先日神保町の書泉を訪れたところ、ふだんは『日式台湾時刻表』を発行している同人誌団体「日鉄連」による新企画として、『東南アジア半島鉄道時刻表』なるものが売られていましたので、思わずゲットしてしまいました。個人的に、台湾の時刻表は台鉄がネットに載せている全列車時刻表で間に合っていますので、敢えて『日式』を購入したことはないのですが、東南アジア各国の鉄道時刻表については、各国国鉄の公式HPにアクセスしても全然要領を得ずトホホな気分を抱いておりましたので、そのトホホを克服して何とかまとまった時刻表に仕立て上げたのは大変な労作であると判断した次第です。
では、何がトホホなのか? 仮にまとまった時刻表が掲載されていても、古い時刻のまま放置され、空席照会画面などで出て来る最新の時刻とは全然違っていることがしばしばです。さらには、中国で紙の時刻表が消えた理由とも通じるのかも知れませんが、そもそも圧倒的多数の利用客自身が、自分の乗る駅から目的地まで向かう列車が何時何分に発車し、空席があってオンライン予約出来るかどうかという点を気にする一方、途中どのような経路をとり、途中駅に何時何分に着き、何分間停車するかということを全くどうでも良いと思っている可能性が高いという……。その結果、日時と駅名を入力すると、発車列車とその空席状況がPC画面で表示されるというサービスは充実して来ましたが、それと反比例して列車の運行状況を時刻表という「面」で俯瞰することは困難になりました。
というわけで、PCの検索画面を通じて得られる断片的な「時刻情報」をしらみつぶしに書き留めて、それを時刻表というかたちに組み直すのは、想像以上に面倒臭い……。それを見事に克服し、特急から鈍行に至る運行状況を同じ面で一目瞭然にしたことには、列車本数が限られる中で全車自由席の鈍行列車もヲタにとって有用な移動手段であることを考えれば、「薄い本なのに1,000円かよ」という表面的な印象とは裏腹の絶大な価値があると考えます。
そんな中、隔靴掻痒の感を禁じ得ないのは、ミャンマー国鉄の時刻表掲載が見送られていることです。何故なら、ミャンマー国鉄自身が全国の駅の発車時刻をネットに載せているわけではなく、ヤンゴン~マンダレー間の時刻ですら、検索すると出て来る旅行会社系の時刻表は古いことが多く、詰まるところ直接駅まで行かないと時刻は分からないから! (滝汗) この点、いつもお世話になっております落花生。様をはじめ、ミャンマーのド田舎路線を探訪された方が、駅に掲示されているミャンマー語のみの時刻表を書き取ってネットに再掲載して下さっているのですが、ミャンマー国鉄の時刻ほど朝令暮改なものはなく (?)、ひっそりと列車が (さらには路線が) 誕生・運休のあいだを彷徨っているという……。単に線路が近代化されて行くだけでなく、全国規模の鉄道時刻についても少なくとも発車時刻がオンライン検索出来るようになってこそ、ミャンマー国鉄全体のリノベーションということになりましょう。
それはさておき誌面を開いてみますと、さすがタイ国鉄の部分は列車本数・路線の長さからして充実しており、バンコクに姿を現すあんな列車・こんな列車を思い浮かべながら時刻をたどって行くのはいとをかし、といったところでしょうか。とりわけ、バンコクの中央駅機能がバーンスーに移転するのを控え、現在のホアラムポーン駅の栄華を紙の時刻表という形態でとどめるという点でも、行く行くは歴史史料的価値を持つようになるかも知れません。
また、この時刻表の長所でもあり、曲者でもある点として……華語併記であるという点が挙げられるでしょう。最大の目的は、『日式台湾時刻表』でコネがあり、かつ一定のヲタ人口を擁する台湾でも売るためなのでしょうが、それに伴ってタイについては主要駅、ベトナムとマレーシアについては全駅の漢字表記が示されているのは非常に有り難い! とりわけ、ローマ字表記クォックグーに移行して久しいベトナムの元の漢字地名を調べるのは面倒でしたので……。もっとも、華語圏での地名表記を、たとえば始発・終着駅を表示するスペースで使った結果、「曼谷」のような初級編はさておき、「烏汶」「清邁」「廊開」「合艾」「惹拉」……って一体どこやねん?という混乱に陥ることは間違いなしです。華語での発音を理解していれば「あ、ここのことね」とすぐに分かるのですが (笑)。