時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

メキシコからの不法入国者:難しい評価

2005年10月31日 | 移民政策を追って

  アメリカの移民政策における最大の課題は、メキシコとの国境を越えて流入する不法な移民への対応である。10月25日のブログにも書いたように、不法入国者(移民)について、多くの先進国は大変神経質になっている。アメリカでも、この点について、小規模ではあるが、最近ひとつの世論調査が行われた。今後の動向を知る上で、参考になるので紹介してみたい。

  アメリカ共和党系の保守主義者の考えは、「われわれの壊れた国境を直せ、不法入国者にアムネスティを与えるな」という方向である。そうした考えが生まれる背景については、このブログでもとりあげてきた。これは、事実としてはアメリカ国内に居住する推定で11百万人ともいわれる不法滞在者を想定してのことである。

現実的な共和党支持者たち
  最近行われたManhattan Instituteによる800人の共和党支持と思われる人々への世論調査では、「妥当な線上での現実的な移民改革を望み、就労条件つきの移民受け入れプロセスと国境安全保障の拡大」を希望する人が多数を占めていた。 彼らは不法な移民入国者の数が多すぎると考えているが、共和党議会派のリーダーシップによる立法化、強硬ラインには反対している。そして実際には将来、完全なアメリカ市民への道に向けて、不法入国・滞在者を位置づける方向を支持していると思われる。

世論調査は
共和党支持者と思われる者の世論調査について見てみよう。
「アメリカの受け入れる合法的移民の数についてどう思うか」という質問には:   
  現状水準の維持          33%
  引き上げるべきだ           7%
  引き下げるべきだ            36%
  受け入れを中止すべきだ 16%

不法移民については:
  市民権取得につながる法的地位を与えるべきだ 賛成77%*
  市民権取得の可能性は与えないで合法化する  賛成24%
*労働、税支払い、英語の学習などについての条件付で
Source: Manhattan Institute 

ブッシュ政権の政策との関係
  こうした世論調査の結果はブッシュ大統領とその取り巻きに力を与えたようだ。彼らは、国境警備を厳しくして不法移民を減少させつつ、すでに合衆国内に居住している不法移民については、上記のような一定条件つきで市民権を与える道を開こうとしている。条件に合わない移民は送還するという路線である。国土安全保障省の局長マイケル・チェルトフ は「大統領の考える政策目標はどの不法入国者にも例外なく当てはまる」と述べ、1年以内にこの方向で進展させることを約束している。

  他方、一般議員はチェルトフよりは常識的な考えを持っている。アメリカのすべての不法移民を送還するなど非現実的な世迷いごとだと考えている。  

  最近のPew Hispanic Centerのレポートは、合法・不法を問わず、移民はアメリカ経済の健康状態と平行して動く潮流のようなものであると記している。この点についてみると、1990年代前半では移民入国者は年1100万人であった。1990年代後半には1500万人へ、2002年には1100万人水準へ、その後は1200万人へと増加している。

  メキシコからの移民労働者は、この移民全体のおよそ3分の1を占めている。アメリカ経済がピークだった2000年には、53万人が北へ向かった。2002年に、アメリカで41.5万人の職が失われた時には、メキシコからの移民は37万8千人へ減少した。

「飴と鞭の政策」 
  この潮流は逆戻りしなかった。アメリカ経済が低調なときにも移民は入ってきた。1970年に外国生まれの比率は9.6百万人だったが、2000年の国政調査までに31.1百万に拡大した。アメリカの入国管理政策が適切に機能していないことは、不法入国者が合法入国者を上回ることで分かる。こうした状況で、ほとんどのアメリカ人は不法移民への政策は、「飴と鞭」の組み合わせと考えているようだ。

  マンハッタン研究所の保守派を対象としたアンケートの72%は、国境管理を強化し、不法就労者を雇用する使用者を罰するいわゆる「使用者罰則」(同時に不法就労者に罰金支払いの上で、就労許可と市民権への可能性を与える)を伴う改革プランを支持している。5分の1だけが、より厳しい方向に支持を与えている。 「使用者罰則」は、運用の仕方にもよるがこれまでもあまり機能していない。

  アメリカにいる4100万人のラティーノの経済的成功も世論に影響する。ゴールドマン・サックスはラティーノの貢献を示唆し、次の25年間にはアメリカの3分の1はラティーノが取得するだろうと予想している。経済的貢献は歓迎するが、移民がこれ以上増えることは望まないというのが、多くのアメリカ人の見方である。 どこで折り合うか。アメリカの移民政策は政治的要素がその行方を大きく左右してきたし、今後もそうだろう。

Reference
”Evidence for the defence”, The Economist, October 22nd, 2005

http://blog.goo.ne.jp/old-dreamer/e/67d65e5d55ae20ac5a8e7e0ef06408e7
http://blog.goo.ne.jp/old-dreamer/e/554e8c02df25348c39bdd574c9490047

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする