欧米人に典型的なWEIRD 以下の頭文字を綴ったもの
((W:Western(西洋の)/ E:Educated(教育水準の高い)/ I: Industrialized(工業化された)/R:Rich(裕福な)/ D:Democratic(民主主義の)))
この普通ではない( Weird奇妙な)と著者が特定するWEIRDの心理を、経済的繁栄、民主制、個人主義の起源 を追求しながら浮き彫りにしてゆく、上下巻合わせて900ページに及ぶ大冊ながら、興味深い本である。
さて、本筋からちょっと離れるが、私が、まず興味深かったのは、キリスト教会が行ってきた信者たちへの教化と権力集中の歴史である。
歴史的にWEIRDの心理を形成してゆく過程において、宗教、この場合は、キリスト教の影響が大きく影響していることは自明の理であるが、その展開が興味深いのである。
16世紀にレオ10世が財政難を切り抜けるために、カトリック教会が発行した罪の償いを軽減する証明書贖宥状(免罪符)などその鬩ぎあいの典型だが、マルティン・ルターが『95ヶ条の論題』で 批判して宗教革命が起こった。
まず、キリスト教会が大成功を収めるに至った最大の要因は、婚姻や家族に関する禁止、指示命令、優先事項を定めた極端な政策パッケージにある。と言う指摘。
キリスト教の聖典には(あったとしても)希薄な根拠しかないにも拘わらず、これらの政策は次第に儀式の覆いに包まれてゆき、説得,陶片追放、超自然罰の脅威、世俗的処罰といったあの手この手を組み合わせて、可能な限りあらゆる地域に普及していった。この教会の婚姻・家族政策は、緊密な親族ベース制度や部族的忠誠心を切り崩すことによって、個人を徐々に自らの氏族や家の責任、義務、恩恵から引き剥がし、その結果、人々が教会に身を捧げる機会が増え、教会自身の拡大を促進した。
教会は、一夫多妻婚、取り決めによる結婚、血族間や姻族間でのあらゆる婚姻を禁ずることによって、社会技術でもあり、家父長権限の源泉でもあった婚姻の効力を劇的に削いだ。近親婚禁止のむいとこ婚禁止に至っては婚姻相手が居なくなるなど、この婚姻をめぐる禁忌事項や処罰が、国王や君主に至るまで情け容赦なく繰返されて、破門や財や資産が収奪され、最終的にヨーロッパ諸部族を消滅させた。と言う。
また、興味深いのは、富める者は、教会を通じてその富を貧民に施すことによって、本当に天国へ行けるという説を広めて、それによって教会の金庫室を創設した。慈善の教えに加えて、相続権や所有権の変更を加えることで、教会の成長拡大が促され、その懐も潤った。慈善寄付の広まりは、高額の贈与がもたらす説得力によって、新たな信者を引き付けるとともに、既存の信者の信仰心を深める働きもし、同時に、こうした遺贈によって、激流のごとく収入が、教会に流れ込んできた。
教会は、死や相続や来世を利用して、その財力を増して権威を築き続けてきた。と言うのである。
何も、キリスト教に限った話ではなかろうが、教会と世俗社会との鬩ぎあいのような感じがして興味深かった。