岩佐なを「樹海」ほか(「生き事」14、2019年2019年秋発行)
詩を読む(楽しむ)のには、何かリズムのようなものがある。リズムがあわないと、ぜんぜんおもしろくない。--という言い方は、たぶん抽象的すぎるが。たとえばモーツァルトの曲がある。繰り返し、繰り返し、繰り返す。これは、私が元気なときは気持ちがいいが、疲れているときなどげんなりしてしまう。という比喩もまた抽象的だが、そういう感じ。
「生き事」という同人誌は、昔は薄かった。ぱっと読めた。いまは分厚い。その厚さに、私はちょっとひるんでしまう。昔の三人(?)でやっていたときは読みやすかったのになあ。
その巻頭に、岩佐なを「樹海」がある。昔は大嫌いだった。そのあと大好きになった。それから、しばらく読むのがつらくなった。最近、また楽しくなった。岩佐がかわったのか、私がかわったのか、わからない。たまたまの「リズム」かもしれない。
「うら若い」の「うら」という音がやわらかい。そのあとの「包む」という動詞につながっていく。「意味」を超えて。こういうことばの動きは好きだなあ。ぞくっとして、気持ち悪いのだけれど、この気持ち悪さが快感だと、いつのころからかわかるようになった。間にはさまれた「かすれた」という切断感(?)が、「うら」と「包む」をより強く結びつけるところなんかも。
「とり返しのつかいないことになるからね」「あちらだったりさ」の「ね」と「さ」のずるさ。感情の押しつけ。「意味」ではなくて、あくまで感情という、ずるさ。「うまいなあ」ということばが、ふっと私の肉体の中からもれてくる。
まあ、昼寝か何かのときに見た夢(樹海の夢、自殺者の夢)を書いているのだけれど、「読ませている」のは「意味」ではなく「語り口」だね。「意味」なんて、読者がすでにもっているから、わざわざ詩人がつけくわえることはない。「語り口」で揺さぶれば、勝手に動いていくさ、ということなのだろう。(「ほ」と「さ」を真似てつかってみました。でも、ぜんぜん似ていない。私は物真似がへたくそだ。)
ああ、いいなあ。「樹海」と「路地」が重なる。「夢」が「現実」になって、「おはよう」という九官鳥の声で起こされる。「ぬけられません」「ぬけられます」は、路地によって(暮らしによって)共有された「声」であり「肉体」だ。ここに、何とも言えない時間の健康さがある。
先に「ずるい」と書いた「ね」とか「さ」も、そうか「時間」だったのか、とここで読み返すのである。
廿楽順治の「ゆうれい飴」にもすこし似たところがある。(原文は尻揃え)
(舐められたもんだな)は実際に口に出されたことばか、こころのなかで言ったことばか。口に出している方がおもしろい。「な」にもれてしまう「肉声」がある。
安倍恭久の俳句では、
が、さっぱりしていて気持ち良かった。遠藤という相撲取りは知らないのだけれど。
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詩を読む(楽しむ)のには、何かリズムのようなものがある。リズムがあわないと、ぜんぜんおもしろくない。--という言い方は、たぶん抽象的すぎるが。たとえばモーツァルトの曲がある。繰り返し、繰り返し、繰り返す。これは、私が元気なときは気持ちがいいが、疲れているときなどげんなりしてしまう。という比喩もまた抽象的だが、そういう感じ。
「生き事」という同人誌は、昔は薄かった。ぱっと読めた。いまは分厚い。その厚さに、私はちょっとひるんでしまう。昔の三人(?)でやっていたときは読みやすかったのになあ。
その巻頭に、岩佐なを「樹海」がある。昔は大嫌いだった。そのあと大好きになった。それから、しばらく読むのがつらくなった。最近、また楽しくなった。岩佐がかわったのか、私がかわったのか、わからない。たまたまの「リズム」かもしれない。
うたたねのなかにも
樹海はひろがっていて
深く遠くへ分け入れば
なつかしいひとたちが
樹のかげからでたりかくれたり
よくきたね、なんてうら若い記憶の兄が
かすれた語り口で包みにくる
応えてはいけない
とり返しのつかいないことになるからね
目ざめたとき
あちらだったりさ
「うら若い」の「うら」という音がやわらかい。そのあとの「包む」という動詞につながっていく。「意味」を超えて。こういうことばの動きは好きだなあ。ぞくっとして、気持ち悪いのだけれど、この気持ち悪さが快感だと、いつのころからかわかるようになった。間にはさまれた「かすれた」という切断感(?)が、「うら」と「包む」をより強く結びつけるところなんかも。
「とり返しのつかいないことになるからね」「あちらだったりさ」の「ね」と「さ」のずるさ。感情の押しつけ。「意味」ではなくて、あくまで感情という、ずるさ。「うまいなあ」ということばが、ふっと私の肉体の中からもれてくる。
まあ、昼寝か何かのときに見た夢(樹海の夢、自殺者の夢)を書いているのだけれど、「読ませている」のは「意味」ではなく「語り口」だね。「意味」なんて、読者がすでにもっているから、わざわざ詩人がつけくわえることはない。「語り口」で揺さぶれば、勝手に動いていくさ、ということなのだろう。(「ほ」と「さ」を真似てつかってみました。でも、ぜんぜん似ていない。私は物真似がへたくそだ。)
うそつききつつきに指摘され
青くさい心身に
深手を負った
若気の至り
の至ったところはどこ
ぬけられません
ぬけられます
ぬけますか
ああ、いいなあ。「樹海」と「路地」が重なる。「夢」が「現実」になって、「おはよう」という九官鳥の声で起こされる。「ぬけられません」「ぬけられます」は、路地によって(暮らしによって)共有された「声」であり「肉体」だ。ここに、何とも言えない時間の健康さがある。
先に「ずるい」と書いた「ね」とか「さ」も、そうか「時間」だったのか、とここで読み返すのである。
廿楽順治の「ゆうれい飴」にもすこし似たところがある。(原文は尻揃え)
戦争で
こどもらはカっと眼をひらいているのに
昨日から
どうしても学校へいかないという
(舐められたもんだな)
(舐められたもんだな)は実際に口に出されたことばか、こころのなかで言ったことばか。口に出している方がおもしろい。「な」にもれてしまう「肉声」がある。
安倍恭久の俳句では、
夏場所の遠藤けふは寄切つた
が、さっぱりしていて気持ち良かった。遠藤という相撲取りは知らないのだけれど。
*
評論『池澤夏樹訳「カヴァフィス全詩」を読む』を一冊にまとめました。314ページ、2500円。(送料別)
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「詩はどこにあるか」2019年4-5月の詩の批評を一冊にまとめました。
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(バックナンバーについては、谷内までお問い合わせください。)
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
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(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com