詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

外交とは何か(米・ウクライナ協議決裂について)

2025-03-02 22:48:14 | 考える日記

 私は、トランプとゼレンスキーの「協議」をテレビで見たわけではない。テレビで見ても、英語がわかるわけではないから、理解できなかったと思うが、読売新聞の報道(2025年03月02日朝刊、14版、西部版)で読む限り、ゼレンスキーは「外交」というものをまったく知らない。
 私は人間関係を読むのが苦手で、「外交」には向いていない人間だが、そういう私から見ても、ゼレンスキーは馬鹿だなあ、と思う。
 こんな会話がある。会話の順序として、前後するのだが、協議の途中でのやりとり。

バンス あなたは一度でも「ありがとう」と言ったか。
ゼレンスキー 何度も。
バンス 違う。この会談で言ったか。
ゼレンスキー 今日も言った。

 協議は記者団のいる前で行われている。そうした場合、ゼレンスキーが、何度「ありがとう」と伝えていたとしても、もう一度、協議の前に、記者団のいる前で「ありがとう」と言って、そのことばを「記録」させることが重要なのである。
 外交とは、まず、ことばなのだ。
 政治ではないが、簡単な例をひとつ。母の日、父の日。こどもが「おかあさん(おとうさん)ありがとう」と言う。いつも言っているかもしれないが、その日も言う。頭のいい子どもは「いつも感謝している。両親を愛している。だから言わなくてもいい」と思いがちだが、違うのだ。「ありがとう。愛している」ということが、母や父を喜ばせる。母の日、父の日に「あらためて」言うことが必要なのだ。
 外交とは、それに似ている。わかっていることを、「あらためて」ことばにする。
 ゼレンスキーが、「トランプさん、ありがとう」のような挨拶で協議をはじめれば、この協議は全然違ったものになっていただろう。そういう簡単なことが、ゼレンスキーにはできなかった。つまり、馬鹿である。
 なぜ、こんな馬鹿な失態をしたのか。たぶん、ゼレンスキーは「自分は偉大な大統領である。みんなが自分を支援して当たり前だ」と思い込んでいる。つまりバンスがもとめていることが理解できずに、「ありがとう」と言わなくてもいい人間だと思い込んでいるだ。三年間のヨーロッパや日本の支援が、そう思い込ませたのかもしれない。

トランプ あなたは今、非常に悪い状況にある。切ることのできるカード(切り札)持っていない。
ゼレンスキー 私はカードで遊んでいるわけではない。(略)私は戦時下の大統領だ。

 トランプの「カード」の比喩が、こういう場合に適切かどうか問うてもはじまらない。比喩に対して、比喩で応答しても意味はない。泥沼にはまるだけだ。さらに悪いのは、「私は戦時下の大統領だ」と見栄を張ったところだ。
 そんなことは、トランプに限らず、誰もが知っている。
 戦時下の大統領であり、ロシアに比べると、軍事力が格段に落ちることは誰もが知っている。この「事実」をどう伝えるか。「私は戦時下の大統領だ」、だから「アメリカが私を支援するのは当然のことなのだ、アメリカには支援する義務があるのだ」とアメリカに責任を押しつけるような態度をとってはいけないのだ。「どうか助けてください(支援してください)。支援を継続していただくために、私は(ウクライナは)何をすればいいのでしょうか」と、「下手」にでないとだめなのだ。
 そんな屈辱的なことはしたくない、とゼレンスキーは思っているのかもしれないが、「あがとうございます、どうぞ、よろしくお願いします」というのは「ことば」にすぎない。そう思っていなくても、そう言って「実」を引き出すのが「外交」だろう。
 世界中が見守っているなかで、ぺこぺこするのはみっともなくても、その結果として、ウクライナに「平和」が戻るなら(ウクライナの国民が死なないですむなら)、それをやってみせるのが、「外交で勝つ」ということだろう。ゼレンスキーに、その「覚悟」のようなものがなかった、ということだ。

 直前まで「合意する」ことになっていた「鉱物協定」の署名もなくなった。
 鉱物協定が結ばれれば、アメリカは、今後ウクライナに、経済面で深く関与していくことになる。ウクライナにアメリカの企業が入り込むことになる。そうすると、必然として、アメリカはウクライナを「防衛」しなければなくなる。バイデンがウクライナに肩入れしたのも、彼の息子だか、親族だか知らないが、ウクライナに関与していたからだろう。トランプは、バイデンよりももっと深くウクライナに関与しようと提案したのだ。それは、つまるところ「安全保障」である。ロシアがウクライナに、さらに侵攻することがあれば、アメリカはアメリカの企業(の利益)を守るために、さらに積極的に関与すると間接的に言っているのだ。
 こういうことは、もちろん「ことば」にしない。「外交」だから、わざわざ「ロシアが侵攻してきたらアメリカが対抗する」という「文言」を残すはずがない。それでは第三次世界大戦がはじまってしまう。
 それなのに、ゼレンスキーは

戦争を止めたい。しかし、「(安全の)保証」とともにと言っている。

 と、「安全保証」を「言語化」することを求めている。つまり、「裏交渉」だけでは不安だというのだが、これじゃあねえ、トランプは怒る。「外交」の意味がない。「外交」とは、基本的に「裏交渉」である。
 こんなことは、歴史的な交渉の「裏の資料」が、ずーっとあとになってしか公開されないことを見るだけでもわかる。「現実」を変更できないところまで作り上げてから、「秘密(裏交渉)」を明らかにするのが「外交」である。「表交渉の文言」でそれぞれの国民に向けて説明する。いろいろな「声明方法」を検討して「外交文章」の「文言」はすりあわされる。そして、その「すりあわせ」の裏側には、膨大な「裏交渉」がある。

 ウクライナで起きていることには胸が痛むし、ウクライナからロシアが撤退する以外に、ほんとうの平和はやってこないということはわかっている。トランプの「強欲主義」には絶対に与することはできない。しかし、それは私が、当事者ではないからとることができる、ちょっとずるい発言である。
 ヨーロッパのウクライナ支援は、今後、形を変えていくと思う。ウクライナを支援する、しかし、ウクライナを支援することで、戦争が自分の国にまで及んできては困る、という姿勢が少しずつ露顕してくるのではないだろうか。
 トランプに譲歩することで、「そんなにまでトランプに譲歩する必要はない。ウクライナは、ロシアだけではなくアメリカからも侵略されようとしている」という認識を引き出すような「外交手腕」を発揮しなければ、だれもゼレンスキーを支援しなくなるだろう。

 「外交」は「ほんとう」を言うところではなく、「うそ」を平気で言って「実」をとることなのだと思う。それができないゼレンスキーは、やっぱり馬鹿だと思う。


 
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1 コメント

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外交とは何か(米ウク協議の決裂) (大井川賢治)
2025-03-03 02:53:25
谷内さんの感想に2万パーセント同感です。トランプはヤクザの親分です。メンツが大事です。ウクが再交渉を望むなら、ゼレさんは下野し、新たな、今度は揉み手の上手い大統領を担ぎ出し、ごろにゃんとすり寄っていくしか、ウクには道がないのではと愚考します。松の廊下の、浅野内匠頭に比べれば、ゼレさんの忍耐の足りなさにはがっかりです。
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