熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ソニースピリットは消えたのか

2006年12月06日 | イノベーションと経営
   先日、ソニーのストリンガーCEOがパート・タイムであることに大前研一氏が苦言を呈していることについて書いた。
   ハイテク・ベンチャーの旗手であったイノベイティブなソニーが、大企業化して大きく変貌したことは事実なのだが、どのように変わったのか考えてみたいと思った。

   最近、ソニーOBの塩路忠彦氏が「ソニースピリット 成長神話を支えた精髄」と言う本を出版した。
   今年の8月10日初版発行だが、奇妙なことに、井深、盛田、大賀の3社長について詳細に書かれているのだが、意図的に(?)、出井社長やPlaystation等については一切触れられていない。
   本の主題がソニースピリットであり革新的なソニーの歴史を詳細に書いているのだから、もう、ソニーにはソニースピリットがなくなった、死んでしまったと言っている様にしか思えないような書き振りである。

   塩路氏は、ソニースピリットは、意図してトップダウンで創り上げられたものではなく、自然に醸成されたものだと言って、「他人のやらないことを、一歩先んじて、自己の持つ能力を最高度に発揮して、世界を相手に事業を行う」「斬新で突出した技術を活用した商品をビジネスに結びつける」「Something differentを生み出す」と言う企業姿勢が、創業者である井深のイノベータースピリットであり、ソニーの企業理念の原点になっている、と述べている。
   「他人のやらないことをやる」「難関を突破して夢を手に入れよう」「限りなき挑戦を試み技術革新を積み重ねることによって、世のため人のために役に立ちたい」と言うのがソニーの遺伝子であって要領よくやって儲けようと言う「真似した電器」とは違うのだと言うのである。

   技術力がある、他人のやらないことをする、デザインが良い、カッコいい、創造的、ユニーク、ワクワクさせる、国際的、挑戦者、新しいライフスタイルを生み出した、ベンチャー精神に富んでいる・・・そんなソニーが、テープレコーダーやトランジスターラジオやウォークマンやトリニトロンを生み出して世界中を魅了した。
   
   ところが現在のソニーはどうであろうか。
   素晴らしいPS3を開発して売り出しながらCELLを上手く戦略的に活用出来ず、需要を満足させ得る生産には間に合わず出来ても一台2万円の赤字で売れば売るほど赤字の累積になると言うし、ディファクト・スタンダードを取れないブルーレイでHD-DVDと争っている状態であるし、「フェリカCプラス」と言う途轍もない製品を作り出しながら汎用カードとしての展開と言う千載一遇のチャンスをミスるし、将来の超有望産業であるロボットから撤退してしまった。
   経営そのものが迷走しているとしか思えない。

   ストリンガー中鉢チームは、薄型TVやウォークマンなど既存のコアであるAV機器の革新的技術で差別化を図ろうとしているが、所詮コモディティに近い製品であり、クリステンセンの言う持続的イノベーションの範疇でその域を出ず、たとえ、iPodより上等なウォークマンを開発しても、シャープより映りの良い薄型液晶TVを生産しても、多少は売上が増えるかも知れないが多くを期待出来ない。
   持続的イノベーションは持続的イノベーションであって、顧客のニーズ以上に技術開発を進めても、更に需要を喚起出来ないしそれに見合った金を払って貰えないとクリステンセンが何度も言っているが、ソニーの足掻きは相変わらずこの戦略から一歩も出ていない。
   新興のIT関連企業や新しいビジネスモデルで挑戦する若い企業家達のサービス関連事業が純利益20%以上を上げて快進撃しているにも拘らず、利益基調でも、世界に冠たるソニーのROIが一桁で何時までも極めて低水準であることが、このことを物語っている。

   ソニーは、ブランド戦力を推進するために、「ブランド戦略オフイス」を設けて、最先端のブランドマネジメントを推進しているのだと塩路氏は言う。
   確かに、ソニーの宣伝は、TVコマーシャルにしろ、街頭や電車内の公告にしろ何れも洗練され垢抜けしていて素晴らしい。しかし、宣伝するもの、そのものが素晴らしくなければ意味がない。
   先日も、東京駅から東京フォーラムに向けて地下道を歩いたら、通路の壁面に大型のTVスクリーンが沢山設置されていて、ブルーレイのDVDレコーダーやTV、VAIO,PS3などが展示されていて、素晴らしい映像で人々を楽しませていた。
   しかし、ソニーファンが見たくて期待しているのは、そのようなPANASONICやSHARPの展示場に出かけても見られるような並みの製品ではなく、塩路氏が言っているソニースピリットに満ち溢れたソニーらしいワクワクさせてくれるような誰にも真似の出来ないようなダントツの製品、ソニーのお家芸であった筈の破壊的イノベーションの製品なのである。
   素晴らしいTVコマーシャルや品のある美しいPR公告を見れば見るほど、違和感を感じるのは私だけであろうか。

   ソニーの熱烈なファンとして、もう一度問いたい。ソニーは歌を忘れたカナリヤになってしまって、ソニースピリットは死んでしまったのであろうか。
   
コメント
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