ターナー、カンスタブルについて書いてみると、ゲインズバラThomas Gainsborough(1727-88)についても触れないわけにはいかない。風景・肖像画家としては、ゲインズバラの方が時代の点でも50年近く先に生まれている。ゲインズバラもイギリス人の大変好む画家である。
この画家の生地は、かつて仕事で訪れたエセックス大学(コルチェスター)の近くでもあり、「カンスタブル・カントリー」ともきわめて近接しているので、何度か訪れた思い出の地でもある。イースト・アングリアののどかな田園地帯を楽しみながら、ドライブしていった。
ゲインズバラの生まれた場所は、カンスタブルが生まれた場所と大変近いサフォークのサドベリーである。ここに「ゲインズバラの家」Gainsborough's House として生家が保存されている。今は画家の作品や制作状況を保存する画廊・美術館になっている。版画などを制作する教育用の工房なども併設されている。イギリスの大画家の生家で、今日公開されているのはゲインズバラの家だけらしい。サドベリーのマーケット・ヒルには、この町が生んだ著名画家として、ゲインズバラがパレットを持った銅像が建っている。
画家の実家は服地商であった。当時としてはかなり裕福な家であったと思われる。現在の家は父親がジョージアン・ファサードをつけたりしているが、500年以上経ったイギリス家屋の伝統を受け継いでいる。庭には桑の木が多数植えられており、トマスの生まれた頃には、すでにかなり大きくなっていたと思われる。
母親が大変教養深い女性であり、子供の画才を認めて幼いトマスに花の絵などを教えていた。トマスも画家として身を立てることを考えて、1740年、13歳の時にロンドンに出て、何人かの画家の工房で修業した。フランスの版画家グラブロにも師事した。ゲインズバラの作品には、銅版画も含まれている。
ゲインズバラは、とりわけ肖像画と風景画に優れた才能を発揮した。1768年にはロイヤル・アカデミーの創立会員の一人となっている。この画家についても、色々と興味深い事実を知ったが、ここでは、「ゲインズバラの家」を紹介するポスターとなっている少女の肖像(画像イメージ)の背景について書いてみたい。
実はこの美しい少女の肖像画は、元は少女(姉と思われる)と少年(弟)が同じ画面に描かれていた。なんらかの理由で二つの作品に切り離された。1740年代、ゲインスバラが10代の修業時代の作品である。描かれているのは、姉と弟であると思われている。しかし、それが誰であったかは分かっていない。少女の肖像画が発見された6年ほど前から、少年の肖像画は「ゲインズバラの家」にあったことが知られている。そして、今は最初に画家が描いたように並べて展示されている。
ゲインズバラの「姉と弟」はこうして再会することになった。ミステリーは、なぜこれが切り離されたのだろうかということある。大変美しい作品であり、さらに探索してみたい気になった。