熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

PS:ジョセフ・ナイ「グローバリゼーションに未来はあるのか?Does Globalization Have a Future?」

2025年02月10日 | 政治・経済・社会時事評論
   プロジェクトシンジケートのジョセフ・ナイ教授の論文「グローバリゼーションに未来はあるのか?Does Globalization Have a Future?」
   グローバリゼーション」というと、一般的には長距離貿易や移住のイメージが思い浮かぶが、この概念には健康、気候、その他の国際的相互依存も含まれている。皮肉なことに、反グローバリストのアメリカは、トランプ政権下で、このグローバリゼーションの有益な形態を制限し、有害な形態を増幅することになるかもしれない。と言うのである。

   グローバリゼーションとは、単に大陸間の距離における相互依存を指す。ヨーロッパ諸国間の貿易は地域的な相互依存を反映しているが、ヨーロッパと米国または中国との貿易はグローバリゼーションを反映している。トランプ米大統領は、国内産業と雇用の喪失の原因であるとして、中国に関税を課すことで、世界的な相互依存の経済的側面を減らそうとしている。
   経済学者は、その損失のどれだけが世界貿易によって引き起こされたかを議論していて、いくつかの研究では、外国との競争により何百万もの雇用が失われたことが判明しているが、それが唯一の原因ではない。多くの経済学者は、より重要な要因は自動化であると主張している。こうした変化は全体的な生産性を高める可能性があるが、経済的な痛みも引き起こすため、ポピュリストのリーダーたちは機械よりも外国人を責めやすいと考えている。

   彼らは移民も責める。移民は長期的には経済に良いかもしれないが、短期的には破壊的な変化の原因として描かれやすい。アフリカからの人間の移住はグローバリゼーションの最初の例で、米国や他の多くの国も同じ基本的な現象の結果で、これらの国が建設されるにつれて、以前の移民は新参者の経済的負担と文化的非適合性についてしばしば不満を述べた。そのパターンは今日も続いている。
   移民が急速に増加すると、政治的な反応が予想される。近年のほぼすべての民主主義国で、移民は現政権に異議を唱えようとするポピュリストにとって頼りになる攻撃問題となっている。これは、2016年と2024年のトランプの当選の重要な要因であった。これが、ほぼすべての民主主義国におけるポピュリストが、グローバリゼーションの拡大とスピードの加速の所為にして自国のほとんどの問題を貿易と移民が原因だとして反発している理由である。貿易と移民は確かに冷戦終結後に加速した。政治的変化と通信技術の向上により経済の開放性が高まり、資本、商品、人の国境を越えた流れのコストが低下したためだが、現在、ポピュリストの影響力が高まっているため、関税と国境管理によりこれらの流れが抑制される可能性がある。

   しかし、経済のグローバリゼーションの逆転は、以前にも起こっている。 19 世紀は貿易と移住の急激な増加が特徴だったが、第一次世界大戦の勃発とともに急停止した。世界総生産に占める貿易の割合は、1970 年近くまで 1914 年の水準に回復しなかったのである。
   現在、一部の米国の政治家が中国との完全な分離を主張しているが、再びそうなる可能性はあるであろうか。安全保障上の懸念から二国間貿易は減少するかもしれないが、年間 5,000 億ドル以上の価値がある関係を放棄するコストを考えると、分離は起こりそうにはない。しかし、「起こりそうにない」ことは「不可能」と同じではなく、たとえば、台湾をめぐる戦争は、米中貿易を急停止させる可能性がある。
   いずれにせよ、グローバリゼーションの将来を理解するには、経済の枠を超えて考える必要があり、軍事、環境、社会、健康など、地球規模の相互依存には他にも多くの種類がある。戦争は直接関わる者にとって常に壊滅的なものであるが、COVID-19パンデミックによって亡くなったアメリカ人の数は、アメリカのすべての戦争で亡くなったアメリカ人の数よりも多いことを忘れてはならない。

   同様に、科学者たちは、今世紀後半には地球の氷床が溶け、沿岸都市が水没し、気候変動が莫大なコストをもたらすと予測している。短期的にも、気候変動はハリケーンや山火事の頻度と激しさを増している。皮肉なことに、私たちは利益をもたらすタイプのグローバリゼーションを制限しつつ、コストしかかからないタイプのグローバリゼーションに対処できていないのかもしれない。第2次トランプ政権の最初の動きの1つは、米国をパリ協定と世界保健機関から脱退させることだった。
   では、グローバリゼーションの未来はどうなるのか? 人間が移動可能で、通信および輸送技術を備えている限り、長距離の相互依存関係は現実であり続けるであろう。結局のところ、経済のグローバリゼーションは何世紀にもわたって続いており、そのルーツはシルクロードのような古代の貿易ルートにまで遡る(中国は現在、これを地球規模の「一帯一路」インフラ投資プログラムのスローガンとして採用している)。
   15 世紀には、海洋輸送の革新により大航海時代が到来し、その後、今日の国境を形作るヨーロッパの植民地化の時代が続いてきた。19 世紀と 20 世紀には、蒸気船と電信によりそのプロセスが加速し、産業化により農業経済が変革した。現在、情報革命によりサービス指向の経済が変革している。

   インターネットの普及は今世紀の初めに始まり、今では世界中の何十億もの人々が、半世紀前なら大きな建物 1 棟分を占めていたコンピューターをポケットに入れて持ち歩いている。AI が進歩するにつれ、グローバル コミュニケーションの範囲、速度、量は飛躍的に増大する。
   世界大戦により経済のグローバル化は逆転し、保護主義政策によりそのペースが遅くなり、国際機関は現在進行中の多くの変化に追いついて来れなかった。しかし、テクノロジーがある限り、グローバル化は続くであろう。ただし、有益なものではないかも知れない。

   以上がナイ教授の論旨の概要だが、かなり控え目の論調である。
   ポピュリスト旋風の台頭で、貿易と移民に対する反グローバリスト運動が勢いを増し、その延長線上で、結果的に、トランプが当選した。と言う事であろうか。
   トランプの「MAGA」、アメリカファーストなどは、反グローバリズムの典型であろうが、保護貿易主義を取りながら、世界中から積極的に投資だけは呼び込んで、国内産業を強化しようとしている。しかし、国際間の投資も国際貿易も一体であり、国際経済の裏表であるから、一方だけ有効に機能するはずがないので、いずれ破綻する。
   保護貿易は、途上国が、揺籃状態の自国企業を発展段階まで保護する常套手段ではあったが、現代のアメリカのように、疲弊して競争力をなくした賞味期限切れの企業を、関税や保護政策を策して再生を図るなど不可能であり愚の骨頂である。
   反グローバリゼーションは、自由貿易の退潮を招いて国際経済を縮小させるのみならず、国際的な自由貿易からの離脱は、アメリカのイノベーション能力を棄損するなど国際競争力を弱体化させるのは必定であり、結局、アメリカの黄昏を早めるだけであろう。
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