秋晴れにはほど遠いが、大分過ごしやすくなった日の午後、竹橋の東京国立近代美術館へ出かける。『モダン・パラダイス』と題する特別展を見ようと思った。大原美術館と東京国立美術館のいわば目玉作品の共同出展といってよい。
『モダン・パラダイス』の主題の下で、油彩、日本画、写真、ブロンズなどを含む作品は、5つのサブ・テーマに分類されて、展示されている:
I 光あれ
II まさぐる手・もだえる空間
III 心のかたち
IV 夢かうつつか
V 楽園へ
「東西名画の饗宴」と題されているが、ややオーバーな表現ではある。そして、メイン・テーマとサブ・テーマの関係も、分かりにくい。テーマにこだわると見る方が混乱してしまう。なぜこの作品を、ここに置くのかという思いが先にきてしまう。作品の印象はかなり受け取る側の状況で左右されるからだ。「モダン・ケイオス」ではないかと揶揄したくなる。
途中からテーマ説明を忘れて、虚心坦懐に鑑賞することにした。テーマと作品選択がうまくフィットせず、全体としての満足感はあまり高くない。
それでも、菱田春草「四季山水」、安井曽太郎「奥入瀬の渓流」、ジョヴァンニ・セガンティーニ「アルプスの真昼」、ジョルジュ・ルオー「道化師」、中村彝 「エロシェンコ氏の肖像」、岸田劉生「麗子肖像(麗子五歳之像)、富岡鉄斎「蓬莱仙境図」など、久しぶりに再会できて懐かしかった作品もあった。藤田嗣治「血戦ガタルカナル」まで出品されていた。かなりのエネルギーが傾注されたと思われる凄絶きわまる作品である。この制作をした時の藤田の心情はどんなものだったのだろうか。
常設展の方へもまわったので、思いがけずも見ることになった鶴田吾郎の戦争画「神兵パレンバンに降下す」などとも重なり、「モダン・パラダイス」のイメージは、ついに浮かばずじまいだった。