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ヨーロッパはシリアの難民の受け入れで混乱が生じている。積極的な受け入れを表明していたドイツは、ここに来て規制を始めた。EU各国で分担するハズであったが、どうやら貧乏くじを率いた感があり、やや手を引きかけている。それでもドイツは、10万人近くを受け入れている。ロイターが人口比を出しているが、上記の表を参考願いたい。それでもヨーロッパに向かったのは、35万人程度である。
上の表は、周辺国に逃げ込んだ人たちでおおむね408万人と推定される。ヨーロッパに向かった難民の12倍である。トルコが193万人とレバノンの111万人でおよそ305万人にもなる。シリア国内で逃げ惑う難民は、760万人と推定されている。
ヨーロッパに向かったのは富裕層である。特に陸路で向かった人たち、とりわけドイツなど北欧までたどり着いた人たちは、いわば選ばれたシリアの人たちと言える。
周辺各国に逃れ出た人たちは、一般人たちよりもすこしましな人たちと言える。圧倒的多数は、国内で逃げ惑うばかりである。シリアは1900万人の人口と推定されるが、上記の国内外の難民は1200万ににも及び、国家として産業どころか生活さえ成り立たない状況と言える。
シリアにはアサド政権が実権を握っていたが、アラブの春の運動で欧米に支援される「自由シリア軍」と呼ばれる反アサド運動が起きた。これを受けてウクライナ情勢も複雑に作用して、ロシアがアサド政権を軍事的に支えるようになる。イラクを追われたバース党員などが主体になって、ISIS(イラクとシリアのイスラム国)という残虐非道の勢力が、陰から支えるサウジアラビアによって勢力を拡大する。結局はブッシュが作ったISISであるが、軍事的な成果をシリアとイラクで収めながら拡大する。現在は自由シリア軍の流れは、相当少なくなったりISISに吸収されているように思われる。少数宗派のアサド政権は、イランとレバノンの支持もあって、容易に崩壊するとは思えない。アメリカに加えてトルコもISISの空爆に踏み切っているが、勢力の衰えは見られない。
この3つの勢力は、単独では存在することができないし、それぞれが利権を持ち特定の地域を抑えている。これに国境を越えたクルド勢力が加わり、全体像は誰にもわからない現状と言える。
これらは、周辺諸国ばかりでなくアメリカやロシアなどが加わり、今の日本の言葉で表現するなら、「集団的自衛権」をそれぞれが行使することで、このような利害関係が説明できない、軍事的紛争状況になっていると言える。お互いが正義を掲げ、利害ばかりかりではなく面子と報復のために泥沼の戦況になっているのである。
難民問題は人道的見地からもおろそかにはできないが、シリアに陰に表になって介入する世界各国が手を引かない限り、難民問題どころかシリア問題は解決しない。集団的自衛権の行使のなれの果てである。