地味鉄庵

鉄道趣味の果てしなく深い森の中にひっそりと (?) 佇む庵のようなブログです。

さよなら、三峰口の秩父100系

2019-05-08 23:21:00 | 保存・園内・特殊車両


 かつて秩父の山峡に釣掛の高らかなる唸りを響かせ、車内に一歩入れば麗しのニス塗りが魅惑の限りを尽くしていた、戦後の秩父鉄道の主力車種・秩父100系 (デハ100・クハニ20・クハユ30・クハ60) は、まず小田急1800形あらため800系の流入で数を減らし、さらに今から31年前、国鉄101系あらため1000系の流入によって全車廃車となりました。幸いにしてその後、デハ107とクハニ29は三峰口の鉄道車両公園にて保存され、古き良き時代の秩父鉄道の雰囲気を伝える生き証人となって来ました。
 ところが最近は再塗装もなかなか行われずに、とりわけ屋根と木製の窓枠が老朽化の極みに耐えかねて、全体として荒れるに任せ、ついにはSL終着駅としての三峰口駅の雰囲気そのものを損ねることになったことから、このたび鉄道車両公園のリニューアルと称して撤去・解体されることとなりました……。秩父鉄道の告知では、具体的にどの車両を解体するかについて触れられていませんが、展示車両の中で最も状態が悪化しているのはこの2両ですので、解体はまず避けられないものと思われます……。



 解体作業と鉄道公園再整備は5月から始まり7月中には終わるとのことで、連休を最後にいったん鉄道公園は閉鎖となるのだろうと思われましたが、少なくとも昨日(7日)に平日休みを使って訪れた際にはまだ作業は始まっておらず、クハニ20の手前ロープまでは近づくことが出来ました。そこで「連休も終わって車両公園全体が立入禁止となっているかも知れないものの、少なくともまだ解体準備作業中で、解体までは始まっていないだろう。せめて最後に一目……」という思いで三峰口を再訪した私は、連休明けということもあって他に誰もいない中、すっかり舞い上がって激写しまくり、100系目当てで秩父鉄道を訪れた1980年代の中坊・高坊の頃を思い出すと同時に、解体自体は本当に残念だと思うものの、逆に「よくぞ雨晒しの中、今まで残っていたものだ……」と労いたい気持ちになったのでした。
 あの琴電ですら、様々な事情により産業遺産級超古参電車の維持を断念せざるを得なくなった以上、秩父鉄道が既に荒廃の極みに達した100系電車の美しい状態を回復するのを断念するに至ったのは、ある意味でやむを得ないのかも知れません。とはいえ、こうしてまた一つ、時代の生き証人と言える貴重な半鋼製釣掛式高速電車の本物が失われてしまうのも事実です。このような産業遺産の持続的な維持管理と活用のために、あくまで一民間企業の自助努力に依存するのみではない、もっと良い方法はなかったのか……とも思うのですが、覆水は盆に返らず。今後このような保存車両の解体は、あちこちで進んで行くことでしょう。そうなる前に撮るものを撮っておかなければならないのは、たとえ元号が改まっても決して変わることのない事柄なのかも知れません。

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