時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

「師」は「士」より上?

2008年08月07日 | 雑記帳の欄外

  
    今月からインドネシアの看護師・介護福祉士の受け入れが始まった。これも、実態が当初の予想とはかなり異なっている上に、受け入れの制度自体も不透明さが解消されないままであり、多くの不安要因がある。第一陣はすでに日本へ到着した。しばらく注視するしかない。
 
  それはともかく、男性の看護師が増えてきたこともあって、看護婦の名称は中立的な「看護師」と改められた。看護士は看護婦に相当する男性とされているようだ。縁あって、看護学校の入学式や戴帽式に出席する機会があった。最近では1~2割は、男性の入学者である。もっとも入学式などでは、「女性の園」での黒何点?、なんとなく居場所が見つからないようでほほえましい光景もあるが、すぐに慣れるのだろう。病院などでは、患者の移送や機械器具の操作など、力仕事も必要な場合も多いから頼もしい感じがする。

   しかし、「介護福祉士」は、介護福祉師ではない。なぜ、医療・看護・介護の分野に従事する人たちの職名が「師」であったり「士」であったりするのか。「看護師」が男女共通に「看護士」であってはならない理由も、あまり説得的ではない。「介護福祉士」は、現に男女の別なく使われている。「美容師」、「弁護士」など、古くから使われている呼称もある。


  ある時、厚生労働省関係の人から、「看護師」の方が「介護福祉士」より要求される技能水準が上であり、それを区別する必要があるとの説明を受け、大変違和感を持ったことがある。看護であれ、介護であれ、人と接触・対応する仕事は、専門的知識・技能に加えて、表情や言葉の断片から心身の状態を推察したり、要望に対応したり、高度な経験を必要とすることが多い。職業に最初から順位を前提としない方がよいと思うのだが。お役人の思考は違うようだ。もっとも「公僕」civil servants などという言葉は、とっくに死語になっているのだから無理もないが。

  たまたま看護師となった男性のA君から、「ナース」と呼ばれるのは内心、抵抗感があるという話しを聞かされた。ナースの○○君と呼ばれると、一寸たじろぐことがあるという。男性看護師の誰もがそう感じているかどうかは分からない。英語のnurse は普通は女性を指すが、男性も含むことにはなっている。nurse は長らく女性の職業とされ、男性は看護兵など、かなり限定されていた名残である。  

  スチュワーデスが、フライト・アテンダントやキャビン・アテンダントになったのはさほど抵抗なく、受け入れられてきたようだ。しかし、「ナース」の場合は、外国ではどうなのだろうか。日本社会では、人によって思い浮かべるイメージも異なり、しばらく特別の感覚がつきまとうのだろうと思う。A君には男性優位の職業では、女性が同様に抵抗感を感じるはずだよと言ってはおいたが。

  別の例として、以前に教えた学生(女性)が会社員から「大工」さんに転身したいという相談を受けて、一寸驚いたことがあった。「大工」と聞くと、どうも「男の職業」という先入観が強かった。しかし、話を聞いてみると、しっかりとした職業展望を持っていて、一般事務職よりも技能が身に付き一生続けられる大工の仕事に挑戦したいという。一般に「男性の職業」は賃金水準などが高いことが多く、そこに女性が参入すると、しばしば有利なことも分かっている。女性らしい(というと語弊があるかもしれないが)丁寧な仕事、気遣いなどを生かせば、素晴らしい大工さんになるだろう。諸手を挙げて賛成した。今頃は職業訓練校を卒業し、いなせな大工さんとして、きっと活躍していることだろう。

  「格差社会」という言葉が流行語となり、労働者間の報酬などの差異拡大が問題になっている。世の中の差別現象は、法律などの手段ではなかなか解消できない。職業に貴賎なし。職名ひとつにも大事な意味があることをもう一度考えたい。



辞書的な定義によると、「看護師」は厚生労働大臣の認可を受け、傷病者などの療養上の世話または診療の補助をすることを業とする者。高校卒業後、4年制大学のほか、3年制の短大、看護学校等の養成機関を経て、国家試験に合格すると資格が与えられる。看護婦は女性の看護師。

「社会福祉士」は社会福祉専門職のひとつ。日常生活に支障がある人に入浴、排泄、食事その他の介護、指導を行う。1987年制定の「社会福祉士及び介護福祉士法」による資格。
(新村出編『広辞苑』第6版、岩波書店、2007年)

コメント (2)
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