監督 ドゥニ・ビルヌーブ 出演 ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード
予告編を見たときから「どうしようもなさ」を感じていたが、本編を見てほんとうにがっかりした。
「ブレードランナー」がつくられたとき、日本は景気がよかった。簡単に言うと輝いていた。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の勢いで世界を征服しそうだった。だから「未来都市」がアジアのごった煮で、環境破壊の影響で雨が降り続いているというのは、なんというか「不気味な未来」だった。
いまの日本を反映させろ、というのではない。
あれから時間が経っているなら、その「不気味な未来」はさらに不気味になって、観客をわくわくさせないといけないのに、まるでいまの日本を象徴するみたいに汚れきっている。
あ、日本が舞台ではなく、カリフォルニアが舞台か。
それならなおのこそ、「未来の未来」は想像を裏切る形で不気味になっていないといけないのに。
街の看板にあらわれる「SONY」はスポンサーだから、それはそれでいいとして。
あの、フォノグラム(?)の女はなんだ。
35年前はまだ「PLAYBOY」の時代だった。インターネットだって、接続したら必ず見るサイトというのが「PLAYBOY」だったその時代なら、まだ街角の巨大な女性のフォノグラムは「未来の現実」だった。
でも、いまは違うねえ。
女の描き方(人間の描き方)がすっかり違ってきているのに、映画では昔のまま。これでは「未来」へ時間が進んだというよりも「逆戻り」した感じ。「逆戻り」して、それが妙になつかしい(肉体の記憶を刺戟する)というのならいいけれど、こんな映像なつかしくもなんともないね。
うさんくさい、というのとも違う。
見ていて「肉体」を刺戟してくるものがない。
主人公の「お相手」の普通サイズのフォノグラムの女が、現実の女とシンクロしてセックスをするというのは、「設定」としておもしろいけれど、やっぱり古くさい。「未来社会」でも女は男の気を引こうとしている。女は男のセックスを満足させるために奉仕する、というのがげんなりする原因だなあ。
欲望のかたちが古くさいままで、「未来」とは縁遠いのだ。
主人公を女にしてしまえばよかったのだ。シャリーズ・セロンの「アトミック・ブロンド」みたいに。
どっちにしろ、アンドロイド。男の肉体とかわらないしアクションをしても不思議はないし、「頭脳」だってAIなんだから男女差はない。優劣はない。それに女の方が、「妊娠する」ということを通して、新作に描かれることと深く関係してくる。「妊娠させる→子供が生まれる」という視点ではなく、「妊娠する→子供を産む」という視点で見ると、違ったものが見えてくるはずである。アンドロイドが「肉体」として迫ってくる。
全体が古くさい男の視点をひきずったままなのが、この映画の大失敗の原因である。「子供を産む、子供が生まれる」という驚きではなく、「物を作りだす」という視点のまま全体が動いている。「物を作りだす」というのを「物を産み出す」ともいうけれど、女の感覚では「子供を産み出す」とは言わないだろう。その違いを、女が主人公なら、もっと繊細に描き出せたはずである。あるいはもっと生々しく描き出すことができたはずである。
古くさい男の視点をひきずっているから、「論理のクライマックス」である「自分が秘密の子供」かもしれないという謎解きが「感傷」に終わってしまう。まるで少女マンガみたいというと、少女マンガファンに怒られるだろうけれど。主人公が女なら、自分で釘の世代の母親になるという「世界創造」が可能になる。つまり、「物語」が「抒情詩」ではなく「神話」にまで高めることができる。
あ、謎解き、抒情と書いて、急に思い出したが、この映画にはナボコフが「引用」されているらしい。(クレジットにナボコフの文字が出てきた。)「本」が出てきて、そこにナボコフの文字があった。赤い表紙の本。タイトルはよく見えなかったが「ロリータ」か。ナボコフというと「青白い炎」を思い出すが、あの一篇の詩を他人が註釈するという方法からこの映画を見直すと、まあ、主人公が前作を註釈しながら別の世界へ入っていく(自分自身の世界へ入っていく)という構造を持っていると見ることもできるのだけれど。
そんなふうに見たって、やっぱり古くさい。
「未来の荒廃」が古くさいし、そこに描かれる女がなんとも古くさい。女が古くさいということは、男の方はもっと「どうしようもない」くらい古くさいということ。
映画のなかで、男の物の見方はどう変わったか、男の視点は映画をどう変えたか、変えなかったかという「資料」にはなっても、払ってみるに値する作品とはとても言えない。
(tjoy博多、スクリーン6、2017年10月29日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
予告編を見たときから「どうしようもなさ」を感じていたが、本編を見てほんとうにがっかりした。
「ブレードランナー」がつくられたとき、日本は景気がよかった。簡単に言うと輝いていた。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の勢いで世界を征服しそうだった。だから「未来都市」がアジアのごった煮で、環境破壊の影響で雨が降り続いているというのは、なんというか「不気味な未来」だった。
いまの日本を反映させろ、というのではない。
あれから時間が経っているなら、その「不気味な未来」はさらに不気味になって、観客をわくわくさせないといけないのに、まるでいまの日本を象徴するみたいに汚れきっている。
あ、日本が舞台ではなく、カリフォルニアが舞台か。
それならなおのこそ、「未来の未来」は想像を裏切る形で不気味になっていないといけないのに。
街の看板にあらわれる「SONY」はスポンサーだから、それはそれでいいとして。
あの、フォノグラム(?)の女はなんだ。
35年前はまだ「PLAYBOY」の時代だった。インターネットだって、接続したら必ず見るサイトというのが「PLAYBOY」だったその時代なら、まだ街角の巨大な女性のフォノグラムは「未来の現実」だった。
でも、いまは違うねえ。
女の描き方(人間の描き方)がすっかり違ってきているのに、映画では昔のまま。これでは「未来」へ時間が進んだというよりも「逆戻り」した感じ。「逆戻り」して、それが妙になつかしい(肉体の記憶を刺戟する)というのならいいけれど、こんな映像なつかしくもなんともないね。
うさんくさい、というのとも違う。
見ていて「肉体」を刺戟してくるものがない。
主人公の「お相手」の普通サイズのフォノグラムの女が、現実の女とシンクロしてセックスをするというのは、「設定」としておもしろいけれど、やっぱり古くさい。「未来社会」でも女は男の気を引こうとしている。女は男のセックスを満足させるために奉仕する、というのがげんなりする原因だなあ。
欲望のかたちが古くさいままで、「未来」とは縁遠いのだ。
主人公を女にしてしまえばよかったのだ。シャリーズ・セロンの「アトミック・ブロンド」みたいに。
どっちにしろ、アンドロイド。男の肉体とかわらないしアクションをしても不思議はないし、「頭脳」だってAIなんだから男女差はない。優劣はない。それに女の方が、「妊娠する」ということを通して、新作に描かれることと深く関係してくる。「妊娠させる→子供が生まれる」という視点ではなく、「妊娠する→子供を産む」という視点で見ると、違ったものが見えてくるはずである。アンドロイドが「肉体」として迫ってくる。
全体が古くさい男の視点をひきずったままなのが、この映画の大失敗の原因である。「子供を産む、子供が生まれる」という驚きではなく、「物を作りだす」という視点のまま全体が動いている。「物を作りだす」というのを「物を産み出す」ともいうけれど、女の感覚では「子供を産み出す」とは言わないだろう。その違いを、女が主人公なら、もっと繊細に描き出せたはずである。あるいはもっと生々しく描き出すことができたはずである。
古くさい男の視点をひきずっているから、「論理のクライマックス」である「自分が秘密の子供」かもしれないという謎解きが「感傷」に終わってしまう。まるで少女マンガみたいというと、少女マンガファンに怒られるだろうけれど。主人公が女なら、自分で釘の世代の母親になるという「世界創造」が可能になる。つまり、「物語」が「抒情詩」ではなく「神話」にまで高めることができる。
あ、謎解き、抒情と書いて、急に思い出したが、この映画にはナボコフが「引用」されているらしい。(クレジットにナボコフの文字が出てきた。)「本」が出てきて、そこにナボコフの文字があった。赤い表紙の本。タイトルはよく見えなかったが「ロリータ」か。ナボコフというと「青白い炎」を思い出すが、あの一篇の詩を他人が註釈するという方法からこの映画を見直すと、まあ、主人公が前作を註釈しながら別の世界へ入っていく(自分自身の世界へ入っていく)という構造を持っていると見ることもできるのだけれど。
そんなふうに見たって、やっぱり古くさい。
「未来の荒廃」が古くさいし、そこに描かれる女がなんとも古くさい。女が古くさいということは、男の方はもっと「どうしようもない」くらい古くさいということ。
映画のなかで、男の物の見方はどう変わったか、男の視点は映画をどう変えたか、変えなかったかという「資料」にはなっても、払ってみるに値する作品とはとても言えない。
(tjoy博多、スクリーン6、2017年10月29日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
Arrival [BD/Digital HD Combo ] [Blu-ray] | |
クリエーター情報なし | |
Paramount |