熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジョセフ・S・ナイ「国家にモラルはあるか?:戦後アメリカ大統領の外交政策を採点する」(2)

2021年07月07日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   モラルと来れば、当然、気になる大統領評価は、トランプ。
   ナイ教授の評価で、悪い大統領は、ジョンソンとブッシュ43(子)とトランプで、その悪い一人である。

   何故、トランプのようなユニークで型破りな大統領が出現したのか、激動の時代の潮流が生んだ徒花と言えば語弊があろうが、とにかく、民主主義の牙城であったはずのアメリカのイメージを一挙に突き落としてしまった。

   トランプの最大の武器は、2009年に使い始めて注目を集めたツイッターで、この革新的なICT技術を駆使して、メディアを通さずに、一切の政治的コミュニケーション情報を直接発信して大統領職を遂行したことであろう。FDRがラジオの草創期に行った炉辺談話や、放送を開始したばかりのテレビを使ってJFKが行った記者会見に類似した手法で、規制の政治家よりはるかに独創的だったという。
   トランプの政治的武器は、予測不可能である点で、プリーバス首席補佐官の言によると、感情をかき立てる物語に注意を払い、対立を好み、相対する者同士を集め争わせ、過程には関心なく、決定は自分で下したがる。と言うことで、識者や側近の提言や助言さえ無視して独走したという。
   替え玉を使って入学して天下の名門アイビーリーグのウォートン・スクールを出たものの、真面な本は勿論、ゴースト・ライターに書かせた自著の原稿さえ読まず、情報源の大半はfoxなどのテレビニュースで、真面な確たる世界観や哲学思想などさらさらなく一般常識も欠如する、ニューヨークの不動産ビジネスで培った経営と取引のスタイルで推しまくってきた、と言うのが、一般的に流布しているトランプ評だが、先の大統領選挙で勝利したのは自分で選挙は盗まれたと主張し続けているに至っては、正気の沙汰とは思えない。
   トランプの常軌を逸した異常な大統領としての行状や生き様などは、「ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日」など多くの暴露本を読めば、良く分かる。
   ナイ教授は、トランプの感情知性は低レベルで、彼の気質は、これら感情知性や状況を把握する知性の低さとなって表れており、トランプの個人的な気質は大統領にふさわしくないと言って憚らない。

   この本は、トランプ政権の末期に著されているので、トランプの評価については時期尚早だとはしているが、かなり、穏やかであるのが興味深い。

   それでは、ナイ教授の、トランプの外交政策の倫理的評価だが、
   まず、第一次元の意図、目標や動機だが、トランプが提示する価値観は偏狭で、リベラルな国際秩序を否定し、ホッブズ的、ゼロサム的なリアリズムに依拠して、アメリカの自己利益を狭く定義している。彼の個人的な要求が政策を歪めており、性向を喧伝したいというトランプの個人的な要求のせいで、政策に欠陥が生じ、それが、アメリカの同盟国との絆を弱めている。価値とリスクのバランスを取るという慎重さに関して言えば、トランプの不介入主義は、軍事的行使による過ちを防いでいるが、今世紀における力の拡散が、アメリカのリスクをもたらすのは間違いない。
   手段という観点からは、トランプのISISに対する軍事力の行使や、シリアの化学兵器使用に対する報復措置は、均衡と軍民を区別したものであり、イランがアメリカの無人機を襲撃した時にも、トランプが軍事力による反撃を取りやめたのは道理に叶っていると、この点だけは及第点を付けている。
   結果については、更なる時間の経過が必要だとしながらも「悪い」の総合評価である。
   トランプはリベラルな国際秩序を拒絶して、同盟関係に疑義を呈し、多国間制度を攻撃し、オバマの貿易協定や気候変動枠組協定から撤退、中国とは貿易戦争を始め、米国の政策の焦点を中東のサウジアラビアやイランに戻した。アメリカを再び偉大にすると約束したが、それは通商を主眼にした偏狭なアプローチと、一般通念に挑戦する破壊的な外交政策によるものだった。と言うことである。

   オバマが整えたリベラルな外交政策を、トランプが逆方向にひっくり返して、その反動で、バイデンが、以前のややリベラルな外交政策に戻そうとしていると言うのが最近の5~6年のアメリカの動きのような気がするのだが、民主主義だから、これだけ、ぶれるのか、
   トランプ現象の出現で、アメリカが分からなくなってしまった。
コメント
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