先月の韓国出張は、慶尚北道の安東[アンドン]という、知る人ぞ知る山間部の地方都市(もっぱら伝統文化遺産が濃厚に残る場所として知られているはず)に行くことになりまして、ここはソウルからは約250km離れていますので(まぁノリとしては、在来線や高速道路で会津若松や松本経由長野への旅をするような感じでしょうか)、東京からは結構時間がかかります。そこで、まず7月1日の夜にソウル到着後、翌朝ソウル市街の東にある清涼里[チョンニャンニ]から、8時発の釜田[プジョン。釜山市街の北部]行で出発することにしました。
清涼里を発車した列車は、途中忘憂[マンウ]と徳沼[ドクソ]で貨物シーンを見ながら、漢江沿いの山岳部へと分け入って行きます。しかし……やけに風景が湿っぽいと思ったら、楊平[ヤンピョン]付近で超ゲリラ豪雨に遭遇……。屋根に降った雨(バケツどころかプールをひっくり返したような……)が、窓を滝のように流れ落ちて行くのを車内から眺めるという凄まじい光景を目にしたのでした……。「こりゃあ楊平で足止めか……」と覚悟したのですが、幸いにして豪雨は弱まり出発進行~。当面の電鉄化計画の終点である龍門[ヨンムン]を経て、やがて江原道第二の都市・原州[ウォンジュ]に到着しました。
ここからが最初のお楽しみ・雉獄山[チアクサン]越え。ELやDL (かつてはSL) が長大編成を牽引して山越えをするため、ループ線があったりするのです♪ 重厚な峰々を眺めながら峠越えをしますと、今度は忠清北道に入りまして、夏の日射しが照りつけるのどかな田園風景に気分も爽快~♪ やがて複線電化のセメント輸送路線・忠北線が合流しますと、韓国鉄道貨物輸送の一大拠点・堤川[チェチョン]に到着! まずは下車時に、今まで乗ってきた列車のドイツ風罐をパチリ!
しばらく堤川駅で撮り鉄三昧に浸った後、今後は午後1時過ぎに発車する安東行(清涼里発)に乗って、いよいよ目的地・安東を目指します。この列車には客車セマウルを格下げした特室(グリーン車)が連結されておりまして、特室料金は日本のグリーン料金とは比較にならないほど安いので自ずとチョイス♪ 最高にデラックスなシートに座りながら、駅ごとに展開するセメント工場とセメント貨車の大群に目を見張ったのでした♪ とくに、嶋潭[ドタム]駅には複数の工場があって壮観の極み……。
しかし、そんなセメント三昧の風景も、トンネルを抜けると一変! 南漢江を渡る鉄橋からの眺めは夢のような山水画の風景……。中央線沿線きっての景勝地・丹陽[タニャン]の絶景です。そういえば、19世紀末の英国の探検家・イザベラ=バード女史が『朝鮮紀行』という記録を残しておりまして、丹陽の風景「だけ」は絶賛していたのを思い出しました……(他の話題はここでは書けないダークさ ^^;)。
そんなこんなで途中またもループ線で峠越えをしますと、列車は慶尚北道に入り、慶北線・嶺東線が合流するジャンクション・栄州[ヨンジュ]に到着~。電化区間はここまでですので、残り約30分の道程を前にELからDLにつなぎ代えます。停車時間のついでにヤードを眺めたところ、貴重な寝台車が朽ちて行く姿が……(「続きを読む」をご覧ください)。
栄州からはいよいよラストスパート! 時折古い民家が見られる山村のあいだをクネクネと進みますと、やがて安東ダムのダム湖が見えてきまして、午後3時前、ついに目的地の安東に到着!! 本当に素晴らしい旅でした……。しかし清涼里から乗り通すと約4時間ということで、ソウル=安東間の所要3時間・3列シート・10~20分間隔運行の優等高速バスに対して全然勝負にならないのも事実(運賃もほぼ同じ)。というわけで、中央線の挽回は複線新線化と「ビチュロ」の登場によるしかないのでありますが、それは同時に古き良き客車列車の旅の機会が消えることを意味しているわけで、複雑な気分ですね……。
栄州駅の片隅に放置されているムグンファ用新型寝台車10210形……。計4~5両見かけましたので、製造された車両のほとんど(5両ならすべて)が栄州に集められて朽ち果てつつあることになります (-_-;)。2001年製造で、実働数年、放置数年……ああ勿体ない (-_-;;)。
安東の名物料理「ホッチェサパプ」。出発前、韓国人に「安東に行ったら必ずこれを食え」と言われたこの料理、チェサとは漢字で書くと「祭祀」と書きますので、要は精進料理です。焼肉や鍋のようなゴテゴテ・ワールドとは対極にあり、和食に近いですかね~。
国鉄の安東駅は割と新しく (?) 小綺麗な駅舎ですが、そのすぐそばにある市外バスターミナルは如何にも1950~60年代的ノリが炸裂している感動的な建物! しかも「ポストミノル (バスターミナル)」」ではなく「安東停留場」と大書してあるのが泣けてきます (*^^*)。
バスターミナルの内部はご覧の通り! 切符売り場、待合いベンチとテレビ、売店、立ち食いうどん屋……といった諸々が、何とも味わい深い多角形の構造の中に納まっています。そして裏のトイレに行く途中には、売る気があるのかないのかよく分からない土産物屋とか……(^^;
しかし残念ながら、さすがにこの建物も老朽化しているためか、現在高速道路のインターチェンジの脇に新バスターミナルを建設しているのを目撃してしまいました (T_T)。たぶん今冬か来年には完成?……というわけで、この激しくシブいバスターミナルをご覧になりたい方はお早めにどうぞ……。