ブラディ・コーベット監督「ブルータリスト」(★★★★★)(2025年02月21日、キノシネマ天神、スクリーン3)
監督 ブラディ・コーベット 出演 エイドリアン・ブロディ、ガイ・ピアース
映画のポスターを見た瞬間に、「あ、見たい」と思った。こういうことは、久しぶり。ポスターのどこがよかったか。スタイリッシュ。そのひとことにつきる。
昔、レイアウトの仕事をしていたとき、いちばん参考になったのが「建築雑誌」。なんともかっこいい。ゆらぎがない。さすがに「建築」である。強固でなければいけない。建築の「強固さ」が、そのままレイアウトの奥底に根付いている。
で、この映画。
最初のクレジットもかっこいいねえ。クレジットは、ふつう、縦に流れる。でも、この映画では、横によぎっていく。そうすると、なんというか「ゆらぎ」がない。目は文字を追いかけるのだけれど、ゆったりと眺めていることができる。不思議な安心感がある。足が地についている感じ。
しかし、安定だけでは、つまらないね。だから、画面は突然「不安定」な映像も見せる。はじめてみる「自由の女神」。立っていない。空からのぞいている。斜めだ。
これだね。
とても安定している、絶対に揺らがないはずなのに、揺らぐ。その「揺れ」をいちばん大きく揺らして見せるのが、セックスシーン。
妻が、骨粗鬆症の影響で、ベッドの中で突然苦しみだす。痛くてたまらない。その苦痛を救うために、エイドリアン・ブロディがドラッグを注射する。妻の痛みが消え、そこからセックスがはじまるのだが、このシーンで、私は思わず声を上げた。なんだ、このセックスシーンは。いろいろなセックスシーンを見たが、こういうのは初めてである。(この映画にはセックスシーンが、そのほかにも何回かあるが、セックスシーンの中では最後の、この妻とのシーンが、ほんとうにびっくりする。)
えっ、なぜなんだ、どうしてなんだ。
色がついていたかどうかわからないが、思い出せない。「絶対的なモノクロ」。光と影しか存在しない。そのどちらも透明で、複雑に交錯するのだが、複雑さを忘れる。肉体も、その光と影になってしまう。その光か影か、わからないものに「昇華」してしまう。でも、ただ美しいかというと、そうではないのである。かなしくて、そのかなしさのために、なんだか、胸がドキドキしてしまう。
もしかしたら、と思っていたら、やっぱりそうだった。
もう、それ以上は書かない。
「謎解き」は、その直後にわかるのだけれど、これはほんとうに、びっくりしたなあ。
セックスシーンのことばかり書きつづけてもしようがないので、ほかのことも書いておく。
「建築」がらみでいえば、書斎を改装するときの、エイドリアン・ブロディが床を掃除するシーンが、とてもいい。あ、ここからはじまるのか、と目を見開かされた。そのあとの、書棚の扉を一斉に開いて見せるシーンも、とても美しい。光と影が、ほんとうに鮮やかに動く。
セックスシーンでも書いたが、この映画は、光と影を動かして見せる。
「建築」は外面と同時に内面だが、この映画では、建物の内部で光と影を動かして見せる。内部にこそ、光と影がある、ということを明確に描いて見せる。
特徴的なのが、新しいビルの模型をつかって主人公が内部を説明するシーン。懐中電灯をつかって太陽光線の動きを再現する。天井の窓に懐中電灯がくる。そのとき、内部で何が起きている。これは、このときは見せない。ただ、それを見つめるガイ・ピアースを映し出している。身動きできずにいる。
いいねえ、このシーン。ガイ・ピアースは、「見た」のである。
その「見たもの」を手に入れるために、エイドリアン・ブロディ、ガイ・ピアースはイタリアへゆく。大理石が必要なのだ。打ちっぱなしのコンクリートの建築のなかに、おかれる一個の大理石。それはイタリアの彫刻の大理石というよりも、ギリシャ彫刻向けの大理石かもしれない。人間の肌のような大理石だ。
そして、ここでは大理石の切り出し場の山と、その内部(というか、切り出す過程でできた地下)が、もうひとつの光と影を生み出している。そこには、光は入ってこない。人間のつくりだした光が影を生み出している。
そういうところから運んできた大理石、その大理石に光と影が交錯すると、どうなるか。
まあ、これは、映画を見てください。美しい。そうなるのはわかっているけれど(書斎を改装したときから見当がつくけれど)、やっぱり息を飲む。私にはつくりだせない絶対的な美が、そこにあらわれる。予想していたことが、予想通りに起きると、たいていの場合は少しがっかりするものだが、この映画では違う。このシーンでは、なぜか、ほっと安心する。
そのほか、車(バス、列車)が走るシーンも、非常にいい。両側にひろがる風景と、どこまでもどこまでもつづいていきそうな道(線路)が「不吉」である。大地は揺れないのに、何かとんでもないことが起きる、と不安になる。不安にさせる映像である。
不安に耐える覚悟があるか、どうか。
覚悟があるなら、見てください。不安(恐怖とは違う)は嫌い、というひとは、耐えられないかもしれない。音楽も。
不安を克服して、強固が存在する、ということを学ぶ映画かもしれない。
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