて、
   今回の選挙は、中間層の取り込み以上に、女性票やマイノリティ票や若年層票がキャスティングボートを握っており、浮動票の帰趨が選挙の結果を制しよう。
   トランプ、そして、保守党の戦略戦術、ビジョンや政策は、既に既知で手垢にまみれている。たとえ、バイデン政権の遺産であっても、今回のハリス演説に徐々に斬新さを加えて独自色を出して、民主党本来の福祉国家政策などのリベラル政策をブラッシュアップすれば、ハリスの勝機は向上するはず。
   A new way forward を、どう叩き付けて、後ろ向きのトランプを粉砕するか、
   とにかく、9月10日のテレビ討論会を期待したい。
   
コメント
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