時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

いつの間にかシンプル・ライフ

2008年08月27日 | 午後のティールーム

Zurbaran, Francisco de
(1658-1664)

Still-Life with Pottery Jar
Oil on canvas, 46 x 84 cm
Museo del Prado, Madred



    別に、故中野孝次氏の「清貧の思想」に感銘し、実践したりしているわけではない。そればかりか、かつてベストセラーになったこの作品を手にしたことさえない。しかし、このところ、意図してきたわけではないが、生活がシンプルになったことを実感している。いうまでもなく、シンプルは清貧と同じではない。

  かなり前から特に買いたいと思うものが、ほとんどない。戦後日本経済の成長過程では、それなりに消費欲を煽り立てられた。中流の家庭として、ほどほどの物を求めたことはある。しかし、それでも特に記すほどの物欲にとらわれたことはなかった。立派な家に住んで、豪華な車に乗りたいなどの思いは、まったく生まれなかった。

  今時、携帯電話も使わないので、奇異な目で見られることもある。実は一応持ってはいるが、緊急発信用にしか使わない。緊急時など滅多にないから、使わないのに等しい。これまで、時には人並み以上に忙しい時期もあったが、使わずにいてなにも支障がなかった。むしろ、使っている時は無駄な仕事ばかり増えた。「携帯」を使わないことにしてからのメリットは計り知れない。「携帯」に追われる生活など、願い下げだ。親しかった精神医学者の友人が、いつも電話に追われるような日々を送っているのを目の前にして、これでは君の健康の方が心配だよと冗談まじりに言っていたのだが、残念にも若くして逝ってしまった。電車の中などで、反射的に「携帯」を取り出している人たちを見ると、一種の「生活習慣病」ではないかと思うほどだ。利便性を得るはずだけの「携帯」に行動から思考まで束縛されていて異様に見える。使っている本人は、もう周りが見えなくなっている。
 
  「モノ」に固執しないことで、当惑したことがなかったわけではない。ひとつの例。しばらく前まで、一見して安物の腕時計をしていたことがあり、「身分相応?」の品を身につけたらと、大先輩からたしなめられたことがあった。ある新聞の購読の景品としてもらったもので、確かに5000円もしない安価なものだった。しかし、私にとっては短針・長針・さらに秒針もあって、時計としての機能は十分備えている。薄いために軽くて楽であり、何も疑念を抱くことなく愛用していた。もっとも、一時期、別の事情である著名ブランドの時計を愛用していたこともあった。しかし、15年ほど前に故障した時に、スイスの本社にも、補修部品がなくなったと告げられ、それを機会に新たなブランド品を使うこともなくなった。出来れば、時計のない日々を送りたい。

  車についても同様だった。故障さえせずに、輸送という機能だけを安全にしてくれれば十分と思っていた。実際には、かなり故障して悩まされたが、修理の仕方などが身に付けばそれなりに楽しめた。一時期、バッテリー、ライト、オイル交換などは自分でやっていた。イギリスでは「グリース・モンキー」というのだが。

  パソコンも、一時期はマックのフリークであった。新機種情報、操作法など販売店の店員より詳しい時もあった。SE/30、CUBE(トースター形状の本体)も処分するには忍びがたく、今でも時々動かしている。現在、主に使っているパソコンは、2002年のIBMーX30である。さすがに時々ダウンして、がっくりさせられる。しかし、重症の場合でも、工場出荷の段階に戻したり、アプリケーションやHDを入れ替えるなど半日くらいの修復作業の結果、健気に?立ち直ってくれて、まだ目前にある。暇さえあれば、修復する作業自体が楽しいこともある。

  こうしてシンプルな生活がいつの間にか定着してきた。時間に追われて休みもないように仕事をしていた時期もあったが、今は積極的に切り落としている。もともと、今日まで生きてきたのが僥倖に近いと思うくらいだから「多病息災」と考えて、気楽に過ごすことにしている。機械のように、突然、ブラックアウトして、終幕になってくれればよいと思うこともあるが、これだけはどうなるか分からない。

  ひとつだけ、シンプルにならないのは、頭の中だ。今まで多忙なために考えなかったり、時間がなく実現できなかったことをしてみたいと思うことが次々と生まれてくる。雑念も多く、これはこれで実は難物なのだが、その多くは楽しい部類だ。こちらも、いずれどこかで断線して終わりになるだろうと期待しているのだが。

  
  

コメント (2)
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