スティーブ・マックイーン監督「占領都市」(★★★★★)(2025年01月02日、キノシネマ天神、スクリーン2)
監督 スティーブ・マックイーン 原作・脚本 ビアンカ・スティグター 撮影 レナート・ヒレヘ ナレーション メラニー・ハイアムズ
これが映画か、と質問されたら、「映画ではないかもしれないが、映画にしたい」と私は答えると思う。役者は出てこない。カメラも、ふつうの映画のように演技をしない。演技することを拒んでいる。ナレーションも感情を刺戟しない。
映画の舞台はアムステルダム。かつてナチスが占領し、多くのユダヤ人を殺害し、またアウシュビッツへ強制移送した。そのナチス占領時代にユダヤ人が住んでいた場所(生活していた場所)が、いまどうなっているかを映し出す。名称がかわったところもあるが、そのままのところもある。なくなった施設もあるが、そのままのものもある。そして、そこに住んでいたユダヤ人はどういうひとだったかを、たんたんと語る。
印象的なことばがある。「消滅した(なくなった)」。英語で何といったか。字幕ではどうだったか。正確には覚えていないが、そういうことばがその場所、そこに住んでいたひとを紹介したあとに、繰り返される。
生きていたひとがいない。かつて書店だったところが書店ではなくなっている。しかし、それを思い出すことができる。思い出すだけではなく、そこから何ごとかを考えることができる。そして、それはただたんに「できる」ではなく、「しなければならない」ことである。思い出し、考えるとき、消滅したもの(なくなったもの)は、はっきりとそこに存在し続けることができる。それは消滅した(なくなった)のではなく、消滅「させられた」、無に「された」のである。そのことも思い出さ「なければならない」し、考えなければ「ならない」。
椅子に座ってみつめているだけでは、何も起きない。スクリーンをみつめ、そこに映し出されていないひと、もの、ことを、思い出し、考えるとき、それは「映画になる」。私の知らないひとが、動き始める。「映っていない何か」が見えてくる、そういう映画である。
その「新しく見えてきた何か」が、あまりに多くて、何を見たか、語ることがむずかしい。いままで見ようとして見えなかったもの、それを見せてくれるのが映画だとすれば、これこそ、まさに映画である。
それにしても不思議だ。
ナチスがアムステルダムを占領していたときから、まだ百年もたっていない。それなのに、この映画を見始めた瞬間には、ナチスが占領していたことがなかったかのようにさえ見えてしまう。この「錯覚」を、スティーブ・マックイーン監督は、しずかに、しかししっかりと揺さぶる。そして、最後には、アムステルダムの街が、一度も見たことがないものの姿であらわれてくる。「歴史」に目を向けさせる。「歴史」は、未来を考えるとき、より正確な形であらわれてくる。ひとの人生が百年と仮定して、その百年は「過去の百年」を見つめなおしつづけることでしか築いていくことができない。
ラスト近くのシーン。路面電車(トラムというのだろうか)が走っていく。運転席から見える「前方」が映し出される。反転して、後ろ(進んできた方)が映し出される。横(左右)が映し出される。どちらかだけが電車の進んでいる方向を教えるわけではない。すべてが絡み合っている。「過去」は捨て去ることはできない。「いま」の「周辺」も捨て去ることはできない。「未来」へ進むためには、すべてを正確に認識ないといけない。そうしないと「脱線」してしまう。
(まだ肉体の中に「興奮」が残っている。興奮が音を立てて騒いでいる。もう一度、ゆっくり感想を書き直さないといけない、とも思う。)
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、googlemeetを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(googlemeetかskype使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
1回30分、1000円。(長い詩の場合は60分まで延長、2000円)
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com