もうすでに大方の方は記憶から遠のいているであろうが、ひとしきり大騒ぎした“鳥インフルエンザ”があった。無機質で巨大な鶏舎には、何万羽も飼育されているニワトリがいることを初めて知った、一般の人が多かっただろうと思われる。毎日食べる卵がこんなところで生産されているので、さぞかし驚いたことであろう。
人にも感染するなど変異株の恐怖や、パンデミックが起きるかもしれない、渡り鳥が運んでくるかもしれないなど、本来このウイルスによる怖ろしさの警鐘よりも、身近に見る卵の生産様式を知る機会となったことの方が大きかったように思える。ニワトリは地面を歩き何かを突きながらコッコと鳴いて卵を産むことなどない。ニワトリは日本が輸入する穀物の、3分の1も食べているのである。
今年宮崎で起きた口蹄疫は、人には感染はしないものの畜産業界では最も恐れられている伝染病である。口蹄疫報道で、宮崎県が畜産王国であったことを知った人もいたであろう。殺処分される牛や豚が可哀そうだと、情緒的に感じた方もいたであろう。
いずれにしても、一般の人が畜産の現状を外見的とはいえ見る機会を持ったのは、畜産の元王と今後を考えるには、良い機会を与えたと言える。法定伝染病に感染した家畜は、殺処分されることを知る機会にもなったであろう。
日本の畜産は、輸入穀物を大量に給与することで畜産価格を下げてきた。人と競合する穀物を、先進国は大量に家畜に与える飼養方式を導入したのである。世界の穀物価格を上昇させ、貧国の人間が飢える一方で先進国の家畜たちは、多頭数飼育方式で、常にあらゆる病気の危険に曝されるようになった。
鳥インフルエンザも口蹄疫もの発生も決してあってはならないことであろうが、このことで自らの食について、畜産の在り方について日本人はもっと考えて欲しい機会を国民に与えたのではないか。