詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

斎藤茂吉『万葉秀歌』(2)

2022-10-22 10:06:46 | 斎藤茂吉・万葉秀歌

斎藤茂吉『万葉秀歌』(2)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)

熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今はこぎ出でな         額田王

 「こぐ」は「傍」の「人偏」が「木偏」。私のワープロでは出てこないので、ひらがなにした。(今後も、表記できない文字はひらがなで代用。原文は、万葉集か茂吉の「万葉秀歌」で確認してください。)
 この歌は、助詞の動きがとても論理的。五・七・五・七・七のリズムごとに論理(意味?)が完結しながら動いていく。その時系列が自然。その自然を「今は」と強調する。命令が端的につたわる。命令というよりも、いっしょに動いていく感じがする。「今こそ」という感じなのだが、「こそ」という強調がないのが、逆に強調になっている。
 万葉の歌には、こういう調べが多いと思う。つまり、強調なのに、強調のことばがない。その、よぶんなことばに頼らない分だけ、「声」そのものが強くなるのだと思う。
 「にぎたつ」というのは、たまたま、その土地の場所の名前なのだろうけれど、濁音があるところが不思議に興奮を駆り立てる。こことは違う場所という感じがする。結句の「こぎ出でな」の濁音とも呼応して、こころが騒ぎ立てられる。

紀の国の山越えて行け吾が背子がい立せたりけむ厳橿がもと         額田王
 
 「厳橿がもと」という音がとても強い。茂吉は「吾が背子がい立せたりこむ厳橿がもと」に執着がある、と書いている。くりかえされる「が」の音が印象的だし、その「が」から「もと」の「も」への響きが、私は好きである。この場合「が」は絶対に鼻濁音でなければならない、と私は感じている。鼻濁音だと「が」と「も」の連続感がなめらかなのである。茂吉や額田王が鼻濁音で発音していたかどうかは知らないが。

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斎藤茂吉『万葉秀歌』(1)

2022-10-21 21:44:58 | 斎藤茂吉・万葉秀歌

 

 

斎藤茂吉『万葉秀歌』(1)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)

 探しても探しても見つからなかった本がふいに出てきた。斎藤茂吉『万葉秀歌』。万葉集を全部読むのはたいへんだが、この本なら、なんとか読み通せる。ただ、思いついたことを書いていく。私は和歌(短歌)を読み続けているわけではないし、もちろん研究家でもない。だから、私の書くことは、ほとんど「でたらめ」なのだが、そうであっても私が思っていることには違いない。

たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野          中皇命

 万葉の歌を読んだとき、いちばん驚くのは、「音」の響きあいである。特に有声音の響きが非常に気持ちがいい。声が解放される、喉が解放される感じがする。簡単に言い直すと、声に出して読みたくなる。簡単に言い直すと、声に出して読みたくなる。
 「馬並めて」は「うま・なめて」と読むようだが、「むま・なめて」と読みたい感じがする。前に「うち」という音があるから「うま」なんだろうけれど。昔(?)、「うま(馬)」を「むま」と表記したこともあるから、昔のひとは「う」と「む」の違いがあいまいだったのかもしれない。
 「草深野」の「くさ」も「KSA」ではなく「KUSA」と、はっきり「う」の母音を響かせていただろうなあと思う。
 「たまきはる宇智の大野」までの音は、いまの私は、何か所か母音をはっきり発音せずに読んでしまうが、昔のひとは、そう言うことはしなかっただろうなあ、とも思う。

秋の野のみ草苅り葺き宿れりし兎道の宮処の仮盧し思ほゆ          額田王

 この歌でも「な行」の響き、「の」の繰り返しがなめらかだが、それぞれの音に隠れている母音「あ」「い」と「お」の対比がいいなあ、と思う。濁音を濁っていて嫌いだというひともいるが、私は「母音」が響くので、豊かで好きである。「やど」「うぢ」は単独で取り出してみると、たしかにきれいな音とは言えないかもしれないけれど、歌全体のなかでは音の流れを「ゆったり」させる効果があると思う。

 こういう「強い音(力のこもった声)」というのは、現代の短歌にはないなあ、と思う。あるのかもしれないけれど、私は知らない。
 (いつまでつづけられるかわからないが、書いてみる。)


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